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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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死と再生を司る者ー2

 “死と再生を司る者“――――そう名乗った男を俺は凝視した。

 特徴的な長い黒髪、彫りの深い細面の美形だ。妖しく輝く切れ長の瞳は紫色、身に纏っているローブは髪と同じく真っ黒で……黒づくめだと思った。

「死と再生……?何だそれは」

「彼は私に能力(ちから)を授けてくれた人なの」

 ルシフェルの言葉に男は反応した。

「違う。私はヒトではない」

「じゃあ何て呼べばいいの?神様?それとも死に神……?」

 しっくり来るのは死に神だと思った。黒づくめの服に鎌でも持たせれば立派な死に神に見えそうだ。

「人間はさまざまな名前で私を呼ぶが、私には名などない。あったとしても、人間には発音出来ない」

「俺は別にあんたの名前なんて知りたくもないが、何の為に現れたかぐらい教えろよ」

「ナツキ!」

 ケンカ腰の俺にルシフェルは慌てて俺の腕を引っ張った。

「私は命を与え、そして奪う――――つまりお前だ」

「俺……!?」

 俺を指差し、男は続けた。

「私はお前であり、全てである。水も風も木も、虫も私だ」

「へええ……?神様だか何だか知らないが哲学とか宗教の話をされても俺、わかんないぜ?」

「わからなくていい。私はお前達がこれ以上均衡を破るのを見逃せなくてここに呼んだのだ」 「さっきから言ってるその均衡って何なんだ?」

 俺の質問に“死と再生を司る者“は無表情のまま語り出した。

「命あるものは必ず死を迎える。肉体の終焉によりその者の生涯は幕を閉じ、魂は肉体が持っていた記憶を失い、また新な肉体の宿主となる。わかるか?」

「ああ」

「肉体の終焉が訪れる時期は個々によって違う。自然災害でもない限り、同じ場所で集中的に生物が命を落とすのはおかしいのだ」

「……そうだな」

「五十嵐夏生、お前が投身自殺を図った日を皮切りに一つの地域で次々と人間が失踪している。これはお前の仕業だな?」

「……ああ」

「その人間達はルシフェルが笠原美夕の空想を元に創った世界――――フェアビューランドで姿形を変えて暮らしている。そうだな?」

「ああ、そうだよ!何か文句あるのか」

 いちいち責められているようで不愉快だった。

 ルシフェルとの契約で、百人転生させれば俺もフェアビューランドで人生をやり直せる。

 その為に、俺は死を望んでいる人間を次々と転生させた。

 たしかに一つの街で幾人もの人間が影も形もなく消え去るのは不自然だ。そろそろ騒ぎになってもおかしくない。

 そして……俺は異世界転生を望んでない人間をも無理矢理向こうに送った。

 学校でイジメに加担した奴らを、家畜として……。

 あれは身勝手な復讐だった。

 そのことで責め苦を負わなくてはならないのは俺だけだ。

 フェアビューランドの存続を左右することじゃない。

 フェアビューランドを消滅なんてさせない。

 あそこは美夕が新しいスタートを切る夢の場所なんだ。

 そもそもこの男に一つの世界を消滅させることなんて出来るんだろうか?――――出来そうだな。先程の妙な光の球体、あれは、魔法か何かなんだろうか。

 ルシフェルの怯え方は尋常じゃない。今も俺の隣で震えている。

 それに、彼女は「彼は私に能力(ちから)を授けてくれた人」と言っていた。

 もしかしたら本当に神とか死に神……?

 くそ、どうすれば――――俺は、どうすべきなのか……。

「……」

 わかってるだろ、と自分自身の声がする。答えはもう出ているじゃないか。

 誠実に生きるって決めたばかりじゃないか。

 意を決して俺は口を開いた。

「俺が……責任を取る。何でもするからフェアビューランドを消滅させるのはやめてくれ」

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