↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あなたの心の中に、他の女性がいることは知っていました。  作者: Kouei


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/17

後日談:3 幸せになれない女 2(side:ロアンヌ)


 寄宿学校時代で思い出すのは…一人の男。  

 

「ディオン…」


 一途な眼差しで見つめ、いつも私を求めていた男。

 私からの別れの言葉に、縋(すが)るような瞳を向けていた男。

 

「そうよ、私にはディオンがいるじゃない!」


 私は新たな希望を見つけた。



「お、おまえっ そんな高価なドレスどうしたんだっ!」


「祝賀会に着ていくために、元夫から貰ったお金で買ったのよっ 必要なお金はお父様に渡しているし、元夫からのお金を私がどう使おうと勝手でしょっ」


 文句を言う両親を後目(しりめ)に、私は荷物を自分の部屋へと運んだ。


 働いたお金は生活費として父に渡している。

 今まで散々家のために働いた。

 ドレスの一枚くらいで、文句を言われる筋合いはない。


 それにこれは自分への投資。


「ほら、きちんと着飾ればやっぱりきれいだわ…私」


 化粧を施し、ドレスを身に付け、鏡の向こうで微笑む自分に見惚れていた。

 

「ディオン…早くあなたに会いたいわ…」



 6年ぶりにあったディオンは立派な子爵家当主となっていた。

 短かった髪は伸び、身長もあの頃よりも高くなっていた。

 精悍な顔立ちは年齢を増した事でさらに調(ととの)い、大人の色香を漂わせている。


 私に会った彼は、戸惑っていた。

 それは私を意識していると言う事。

 まだ彼の心の中に私がいる…


 だが、彼の友人であるエルジョンの言葉に、私は固まった。


「あ、先生、こいつ結婚したんですよっ 半年前に。だから新婚ホヤホヤ」


「…ご結婚されたのね、おめでとう」


 そうよね、彼ももう…結婚していてもおかしくないわ。

 けど…結婚してまだ半年。


 それまでは独身でいたってことよね?

 やはりそれは…私の事が忘れられなかったからではないの?


 結婚したばかりで子供もいない。



 ならば……奪えばいい。



 私はディオンを人気のない場所へと誘導し、口づけた。

 彼は一瞬驚いたが、すぐに私を受け入れてくれたわ。

 

 祝賀会を抜け出し、私たちは別のホテルへと移動した。


「ロアンヌ…っ」


「ディオン…愛しているわ」


 彼は私を貪(むさぼ)るように求めた。

 何度も…何度も。

 眠りについたのは空も白々しくなった頃だった。


 彼が離縁して、私と再婚となると世間の目がうるさいだろうか。

 少し時間を置いた方がいいのかもしれないわね。

 でも、今度こそ幸せになれるわ!


 そんな事を思いながら、眼を閉じた。


 しかし翌朝目覚めると彼の姿はなく、ベッドサイドに数枚のお札が残されていた。



「…な…によ…っ これは! 馬鹿にしないで!」



 まるで娼婦のような扱いに、怒りが沸き上がった。

 お札を握り締めながら、悔し涙が溢れる。

 

 私を愛してくれていたはずのディオンが、愛人を作って私を捨てた元夫の姿と重なった。



「…っ どうして…っ! どうして私を捨てるの…っ!!」



 子供がいたら、元夫に捨てられる事はなかったのに!

 子供さえいたら!

 子供さえ……



 私は自分のお腹に手を当てた。



「………もしかしたら…妊娠しているかもしれない。ううん、絶対妊娠している!」



 一晩中求められた。

 一晩中愛しあった。

 可能性は十分にあり得るわ!


 私は唯一の希望に懸けた。





「妊娠していますね」


「本当ですか!」


 月のものが止まり、私は町医者にかかった。

 やっぱり妊娠していたわ!


 医師に妊娠証明書を発行してもらった。


 ディオンを呼び出し妊娠した事を告げると、彼は世界が終わったような表情を浮かべた。


 あの夜…一晩中愛し合ったにもかかわらず逃げた彼が、妊娠を喜ばない事は覚悟していた。


 でも…子供がいれば私を捨てられない。

 私との関係をなかった事にはできない。

 奥様に隠し通せるはずもないのだから。



 そうして奥様と対面したあの日 ――――


 

 おとなしそうな顔をして、私の妊娠を知ると掴(つか)みかかってきた。

 あんな罵声を浴びせられるとは思いもしなかったわ。


 負け犬の遠吠えね。

 うっとおしい。

 でも結局、彼は私を選んだのよ!

