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30.宇宙で水槽に浮かびました

 一方、艦長席に座ったオイスターは、嬉しそうに指示を飛ばしている。


「DSS・ドライブ準備! 超長々距離他空間航行である。ブレット! 航路計算確実に行え」

「了解!」

 さっきまで熱を出して、ヘバっていた人間とは思えない元気さである。

「ロゼ、ブレットの航路計算チェック! ……力を貸してやってくれ」

「了解!」

 喜々として、ブレットの隣りに座りパネルを操作する。良いコンビだ。


 オイスター、続いての指示。

「シャハト博士。アンチ天然痘ウイルスの量産は、二十時間で可能ですかな」

「まず不可能」


シャハト博士の言葉に、盛り上がっていたブリッジが静まりかえる。


「だが、私なら可能だ。時間内にドライアンクルの住民の数だけ作ってみせる」

 未だに対菌装備のシャハト博士は表情一つ変えず、回れ右をして艦橋出ていく。


 ロゼが呼び止めた。

「アーシュラ様をお願いします」

「言われるまでもない。……我らハスクバナードとアトラース人にとって、かけがえのない人だ」

 そしてブレットの方に視線を移した。

「ブレット殿。後で医務室まで顔を出したまえ。貴兄の体力を完全回復させてあげよう。……私が新しく開発した怪しい、もとい……最新式バイヲ式治療器具で……フフフ」

「いえ、なんとか自力で回復したいと思います」

 体に悪い方の汗をかきながら、ホロスコープとにらめっこするブレット。


「航路チェック完了。イケます艦長!」

「DSS・ドライブ・プログラム始動!」

 深部より徐々に唸りをあげるファム・ブレィドゥー号。気のせいか? 機械のはずのファム号に気合いを感じるのは?


「ファム・ウイーング(高機動モード)展開!」

「その名前、早く変えろ」

 いつもの艦長の突っ込みと同時に、お馴染みになった光の翼を広げる。


 ファム号は踵を返し、元来た方向へ一気に加速する。

 羽ばたく様は、春の幻の様。

「ハイパー・DSS・ドライブ!」

 光の粒子を残して、ファム・ブレィドゥー号は通常空間より姿を消した。






「デスペラードより入電『予定宙域に人形現れず』以上」

 ハンマーヘッドシャークに似た姿を持つステルス艦、デスペラードからの連絡だ。


 地球軍超ステルス探査艦デスペラードは、予定時間になってもファム号を捕捉できないでいた。

 自分を中心に数十光年の他空間次元振動を捕らえることが出来る能力を持っているのにも関わらず。

 その網にファム号が引っかからない。


「これだから予想のつかない連中は困るのだ! ダニエルは何をやっているのか?」

 ボッカルド提督は、苦い物でも噛んだかのような顔をして怒鳴った。

 

 怒鳴られたのはダニエルの上司、情報部大佐である。

「ダニエル大尉が、人形側に寝返ったのではないでしょうか?」

 それとなくダニエルに責任を負わせようとする大佐。


「馬鹿な! あのクソ真面目な男に、そんな気など起こすはずがあろうか!」

 だが、正しいのは大佐の方だったりする。


「どうせ行き先はドライアンクルだ! 人形が本気になれば、一日で到着出来るはずだ。ケティームに知らせてやれ」

 敬礼して、連絡のために退室する大佐を目の端で追うボッカルド提督。

「廃艦とはいえ、海賊共に貸し与えてやった巡洋艦を一瞬で沈黙させた人形の戦闘力。ケティームのロボット艦隊では、大した戦闘にはならんだろうて」

 気付けにブランディーを口に含む。


「絶対的な大局を見ずに、利己的な目的で行動する民間人。虫酸が走るわ!」

 ブレットにとってドライアンクルの人々を助ける、ということが絶対的大局である。

 結局、双方とも利己的な相対的大局を論じているに過ぎないのだが……。






「ちょっとヤバイって、怪しすぎますよ!」


 他空間航行が安定した事により、シャハト博士のラボに強引にロゼに連れてこられたブレットの第一声であった。


 巨大な水槽に謎の水溶液が張られ、ネコ耳達が梯子を使って無造作に白い粉を放り込んでいた。水面にはボコンボコンと泡が立ち、パープリッシュブルーの煙がたゆたっている。

 いかにも怪しい実験装置っぽい水槽の前に、シャハト博士が立っていた。


「服を脱いで水槽に入りなさい。さすれば体調が百%、いや百五十%は回復するであろう。フハハハハハ、こら! 逃げるな!」

 脱兎の如く駆け出すブレット。だが、シャハト博士に襟首を捕まれて放り投げられた。


「フィールドが病院である限り、最強の存在である医師に、患者風情が敵うはずあるまい!」

 学会で冷や飯を食っていた理由の一端が、そこはかと匂う。


 シャハト博士は、右肩を大きく回して近づいてきた。肩からゴキゴキと音がする。

「アンチウイルスを接種したとはいえ、君はまだ熱が下がってない状態だ。医師として、そんな危険な状態で患者を放置できない。患者の健康のためには、殺人をも厭わぬぞ!」

「いや、絶対なんかおかしいですって!」

 迫り来るシャハト博士に、尻餅を付きながら後ずさるブレット。こつんと背中が何かにぶつかった。


 振り向くとロゼが嬉しそうな顔をして立っていた。イタチのような目をしている。

「観念しなさいブレット」

 ロゼに、両肩を恐ろしい力で捕まれた。ブレットの握力より遙かに強い。


「うむ、ブレットはロゼに任せた。素っ裸にして回復槽に放り込んでしまいなさい」

「「えーっ!」」

 真っ赤になったロゼとブレットの、二人の声が重なった。



 十数分後。痣だらけになったブレットが、水槽で意識をなくして浮かんでいた。

シャハト無双!

あきらかにクスリ愛用してます。ありがとうございました。


次回31話「宇宙で浴びせ倒ししました」


残り約6話程の予定!

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