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たとえばこんなディストピア  作者: おきをたしかに
*キスから始まる異世界転生*
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夢の世界-2

「ルシフェル、ここはどこだ?」

 部屋に現れたルシフェルに尋ねると、彼女はニッコリ笑って言った。

「フェアビューランドよ。こないだ来たでしょ」

 その笑顔が、何故か夢に出てきた美夕とダブった。けれど……。

「ナツキ?」

 覗き込む彼女の顔は、美夕とは全然違う造りだった。だけど、どこかで見たことがある。そんな気がした。

「なんでフェアビューランドに?百人のノルマ達成してからじゃなかったのか?」

 そう尋ねた俺にルシフェルは目を丸くし、ぶつぶつ言い出した。

「覚えてないの?あちゃー、やっぱり頭打ったんだ……でも、あれはナツキの自業自得ってやつだわ……だって……」

「何だよ、覚えてないって……たしかファミレスで飯食ってて、それから……」

 それから?あれ?覚えてないわ。

「ファミレスで喧嘩したの覚えてる?ナツキがしつこく、なんで俺の好物がハンバーグって知ってるんだって言い出して……」

 何となく、覚えてはいる。しかしそんなに怒ることでもないような……。

「俺の好きな食べ物を教えたことなんかないのに何で知ってるんだって……めちゃくちゃ怒って、大変だったのよ。お店の人もお客さんもみーんなびっくりしてたんだから。だいたい、誰でも好きでしょ?ハンバーグ」

「ハイ、その通りです、たぶん。嫌いって人には会ったことありません……」

「そうでしょ?なのにナツキったら大声で怒鳴るんだもん」

 虫の居所が悪かったのかな、俺。覚えてないけど。

「お前が俺のことを知ってる訳がない!!って怒り出して、お店を出てからもずーっと怒ってて……」

「で?その後どうなったんだ?」

「ナツキんチに帰って………したの。というかされたの、無理矢理」

 えっちなことを……とルシフェルは小さく言った。

「む、無理矢理!?」

 いかん、それは犯罪だぞ。ヤバい。記憶にない。全然……大丈夫か、俺……。

 でも、俺が自分勝手な欲望をルシフェルにぶつけて、ルシフェルは文句言わずに受け入れるってのが俺達の関係なので……いつもとあまり変わりない感じでそうなったんだろうな。

 ルシフェルによると、イロンナコトやってる最中にいつもはしないキスをして、こっちに来てしまったものの――――何しろホラ、最中だったもんで……上手く体勢を安定させることが出来ず、俺は地面で頭を強打し気絶したらしい。

「カッ、カッコ悪……っ」

 何と言っていいかわからずルシフェルを見ると、ジト目で俺を睨み上げていた。

 何も言えない俺を見てため息を一つ零してから、ルシフェルは俺に手を伸ばした。

「頭、痛いの?大丈夫?」

 さわさわと髪に触れてくるあたり、どうやら本気で傷付いたり怒ったりしている訳ではないらしい。

 なんと優しいことか。

 今までの経緯から考えるとルシフェルは口では「私は主人。ナツキは奴隷」とか言っているが、実際はその逆だ。主従関係ごっこをやっているだけなのだ。

「え、えーと、ご主人様……?」

 機嫌を取ろうと笑顔で(かしづ)く素振りを見せても、彼女はまだこちらを睨んでいる。

 怒りをあらわにしているつもりだろうがな、お前、それは萌えポイントだぞ。

 ルシフェルは本当に可愛い。マジで、今ここで押し倒したい。ちょうどベッドもあることですし……。

「ナツキが悪いんでしょ、謝って!」

「ああ、ごめんな……仲直りの印にさ、今度は優しく……」

 抱え上げようとすると、ルシフェルは猫のような動作でそれをかわしてくるりと笑顔で振り返った。

 スカートがひらりと翻って視界に入ったのは、細い、美夕の………いや、ルシフェルの足。

「……」

「行こ?ここの案内、まだだったでしょ」

 そう言って彼女は呆けた面の俺の手を取り、部屋の外へと連れ出した。


◇◆◇


 ルシフェルに手を引かれて外へ出てから自分達のいた建物を振り返ると、それは城と呼ぶにはこじんまりとした、しかし煌びやかな城だった。

「私のお城なの!もうすぐ王子様がやって来るのよ」

 嬉々として語るルシフェルを見ながらふと疑問に思う。

 王子様?他に相手がいるのか。

 なのにお前、毎晩俺とアンナコトやソンナコトを……。

 まあ俺のこと奴隷呼ばわりしてるくらいだから、俺とのことは火遊びみたいなもんなんだろうな。

 若干傷付いたものの、問い詰めたりはせずに馬車に乗る。

 かぼちゃ型のぽってりした可愛い馬車……何から何まで乙女ちっくワールドだな。

 以前来た時にも思ったが、フェアビューランドは子供の頃に読んでもらった絵本の中の世界そのものだった。

 だが細部はまだ見ていない。どんな場所なのか、どんな奴らがいるのか。

 よし、転生前の下見だ。じっくり見せてもらおう。

 ウキウキワクワクしながら馬車からの風景を楽しんでいた俺は知らなかった。隣に座ったルシフェルが、今にも泣き出しそうな顔をしていたことを……。

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