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Out Of Orbit ~すべてはこの手の中に~  作者: 銀猫
序章 墜ちたもの——希望と呼ばれた星
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第24話 違和感――だがそれはまだ姿を現さない


「……お前も来てたのか」


「そっちもな。刑事が音楽鑑賞なんて、

 似合わないな」


けいの挑発めいた言葉に、

誠治は鼻を鳴らす。


「そうか?

 こう見えて、音楽鑑賞は嫌いじゃないんだがな。

 だが――まあ、今回は、悠長にクラシックを

 楽しんじゃいられないってことだな」



一瞬の沈黙。



互いの目には、同じ光が宿っていた。



「……じゃあ、確かめるか」


「当然だ」


だが、螢と誠治の足は、

ロビーと客席を繋ぐ入口の扉付近で止まる。

互いに、視線を交わす。

あることに気付いた。



観客の配置が奇妙だ。

若い世代が一箇所に、壮年層は別の列に、

年配層は舞台間近に集められている。



――偶然にしては整いすぎていた。



「……変だな、この座席の分け方。

 そう思わないか?」


「言われてみれば、確かに気味は悪い。

 だが、そういうもんだと言われれば、

 否定は出来んがな」



誠治は言葉を濁す。

螢にとっても、心理的にとか音楽的に高い効果が

あるからと、主催者側の何かしらの意図を示されたら、それまでだ。

その辺の知識など一切ない。



ただ……

子供のころ、家族で何度か行った

クラシックコンサートでこんな配置は見たことが無い。



それに――

見上げた天井にも違和感を覚える。



天井から吊るされた無数の反響板が、

まるで意図的に角度を変えられているように見えたから。



螢は他に違和感が無いか――辺りを見回す。

決して、周りに気取られないように。慎重に。




「螢、俺は()()が気になる」




そう言って、誠治が顎で客席の右奥と左奥を示す。



示された方向を見ると、そこには黒いスーツを

まとった集団が見える。



「あいつら……あの人数で、  

 みんな同じ型のスーツを着てるなんて

 あり得るか?」



「……確かに……ってことは、サクラか?」



「必要ないだろ、客なら来る。無料だぞ。

 現にこの客入りだ」



「……それじゃあ……! 

 まさか……あの廃棄物処理工場のときのも……

 確か……」



「ああ、黒服集団だった」



「偶然にしては、でき過ぎてる」



「だろう? 気を付けておいて損はないと、

 俺は思うぜ」



「ああ」



誠治は刑事の勘を披露すると、

一服してくると言って外に出ていった。


螢はその背中を見送りつつ、会場を再度、

見渡した。


煌びやかな装飾。


螢は今になって、やっと乙にこのコンサートの

二次元コードを転送した。

だが、すぐには既読のマークはつかなかった。



おそらく、乙は、螢に言われた通り、

()()()』に猫を届けにいっているのだろう。



螢はすぐには乙に連絡をしなかったこと、

そして――


情報を集めてからと、乙を留守番させたことに、

少し気が引けていた。



サリュからは、朝の時点で、二枚のチケットを

預かっていたのだから……。



(学生時代に、あいつがやっていたのは、

 ドラムくらいだっただろうけど、

 何に対しても好奇心旺盛な奴だから、

 連れてきてやればよかったな……)



そんなことを考えながら顔をあげると、

通路の向こうから歩いてくる

タキシード姿の二人組に視線がくぎ付けになる。

どちらもすらりと長身でタキシードが良く似合っている。



片耳にピアスを開けている金髪の男は、

通り過ぎる夫人や女性に軽く手を振ったり、

会釈をしたりしながら通り過ぎていく。

表情は笑顔だがその目元は涼やかだ。



連れの男もピアスをしていたが、金髪の男とは逆の耳につけている。

金とピンクが混じった髪は、片側だけ長く垂らし、

もう片側は短く刈り込まれていた。



小さいものだが、鼻の辺りに傷がある。

長身で、ガタイがよいせいもあってか、

どこか威圧感がある。



まっすぐ前を見つめ、こちらに向かってくる。

すれ違う瞬間、相手の鋭く光る視線と螢の視線が交わる。




(……どこかで……)




だが、螢の記憶が繋がる前に

男たちは目を逸らし、

何事もなかったように去っていく。




――エルとキーア。




二人の耳には、

極小型の通信イヤホンが光を反射し、

わずかに軌跡を描いた。



開演を知らせるブザーが会場に鳴り響く。

観客たちはそれぞれの席につく。



螢と誠治は、一番後ろの座席に腰を下ろし、

光り輝く舞台を見守る。

舞台には既にオーケストラが準備を終えていた。



このコンサートには何か裏がある……。

それは集めた情報から可能性が高い。



しかし、

久々にこんな立派な場に来ることができたことも

確かで、螢の心は高ぶっていた。



学生時代にチューバを演奏していた経験のある螢は思わず楽器にも注目していた。



不意に、オーケストラの全体を見渡したとき

その中の……一人に目を奪われた。



漆黒のタキシードに身を包み

ピアノの前に座る男。

その男だけ、見知った顔をしていたから。



人を生かす――美しい緑の光を放った――


俺たちに必要な男――



――いち。



脳内で思考が弾けて一瞬、呼吸が止まった。

いや、呼吸をすることを忘れてしまうほどに。



譜面を置く手の動きは迷いなく、

姿勢は彫刻のように端正。


その横顔は、氷の彫刻のように冷たく、

同時に光を内に秘めた美しさを放っていた。



「おい……螢、お前、大丈夫か?

 顔が、真っ青だぞ」



小声ではあるが、

はっきりとした声で話しかけられた螢は、

我に返る。

右を向けば、自分を覗く心配そうな誠治の顔があった。



「あ……ああ」



会場のざわめきが静まり、

指揮者のタクトが宙を切る。



第一音。

ピアノの旋律が、

ガラス細工の雫のように空気に落ちる。



それを包むように、ヴァイオリン群が柔らかく波を作り、

チェロが深い呼吸を刻む。


フルートが微笑むように旋律をなぞり、

ホルンが遠くの丘から風を送るような温もりを

加える。

だが、その温もりの奥に、

かすかな低音の脈動が潜んでいた。



それぞれの音の旋律が絡まりながら―― 

一つの壮大な曲を創造していく。 



聴くものを魅了し、

そのすべての感覚に訴えかける力をもつ

それが音楽にはあるのだと……感じさせる。



会場中が美しい旋律で包まれた。

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