24.宇宙で上下を決めました
三日間が、何の変化も出来事もなく過ぎた。
ただ、やたら各所で盗聴器が発見されただけだった。
「オーソドックスな内蔵式から、ネジ・ゴミに擬態したもにょ。液体ペンキ状の物など、十三種類、四十二点が確認しゃれまちたニャっ」
スーパーで使う手押し車のようなカーゴに、盗聴器を山盛りにして報告するネコ耳。彼女は諜報関係部に所属する黒猫隊の一匹である。各種機器と動物的カン――ほとんどが理由のないカン――によって全ての盗聴器を拾い上げたのだ。
「よしよし、帰ったらニッポンバーシティで売り飛ばして、新鮮な魚でも買おう」
ブレットが、ネコ耳の頭をナデナデして答えた。
「ニャーオ!」
ネコ耳は嬉しそうに一声鳴いて、下がっていった。
「そろそろ時間です」
珍しくスカート姿のロゼ。上から下まで、桜色を基調にまとめられている。
チラチラとブレットの方を見ているのだが……ロゼの変化に、ブレットは全く気が付いていない。
ほっぺたをふくらませるロゼである。
ブレットの彼女イナイ歴も、更新間違いない所となった。
ファム号は最後の他空間航行を終えようとしている。計算では、ビュエル同盟国領・惑星モンティアルのすぐ近くにDSS・アウトするはずだ。
カウント・ダウンが始まり、最後の長時間他空間航行がもうすぐ終了する。
何回も他空間航法を成功させているので不安はないはずだが……、どうしてもDSS・アウトするときは緊張する。……ネコ耳達の表情は読みとれないが……。
「DSS・カット!」
ファム・ブレィドゥー号は通常空間に姿を現した。みんな、ホッと胸を撫で下ろす。
計算通り、惑星モンティアルの外郭に出現した。ここからは一直線にモンティアル目指して通常空間を航行するのみ。
外惑星周辺で、ビュエル軍の軍艦がピッタリとファム号に張り付く。
今から思えば、キラー・ピーラー・ウイルスの提供を承諾したのも、ファム号の情報を仕入れるのが主目的だったのかもしれない。
もっとも、情報を仕入れるのはビュエルだけではない。ファム・ブレィドゥー号も持てる情報収集能力をフル稼働させて、逆情報収集を行っている。
「ビュエル軍の暗号なんて、子供相手の暗号クイズみたいな物ね。ハッキングし放題よ」
情報収集の為、ロゼは特別チームを組んだらしい。
「どんどんファム号にくっついて来なさい!」
くっついたのは駆逐艦と巡洋艦のようだ。
ビュエル軍の艦船は、やたら角張っている。六角柱を寝かした基礎デザインに、なにやらゴテゴテと砲門その他がハリネズミのように突き出ていた。
盛んに小型機を飛ばし、必死にファム号の後を……ついて来られずに振り切られていた。
内惑星宙域でも監視艦艇を振り切り、惑星モンティアルを周回する港湾衛星に入港した。
盛大に写真を撮られたようだが、外見で船の内部構造を解析しよう! などとすると、トンデモナイ間違いをするのがファム号である。
「どんどん撮って下さい」
ロゼは、意地の悪い笑みを浮かべながらこの状況を楽しんでいた。
さて、キラー・ピーラー・ウイルスの受け渡しである。
ファム号=地球サイド、ダニエル大尉は勿論だが、甲板業務の長であるブレットも、自ら名乗りを上げて受け取り役に回った。
ファム号の荷受け用小甲板前で、自走式キャリー一台とビュエル軍人が五名、扉が開くのを待っていた。ビュエル側の用意した、自走式キャリーに問題のウイルスが積まれているのだ。
搬入口の通用ドアが開き、ダニエル大尉とブレットが出てきた。
二人の背後で、ドアがすぐに閉まる。
情報収集に全神経をつぎ込んでいるビュエル側軍人が緊張した。
簡単な挨拶の後、ダニエル大尉が必要な書類の手続きをスムーズに済ましていく。
カメラや音声といった探査用機器類が、ファム号の方に注意を集中させていた。
眼前のビュエル軍人達が書類のやり取りに注意を向けた隙を狙い、ブレットが合図を出した。機器類による監視は無視だ。
ブレットの後ろで、搬入口が音も立てずにいきなり開いた。
「では、アンチ・ウイルスを搬送させていただきます」
有無を言わせぬ言い方で、ブレットがビュエル軍人達と荷物の間に立った。
ネコ耳数十匹がわらわらと現れ、ファム号の自走キャリーにウイルス入りケースを移し替える。
続いてビュエル軍人と荷物の間に、パワードスーツが二機割って入る。グリファ・グリフォン、身長二.五mのゴリラサイズ。
大口径の銃をチラつかせ、ビュエル軍人と荷物を力ずくで分断した。
このパワードスーツ二機は、ブレットの事前手配によるものだ。
この間に、ウイルスを積んだ自走キャリーは、ファム号の奥へ消えていった。グリファ・グリフォンも機敏な動きを見せ、自走キャリーの後について引っ込んだ。
後は、わざとらしい音を立てて、搬入口が閉まるだけだった。
何か言いたそうなビュエル軍人達を残し、ブレットとダニエル大尉は、悠々と引き上げてきた。
扉の内側で、一部始終を見ていたロゼ。ブレットに従順なネコ耳達と、彼の手際の良さに驚いていた。
「どうやってネコ達を手なずけたの? あの子達が簡単になつくとは思えないわ!」
ネコ耳達の態度に不思議がったロゼが、ブレットに訊ねた。
「いや、まあ、一応社長やっとりマスので」
いいや、鰹節である。
前回の航海での出来事だった。
ブレットは、以前の約束通り削り鰹節パックを美味しく頂ける期限ギリギリの分も含めて、相当数持ち込んだ。
野生を剥き出しにし、暴徒と化して群がるネコ耳達を前にして、ブレットが叫ぶ。
「悪い子には鰹節をあげないよ!」
海を割るかの如く道が一直線に出現した。何かの映画の様だ。
ズイズイと偉そうに、しかし内心ビクビクしながらブレットは、鰹節を詰め込んだ完全密封ケースが置いてある棚に進んだ。
ケースを開けて削り鰹節パックを取りだす。パックを頭上高く振りかざした時、ネコ耳達はブレットにひれ伏した。
「行儀良く一列に並べ! さあ、迷える子猫達よ、我らが血肉となる喰を分け与えようではないか! 良い子は割り込んではいけないぞ!」
供物のお下がりを信者に分け与えるかのように、一匹ずつ鰹節パックを手渡すブレット。この時を堺に、ブレットとネコ耳達の間に上下関係が構築されたのだった!
餌付け……。
次回25話「宇宙交通事故の危険を目の当たりにしました」
夜中、無灯火で対向車線を走る自転車の君!
親からもらった身体を大切にしよう!




