表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
32/37

32.宇宙で格闘しました

 幼気な少女に襲いかかる飢えた獣がごときケティーム艦隊。

 その後方片隅に、三隻の駆逐艦が遊弋している。一番艦はヴォルフ大佐の乗る指揮駆逐艦ランツァである。同型の二番・三番艦を後方に引き連れていた。


 指揮駆逐艦ランツァの戦闘艦橋で、真剣に3Dデスプレイを見やるヴォルフ大佐。今回は真剣な眼差しだ。


「レーム少将乗艦の戦艦ディバージョン被弾。戦列を離れます。指揮権が我が艦に委譲されました!」 

 旗艦の名がそのまま付いたディバージョン艦隊は、艦船の九十九%をロボット艦が占めている。


 レーム少将の戦艦ディバージョンと、ヴォルフ少尉の駆逐艦ランツァだけに人員が乗艦し、艦隊をコントロールする。よって、指揮戦艦だの指揮駆逐艦だのと言われるのだ。


 帝国に対し犬のように忠実な武人であるレーム少将は、無謀にも乗艦を前面に押し出し、陣頭で指揮を取っていたのだ。

 被弾して当たり前である。この場合、軍上層部の人事が裏目に出た。


 二隻しかない戦闘指揮艦の一方が戦列を離れた以上、もう一方の戦闘指揮艦が艦隊をコントロール。艦隊運営における特徴的な指令系統である。


 ――子供の頃、こんなシーンを3Dアニメで見たことがあった――。


 ヴォルフ大佐は情報画面を見ながら虚ろに考えていた。

「俺、あっち側の人間に憧れて軍に入ったんだけどな……」

 全く報告を聞いていない。というより指揮権問題を気にかけていないのか、或いは当然の成り行きだと思っているのか……、ファム号を示す赤色の光点をじっと見ている。


 惑星ドライアンクルまでの進路上に展開する戦闘艦を蹴散らしながら、意固地なまでに一直線に突き進むファム号。


「混戦ではこちらの長距離攻撃を封印される。彼女は中・近距離戦で無敵。仕方ない、直接対決をしよう」

 嬉しそうに笑うヴォルフ大佐。指の関節を鳴らしながら、手を揉み揉みしている。

「最終防衛戦張れ。ランツァ前進! ファム号に接触するぞ! 味方火線に当たるなよ」

 三千フィートクラス大型戦艦がひしめく空間を千フィート級駆逐艦三隻が、我が物顔で進んでいった。




 手当たり次第に大型艦を打ち落とし、無人の野を行くが如く進むファム号。

「いいんですか? こんなに破壊し尽くして。乗ってる人達は大丈夫かなー?」

 ビビリが入ったブレットをロゼが叱りとばす。

「何言ってんの! これは戦争よ。殺るか殺られるか、死にたくなければ敵を殺すしかないでしょ! 連中を殺らなければ、もっと人が死ぬのよ!」

 血走った目をしているロゼ。傍目にコワイ。


「まあ、まあ」

 ダニエルが穏やかに割って入る。

「ここの船は殆どがオートマチックで行動するロボット艦だから、人が死ぬ心配はまず無いんだよ」

 口振りは、すっかり喫茶店のマスターだった。


「集中砲火来ます。回避不能。ニャ!」

「バリア出力上げい! 衝撃に備えろ!」

 ファム号を上回る巨人の手で捕まれ、振られたような衝撃が伝わる。他空間でのそれとはまた違う激しい振動だ。


 エネルギーをねじ曲げ、跳ね返した後のクリアーな視界の先に、駆逐艦一隻の鼻面があった。

 砲火をめくらましにして、接触距離まで近づいたのだ。


「ここから先は一歩も通さねぇ」

 不適に笑うヴォルフ大佐。一対一の零距離接近戦に持ち込んだ。


「てぇーっ!」

 ヴォルフ大佐の合図で、駆逐艦甲板上部と下部に一機ずつ付いている二連装主砲が二機四門、決死の爆光を放つ。

 四条の光弾は、しかしファム号には当たらなかった。


 ファム号主操舵手のニケが、人間の反応速度を超えるスピードで反応・操作。ブリッジしつつ光弾の下をかい潜ったのだ。


「やるなっ! 後部上甲板ノズル最大噴射!」

 ヴォルフ大佐が命じると、最後尾上部のバーニァが青白い炎を噴く。反作用として艦首を定点に艦尾が振り下ろされる。急速一回転。


 振り下ろした先にはファム号がいた。


 ニケはファムの右腕で斜めにそらしつつ、左へステップを切った。


「甘い! 艦首左舷ノズル最大噴射!」

 先程の重い船尾が回転する速度より数倍早く、軽い艦首が回転。斜め上から、踵落とし気味にファム号の脳天へ突き刺さる。


 突き刺さると見せてファム号は背を反らす。

 背面飛びの選手が、バーをクリアーするような格好でギリギリ駆逐艦をかわした。


