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17話 クラス交流戦6.5 〜アンネ〜

没にしようと思いましたが、投稿することにしました。後半はほとんどギャグです。

16話の番外編と思って読んで頂けたらと(笑)

空地での特訓が始まってから20分ほどしか経っていないが、俺の息は絶え絶えだった。


「はあ……はあ……ちょ、タイム!」

「エイユウ!あんたまた後戻りしてるじゃない!」

テトラが可愛らしい顔をしかめて怒る。

だが、彼女の言う通りだった。

彼女が俺に向かって剣を振りかざすと同時に俺は抜刀する。

一瞬刃どうしが当たる感触はあるのだが、次の瞬間俺は校舎の前、女子寮の前、たまに噴水の中………とにかくどこかしらに瞬間移動にげている。


これが俺の能力、『振り逃げ』。俺の臆病の具現体にして、代名詞。


昨日の最後の『降り逃げ』は空地の中に留まることができたのだが、見事にそれができなくなっている。

「はあ…おかしいな……昨日、ちょっと成長したのに。」

「鍛練不足ね、継続がなきゃ成長なんてないわ。」


テトラは見た目とは裏腹に、自分にも他人にも厳しい。こんなにも容赦ないしごきができるのは、多分この学園に3人といないだろう。

『振り逃げ』して特訓から脱出する手もあるのだが、そんなことをした次の日は、彼女に三枚におろされてしまう。そうなると結局、彼女に従う以外方法がない。


「そんなんだからテトラは……」

「何か言った!?」

「何でもありません!………あっ。」


その時俺は、あるアイデアを閃いた。

(せっかくだし「あの技」……やってみるか!)


テトラが交流戦初日に使った「あの技」……見てイメトレしただけでまだ実践したことはないが、相手がテトラとなれば今試してみる価値はある。


「エイユウ、もう一回!」

凛々しい声をあげ、彼女は再び剣を構える。

「ふぅ〜………よし。」

俺は深呼吸して、抜刀した剣を鞘にしまった。

「……何で剣納めてるの?もうギブアップ!?」

「何でって……抜刀せずに勝つ方法、試してみたいんだ。」

「な…何言ってんのよ。あんたには『振り逃げ』を生かす以外勝つ道はないわ!」

「ある!!」

テトラは怒りに負けないような声で俺は言った。

彼女は面食らったような顔をしていたが、すぐに表情を正し、強気な表情を見せた。

「へえ……じゃあやってみなさい!」

そう叫んでテトラが間合いを詰めてきた。能力は使わず、剣技だけで俺をねじ伏せるつもりらしい。


(落ち着け……落ち着け………うっ!?)

テトラの刃が目の前に迫った瞬間、俺は凄まじい恐怖に襲われた。

(……やっぱ怖ぇ!)

しかしあのように言った手前、もう後戻りはできない。だが、何とかのけぞって回避しても、二撃目が既に迫っている。更に三撃、四撃……俺が攻撃できる隙はほとんどなかった。

(やっぱり俺は『振り逃げ王子』なのか……)

諦めかけたその時、ある記憶が頭に甦ってきた。

ああ、テトラが失望と哀れみを含んだ目でこちらを見ている。



「……無理ね、今のあんたには。」



……無理?………無理だと?


「……ふッざけんじゃねぇぇぇぇぇ!!!」

「!?」

汚い叫び声とともに俺はテトラの攻撃を受け止めた。

テトラは飛び退くと同時に剣を大きく振りかぶる。

(今だっ!)


俺は深く腰を落とし、彼女の懐に飛び込んだ。そして――


***********


テトラは振りかぶった勢いそのままに、地面に倒れた。

彼女の一撃は、俺には当たっていなかった。テトラの技が俺にもできたのだ!