 


 そして彼との離縁が成立し、私と籍を入れたディオン。

 


 “子爵夫人”



 「悪くないわ…」


 これで子供が生まれたら、この幸せは盤石なものとなる。

 早く会いたいわ、我が子に。


 しかし、最近ある違和感を感じていた。

 そろそろ4か月になるのに、あまり膨らまないお腹。胎動も感じない。


 言葉に表せられない不安が押し寄せる。

  

 そして不安は、現実のものとなった。




「きゃあああああ!!」


「奥様!? いかが…!!」


 私の悲鳴を聞きつけ、部屋に飛び込んできた侍女。

 真っ赤に染まった寝台を見て、絶句した。


「お医者様っ 早くお医者様を呼んで!!」


「は、はい!」


 ああ、いやよっ!

 子供にもしもの事があったらどうしようっ!!

 せっかく子爵夫人になれたのに…っ


 私は子供の事を思いながらも、自分の立場が危ぶまれるのを心配した。

 そして診断は、思いもよらなかった結果をもたらした。



 想像妊娠(偽妊娠)



 妊娠への強い願望から起きる症状で、身体的および精神的な要因によって引き起こされるらしい。

 さらに…私の身体は妊娠しにくい事が判明した。


「…そ…な…っ 嘘…よ! あ、あなたっ これは何かの間違いよっ 妊娠していなかったなんて! 別の医師に替えて! ここにはあなたの子供がいるのは確かなのよ!」


 たしかに違和感はあった。

 けど…まさか…想像妊娠(偽妊娠)だなんて…っ!!


 私の言葉に、ディオンの目がどんどん冷えて行くのが分かった。


 出血と思われたのは、月のものが始まっただけだった。


 そんな!!


「……心配しなくていい。子供がいなくてもきちんと君の面倒は見るよ。それが僕に課された責任だ。けれど今後夫婦として過ごす事はない。時期を見て養子をもらうからそのつもりでいてくれ」


「ま、待って、あなたっ 絶対に間違っているっ! 私はあなたの子供を身籠ったのよ!!」


 どれだけ泣き喚いても私の声に振り向きもせず、部屋を出て行ったディオン。


 『面倒は見る』

 『今後夫婦として過ごす事はない』

 『養子をもらう』


 ディオンの事務的な声に、私への愛情は一欠(ひとか)けらも感じられなかった。


「ど…して…なぜ…こんな…っ」


 その後、私とディオンの再婚に関しての噂が社交界へと広がった。

 

 “どうやら寄宿学校時代から関係があったようですわ”

 “他の生徒にも言い寄っていたようよ?”

 “いえいえ、子爵様の方が積極的だったとか”

 “若い男性と関われるから教師になったのではないの?”


 憶測が憶測を呼ぶ。


 まるで私が淫乱教師のような言われ方だった。

 やむなく社交界から距離を置き、屋敷に引きこもる日々。

 こんなところへ養子に出す家門があるのかしら。


 そういえば、前妻は伯爵家の長子と再婚したとか。

 瑕疵がついたのに、なぜ上位貴族と…



 ディオンと顔を合わしても、会話ひとつない。

 社交界に出ることも叶わない。

 毎日が無為に過ぎ行くばかり。


 生活の心配はないけれど…これが幸せな人生と言えるのだろうか。


 今日も一日が終わるのを待つだけだった。


「どうして私は幸せになれないの…」




【終】


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
物語りの中では因果応報だけど 現実ではこういう人は幸せになるよね
最初からディオンを選んでいれば子が出来なくても幸せな生活が遅れたかもしれない。 大きい葛籠と小さい葛籠では小さい葛籠を選ぶべきなのかもしれない。
ロアンヌは嫌な女だけど、家族にも前夫にも恵まれてないのは同情する。今、幸せでないのは確実に自業自得だけど。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。