16話 クラス交流戦6 〜何かしらの縁〜
現れたのはきょにゅ……銀髪の少女、真宮真菰だった。彼女は大剣をしまい、ジンを背中に乗せる(しかし身長差のため、どちらが運ばれているのか分からない)と、変化のないトーンで言った。
「………邪魔をした。」
「あっ全然気にしないで、別にジン君は迷惑かけてないし……って、ええっ!?」
驚く俺に対し、彼女は自己紹介をした。
「………申し遅れた。私は真宮真菰……こいつの管理を担当している。」
そう言うと彼女は、背負っているジンに目をやった。
会うこと自体は初めてでは無いのだが、あの時彼女は熟睡していたので、多分俺のことは知らない。一応「初めまして」と簡単に挨拶をして、気になったことを聞いた。
「えーと……どういう関係?」
そう言う俺に対し彼女は、クラス交流戦の時と同じ、常時眠たげな瞳で説明してくれた。
「………ただの幼馴染み。こいつの中二病が爆発しそうになったら、強制的に回収する。」
「へ、へぇ〜……」
果たして幼馴染みとはそういう関係のことを言うのだろうか。
「………大丈夫、どこを殴れば一発で気絶するかよく理解はしている。では。」
「待って。」
空地から去ろうとする彼女を、テトラが呼び止めた。
そして鋭い眼差しで見つめた。
「手合わせお願いできるかしら?」
(えっ!?)
いきなり何を言い出すんだと思ったが、彼女は今日、この少女に敗れている。よく考えてみれば、意識の高い彼女のプライドが傷つかないはずがない。リベンジを果たさないと腹の虫が治まらないのだろう。
「………無理。」
銀髪の少女は表情一つ変えず答えた。
「勝ち逃げとは良い度胸してるじゃない…!」
テトラは威嚇するように、剣の柄に手を掛ける。
するとマコモは意外な言葉を口にした。
「………今ヘクターと戦ったら、多分死ぬ。」
テトラは一瞬きょとんとした後、すぐに表情を引き締めて言った。
「…からかってるの?」
俺も正直テトラに同感だった。テトラと互角の実力で、おまけに能力を完全に弾いていた。そんな彼女が何故こんなにも弱気になっているのだろうか?
詳しく話さなければ納得してもらえないと思ったのか、彼女はしっかり理由をつけて話した。
「………抜刀したら「相手の攻撃を完全に弾く」のが私の能力。相手が強いほど身体に負担がかかる……実はヘクターとの試合の後、疲れて5時間眠りっぱなしだった。こんなこと初めて。」
俺とテトラは驚きつつも、静かにその話を聞いた。
(なるほど、だからあの時「相手の攻撃を完全に弾く」ためにテトラと同じステップができるようになったのか。)
自分の中ではそう解釈し、納得した。
そして彼女は最後に付け加えた。
「………今日もう一回戦ったら二度と立てなくなるような気がする。それに、あの剣技といい、火焔といい、吹雪といい、最後の突風といい……ヘクターはこの学園の誰よりも、圧倒的に強い。」
「ッ!そんな…………。」
突然のストレートな賞賛に、テトラは少し顔を赤くした。
「………私は嘘をつかない、ヘクター。マコモに二言はない。」
「……分かったわ………さっきは勝ち逃げなんて言ってごめんなさい。」
少し目を伏せながらも、珍しくテトラが自分から謝る。
「………実はというとクラス交流戦の時、ヘクターのことを自信家で嫌なやつだと思っていた。だからあのように挑発した。だがたった今、それはただの偏見だと分かった。」
説明文のような語調で彼女も謝り返した。すると彼女は右手をテトラに差し出した。
「えっ!?」
テトラが女の子らしい声をあげて驚く。
「………仲直りの握手。そんなに驚かなくても。」
「う……うん。」
そう言って彼女らは握手を交わした。
「………よし、これで友達。」
テトラの頬がさらに紅潮した。
やや長めの握手を終えると、銀髪の少女は俺の方を見て言った。
「………そこの少年。」
「……えっ、ああ俺のこと?何?」
ただでさえ年下に見える同級生に「少年」呼ばわりされ、返事が遅れてしまった。
「………名前を教えてほしい。さっきの口ぶりだと、ジンと親しいようだが。」
親しいという程ではないが一応顔見知りなので、彼との関係を伝えた。
「武藤エイユウだ。そこのジン君には今日のクラス交流戦で少し話しかけた程度だけど…………って真宮さん?」
「………ぷくくくく。」
彼女の口から謎の音が漏れていた。表情が変わっていないので確信は持てないが、多分笑いを我慢している。
「何か面白いことでも?」
「………ジンに自ら話しかけるとは、中々物好きだな。」
「え。」
確かにジンに興味はあったのだが、「物好き」とまで言われてしまうと自分に自信が持てなくなってしまう。
「………まあ……これも何かしらの縁。」
そう言って彼女は、テトラの時と同じように右手を俺に差し出した。
俺もそれに応じて右手を出す。彼女は第一印象に反して、意外にフレンドリーな性格のようだ。そして……
「………私と共に、友達のいないこいつを宜しく頼む。ヒーロー。」
「ヒーロー?」
「………英雄だから。」
「あぁ、なるほど。」
中々フリーダムな人だった。
ただ、「ヒーロー」という呼び名に対し悪い気はまったくしなかった。
「………あと、私の呼び方は「マコモ」でいい。それではさらば…」
まだ失神したままのジンを運び、「………全身筋肉痛」と呟きながら彼女は空地から出ていった。
テトラは、マコモと握手した右手をじっと見て固まっていた。
「テトラ?」
少し心配になって声をかけると、テトラはゆっくりとこちらを向いて、呟くように言った。
「エイユウ……友達って、こうやってつくるもの?」
「えっ!?」
テトラが突然子供のような質問をするので驚いた。
俺はこの難しい質問に、何とか知恵を振り絞って答えた。
「よく分からないけど、握手も一つの方法なんじゃないか?」
「そう………。」
そう言うと彼女はそれっきり何も話さなくなった。
(本当に分からないな………)
テトラの監視役になってから彼女のことを色々知ったつもりでいたが、まだ1割も理解できていないのかな、と俺は思った。
まあテトラの全てを知ろうなんて、おこがましい欲望なのであろうが。
テトラが深く息をついた。しかしその表情は、吹っ切れたように爽やかだった。
「ふう……さあ、エイユウ」
テトラの視線がこちらに向けられた瞬間、俺の背筋は凍りついた。
「まだ時間はあるわ。今日にでも『降り逃げ』をコントロールできるようにしないとね!」
「いやああぁぁあぁあぁぁぁぁぁ……」
空を覆っていた雲はいつの間にか消え、月下に俺の悲鳴が長く響く。
この叫び声が、せめてマコモたちに届いていればと思う。
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