「や……やった、できた……!」

「一本……取られたわね。」

静かに立ち上がりながら彼女は言った。

「まさか私と同じ発想に、よりによってあんたがたどり着けるとはね。」

「違う……テトラの技を見て、盗んだだけだ。」

「ふーん……」

彼女は興味のなさそうな返事をしたが、その方が俺としてはありがたかった。流石に盗んだ技で勝ったとなると、嬉しいものの少し後ろめたい気持ちがある。


「これ、クラス交流戦でやってみていいか?……」

一応許可を取ってからの方が良いと思って聞いてみたが、彼女はうつ向いたまま答えない。

「ごめん、そんな……罠にかけるつもりとかはなくて………ってテトラ?」

彼女の表情は伺えなかったが、何か様子がおかしい。するとテトラは崩れ落ちるようにして両膝と両手を地についた。

「おいっ……大丈夫か?」

心配になった俺がテトラに近づいたその時だった。


「エイユウ………。」

「ん?何?」

「捕まえたっ!!」

「うわっ!?」

テトラが突然俺に飛びかかり抱きついてきた。

その反動で後ろに倒れ、その上にテトラが乗り、身動きが取れなくなる。

「ちょっ、おいテトラ!?」

今にも当たりそうなほどテトラの顔が近くにある。何が起こったのか把握できない俺に、彼女は甘い口調で話しかけてきた。

「んん〜君がエイユウか〜。中々可愛いじゃん。テトラったら私たちを薬で抑えて独り占めしてたのね。ふふふ〜ん♪」

「ち……近いし密着しすぎだし!っていきなりどうしたんだよテトラ!?」


(「正確には「他人」のうちの一人がテア。」)

「ハッ……!」

あの日の放課後のテトラの言葉を思い出した。

(そうだ……テトラは二重人格じゃなくて……多重人格だったんだ!)

彼女に上から抱きつかれ、息をするのも苦しかったが、俺は何とか喉から言葉を搾り出した。

「うっ…くっ…あんたは誰なんだ…!?」

「あれー?テトラこの前「武藤エイユウにバレたから彼にだけ話した」って置き手紙してくれたのに……そっかあ、一人一人については説明してなかったんだね〜。」

そう言うと彼女は俺から離れてくれた。


胸のあたりにあたる感触はお世辞にも柔らかいとは言えなかったが、匂いといい、可愛らしい顔といい、彼女の体温といい……一男子である俺から正気を奪うには十分だった。あと数秒あの状態だったら正直危なかった。


「あたしはアンネ。よろしくねー。」

「あっ……ああ、よろしく……。」

テトラとは真逆の性格のアンネに俺が戸惑っていると、彼女はにやりと笑った。

「率直なこと聞くんだけど、テトラのことどう思ってる〜?」

「え!?」

「どう思ってるの〜?」

「えー……そのー………剣士として…憧れの存在かな…?」

中身がアンネであることは分かっているのだが、俺の目に映っているのはテトラである。何だかテトラ本人に思いを伝えるようで答えづらいことこの上なかった。


「へ〜そうなの。へ〜。」

やや上目遣いでテトラ……アンネが見つめてくる。人格だけでテトラの表情がこんなにも豊かになるのかと、少し感心してしまう。


「実はというとテトラさ〜、あんたにゴフッ!」

「っ!…………」

俺は驚きのあまり何も言えなかった。

彼女が自分の右頬を自分で殴ったのだ。


もうそこには「アンネ」の豊かな表情はなかった。ただ不機嫌そうな「テトラ」がこちらを見つめている。


「エイユウ……何か余計なこと言ってなかった?」

「えっ?……うん大丈夫。特に何も言ってなかった……多分。」

抱きついてきた、なんて口が裂けても言えない。


「今日はもうやめにしましょ……私のモチベーションが上がらない。あぁもう、何で薬飲み忘れて……。」


何かぶつぶつ言いながら、テトラは空地を出ていった。


「あっテトラ!さっきの技使っていいか!?」

「勝手にして!」










ありがとうございました。

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