『第三話・6 魔王の御曹司、優雅に撤退す』
――次の瞬間。
リリアの視界の片隅に、無慈悲なウィンドウが浮かび上がった。
《ガルド=アイゼン 撃破確認》
種別:魔王軍第三将/氷槍騎士
Lv:172 HP:0/32,400(消滅)
攻撃:950 防御:820 属性耐性:氷90%
推奨攻略:パーティー4~6人編成
状態:死亡(分解済み)
(……いやいやいや!! こういうの、戦う前に出すやつだろ!?
しかもレベル172って、パーティー組んでようやく倒せるクラスじゃん!
それをソロで秒殺とか……もうバランス崩壊どころじゃねぇぞ!?)
(てか“状態:死亡(分解済み)”って、なんかリサイクル業者の回収報告かよ!!)
(しかも「推奨攻略:パーティー4~6人」って親切表示、死んでから出す意味あんの!? おせーよ!! 作者、絶対忘れてただけだろこれ!!)
そして颯太は、ふと背筋をぞくりとさせた。
(……いや、待て。俺、なんか……パワーアップしてね?)
自分の手を見下ろす。震えていない。息も乱れていない。
むしろ、さっきまでよりも体が軽い。
靴裏が、地面を正確に捉えすぎている。
視界も、やけに鮮明だ。
(これ……バグ? いや……強化イベント? それとも隠し補正?
いやいやいや……俺、なんかもう「主人公補正」極まってきてないか!?)
――直後。
さらに新たな黄金のウィンドウが、颯太の視界を焼くように浮かび上がった。
《リリア ステータス更新》
種別:プレイヤーアバター/勇者(覚醒状態)
Lv:6666(安定)
HP:66/66(Max 666,666)
攻撃:66,666
防御:66/66(Max 66,666)
魔法耐性:6%
(……はああ!? なにこれ!!)
(いや、まずレベルだろ!? 999から一気に6666って!!
桁ぶっ飛びすぎて、もはや“レベル”って概念壊れてんじゃねーか!!
ここだけソシャゲの広告かよ!? 「今ならレベル6666スタート!」みたいなノリやめろ!!)
(しかもHP66!? Maxは66万超えなのに、現在値はゴキブリ並みの生命力ってどういう仕組みだよ!?
防御も66(Max66,666)って……ほぼ裸勇者じゃん!!)
視線をやると、ワン太はきらきらした目で尻尾を振っていた。
「えへ♡ 吸っちゃった」みたいな顔で、ワン太が満足げに喉を鳴らす。
ワン太の口元には、うっすらと金色の光の名残が残っていた。
(……おい)
(お前が俺のHPゴクゴク吸ったからだろ!!)
(……お前、俺の安全装置のつもりか? それとも単に『最強のエネルギーは美味い』とか思ってんのか!? どっちにしろ吸いすぎだバカ!)
(てか、攻撃力6万超えの怪物なのに、HP66って……
これギャグRPGの裏ボスか、ラスボスのバグキャラ枠じゃねぇか!! 一撃でゲームオーバーとか笑えねぇんだよ!!)
(……でも、前のデモリオンの時と違って、頭も冴えてるし、体も暴走してない。完全にコントロールできてる。
……普段の俺と変わらない感覚だ)
(これ……なんかの漫画で見た“戦闘民族が覚醒した状態”みたいなやつか?
気が爆ぜるでもなく、髪が逆立つでもなく――ただ静かに、限界のさらに先に踏み込んだ感じ。
……いや、むしろその方が怖いんだけど!?)
(……でもそれってつまり、俺……マジで“覚醒”したってことか!?)
(てか、“見える力は抑えておけ、強さは隠した方がいい”って。
何百年も生きて、魔王を討ち果たした伝説級のエルフの魔法使いが──そんなこと言ってた気もする)
(そりや、ずっとこんな意味不明なスーパー覚醒状態でいたら……友達なんかできねぇよ!
ただの恐怖の権化じゃん!!)
(……ちょっと怒りに任せて爆発しすぎた。落ち着け、俺。……よし、一旦元の状態に戻す!
今の俺なら……きっとできるはずだ)
深呼吸とともに意識を沈める。
黄金に煌めいていた光は、静かに収束し、まるで夜明けの残照が消えるように肌から剝がれ落ちていく。
全身を包んでいた圧力が消え、心臓の鼓動さえ穏やかになっていく。
背から広がっていた六翼も、光の羽根を一枚ずつ落とすように淡く溶け、やがて跡形もなく消え去った。
残されたのはただ、普段通りの自分の体だけ。
しかし、セラフィーの胸には拭えぬ恐怖が残っていた。あの“神々しい姿”を目撃してしまった事実が、彼女の剣士としての直感に「人ならざる領域」を刻みつけていた。
――剣士の勘が、警鐘を鳴らし続けている。
同時に視界の端に、新しいウィンドウがスッと浮かんだ。
《リリア ステータス更新》
Lv:6,666 → 999(通常)【実際Lv 6,666】
HP:66/66(変化なし)【潜在値 66,666】
攻撃:66,666 → 9,999(Down)【実在値 66,666】
防御:66(変化なし)【潜在値 66,666】
魔法耐性:6%(変化なし)【潜在値 999%】
(……ふぅ。これでも十分おかしいけどな!! でも、まあ“歩くバグデータ”よりはマシだろ……!)
だが谷に残った静けさは、決して安堵だけを告げてはいなかった。黄金の残光が消えた後にも──何か新しい試練の予兆が、谷の“さらに奥”から、ひっそりと――確実に、こちらを見据えていた。