 防御をバリアーに頼りきったファム号の弱点を突かれた。

 物理的な衝撃による直接攻撃。ファム号の柔らかい外装では防ぎきれない。


 ファム号内で、繰艦に関し口を挟む者はいない。艦長もロゼも、ニケ操舵手の反射神経とネコとしての格闘センスに全てを任せている。


 そう、格闘戦。


 ドライアンクル星系において、人類史上初めての宇宙船同士による格闘戦が記録された。


 ファム号の背中とヴォルフ大佐の操る駆逐艦の左舷側面が、擦れそうになる程接近する。

 ファム号は体を捻ってかわし、一瞬にして駆逐艦と向き合い、体勢を整えた。


 丁度、駆逐艦の上部主砲の直ぐ横にファム号がいる。砲塔を回転させて撃ったとしても正面だ。ファム号は避けるであろう。

 ファム号も不利な体勢にあった。有効打を与えるには近すぎた。いわゆる零の間合い。

 両者責めあぐね……しかし、ファム号はその場でクルリと右回転し、背中を向けた。


「!」

 ヴォルフ大佐は戸惑った。せっかく正面を向いたのに何故背を見せるのか?

「逃げるのか? あ、マズイ!」

 そう思った瞬間、駆逐艦に強烈な衝撃が走った。艦首ミサイル発射管が砕け散った。


 ファム号の右足が真っ直ぐ九十度、体側面に沿って横に上がっている。そのまま膝を曲げた格好で、足の裏部分=ヒール部分が駆逐艦艦首付近の横っ腹に突き刺さっていた。ヒールは、柔らかい装甲を持つファム号の数少ない硬質部分である。


「ローリングソバット!」

 操舵手ニケが、得意げに叫ぶ。


 駆逐艦の薄っぺらい装甲板や構造材・空気が漏れ、辺りに散らばる。

「なんの!」

 ヴォルフ大佐は左舷艦首に受けた衝撃をそのまま殺さず、左舷ノズルを点火させた。同時に右舷後部ノズルも最大噴射。


 駆逐艦中心部側に位置するファム号を中心点に、駆逐艦が独楽のように定点回転した。

 一番太くて重い艦尾エンジン噴射口が、ファム号正面に迫る。


 駆逐艦の回転スピードは早い。しかし、充分かわせるスピードだ。

 ニケはそう判断して、ファム号をスウェイバックさせようとした。


「まて! 攻撃を受けろ! バリア集中」

 ニケはオイスター艦長に命じられるまま、反射的にファム号の両腕を胸の前でクロスしガードした。同時に全速後退させる。


 ファム号の腕に駆逐艦の後部、一番太くて重い箇所がまともにヒットした。

 ファム号は、体を折り曲げはじき飛ばされる。

 反作用で駆逐艦はエンジンノズル部を大破させる。後部に装備されていた対空砲が二門千切れ飛び、船体からエネルギーが漏れ出した。


 腕にバリアーを集中させ、さらに急速後進をかけていたので見た目程の衝撃はないが、後方に大きく跳ね飛ばされた。

 ちょうど、バットでボールを打ったような……。


「やった! あ、しまった!」

 ファム号にキツイのを一発ヒットさせたはずのヴォルフ大佐が臍を噛む。


 ファム号の飛んでいった先は……。


 青い惑星が、大きく一面を占めていた。


 ファム号はクルリと反転し、惑星ドライアンクルに向けて加速していった。

 今度こそ、ファム号を遮る邪魔者はいない。ヴォルフ大佐はファム号を取り逃がした。


 ヴォルフ大佐は、戦闘艦橋から通常艦橋へ移動した。通常艦橋は、直接窓から外を見ることが出来る。

 ファム号との戦闘で各所を誘爆させている「二番艦」を横に据え、ファム号を肉眼で追う。


 ファム号は、ドライアンクルへの理想的な進入コースを取りつつあった。

「目的は二つ。ドライアンクル壊滅とファム・ブレィドゥー号破壊。第二ラウンド開始……か」


 ヴォルフ大佐は自嘲気味に笑みを浮かべ、ブリッジ要員に指示を出していった。

ネコの反射神経とファム号のパワー。

動物を相手に戦うとき、人は武器を持ってやっと同条件といいます。


ファム・ブレイドゥー。どんな意味なんでしょか?

ファムは朱雀に似た幻獣のこと。

ブレイドゥーは、小僧とか小娘とか、未熟なガキという意味。ニュアンス的には、鼠小僧とか弁天小僧の「小僧」に近い。

ファールはファムによく似た現実の鳥。レッサー・ファムと呼ばれています。また、同じ発音ながら綴りが違うファールに、影とか破壊とか、マイナスの意味持つものがあります。



次回33話「宇宙に向けて大砲をぶっ放しました」

写生大会開催!?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