12話 クラス交流戦2 〜A組1位・ジン〜
クラス交流戦2日目………
前日テトラが会場を騒がせたこともあり、今日聞こえてくる噂話はテトラのことばかりであった。
「B組のヘクターさん、初めて見たけど鳥肌立っちゃった!」
「見た目すごく可愛いけどかっこよかったな〜。」
女子すら魅了するとは流石である。
しかし彼女に関する話で一番よく聞こえてきたのは………
「凄い能力だな、剣からあんな風を巻き起こせるなんて。お前同じクラスだろ?良いよなー、日常的にあれが見れるなんて。」
「風だけじゃない……この前は氷雪を巻き起こしてた。」
「ええっ!?何で剣の能力が2つもあるんだよ!?」
彼女の……「複数の剣の能力」についてだった。
剣――それは、所持者の本質を具現化させるもの。言ってみれば、その人間の本性を映す「鏡」だ。つまり、一人の人間につき1つの能力しか使えないのである。
しかし彼女の中には「複数の人間」がいる。だから彼女は炎や冷気など、複数の能力を行使できる。
ただ、彼女の多重人格を知っている人間は1年生の中で俺しかいないので、彼らが不思議に思うのも仕方ない。
まあテトラばかり注目する人たちは置いといて……
「Aリーグ ジン・アラバスター……」
今日の一番の目的は、1-A組の1位であるこの人の試合の撮影だ。テトラが話題になりすぎて陰に隠れているが、彼もかなりの実力者に違いない。
「……ふっ」
不覚にもにやついてしまった。
「さて、行くか……!」
表情を直して、彼が試合をするAコートへと向かった。
……早めに向かったお陰で、Aコートの観衆の最前列を取ることができた。しかし俺の額や脇からは冷や汗が止まらなかった。
(………何で女子しかいないんだっ!)
どこを見ても女子、女子、女子。コートの中央にしか目のやり場がなかった。
「ジンって人、凄くかっこいいらしいね。」
「私カメラ持ってきちゃった♪」
もはやこれはライブ会場である。
(くそっ、男は顔じゃねえぞ女子!……って違う違う。実力を見に来たんだろ俺……。)
俺のように美顔に恵まれなかった男が張り合っても虚しいだけだろう。ひとまず周囲の雰囲気は忘れて試合に集中することにした。
ただ、どれほどのイケメンかは気になるところだ。
しばらく待っていると、彼は遂に現れた。
「「「キャア〜〜〜〜!」」」
彼を心待ちにしていた女子から黄色い歓声があがる。
コートにやってきたのは白髪の少年だった。身長は多分俺と同じくらいだろう。顔にはあどけなさが残っているが、間違いなくイケメンだ。
イケメンと共に特に目を引くのが、彼の右目の眼帯である。
(隻眼?……それで1位とは恐ろしいな。)
片目だと遠近感がなくなってしまう。そんな状況で彼はどうやって戦うのだろうか。
『始め』
開始の合図とともに、懐のカメラを構える。
そして俺は、衝撃の光景を目撃した―――
**********
「ぐうぅ……。」
対戦相手は倒れた。
たった今決着をつけた彼、ジン・アラバスターの身体は黒い炎を纏っている。
彼が剣を鞘に納めると、黒い炎は消えた。
「安心しろ。急所は外した。」
そう言って彼は相手に背を向けた。
『そこまでっ!勝者、ジン・アラバスター!』
審判が試合の終わりを告げる。
「………………。」
「テトラさん見に行きましょ。」
試合開始時に歓声をあげていた女子たちは、何も見ていなかったかのようにAコートを去っていった。
俺は今の試合で起こったことが未だに信じられなかった。
(俺は夢でも見ていたのか…いや……でも本当にあんな人間がこの世にいるのか!?)
彼の実力は本物だった。テトラとも互角に戦えるのではないかとすら思った。ただ………
改めて、こっそりと撮影した今の試合を見直してみた。
『始め』
「手早く終わらせるぞ………抜刀!」
一瞬静まり返った会場に、ジンの声が小さく響く。すると彼の周りに黒い炎が生じた。
問題はこの後だ。
「さあ……遊戯の始まりだ!来い、地獄を見せてやる!」
……………。
「死神に呪われし英雄の槍……『グングニル』!!!」
「次元を切り裂き虚無へと還す!『新月黒焔斬』ッ!!!」
「『闇龍召喚』!闇龍よ!全てを焼き尽くし焦土に変えろッ!!!」
……夢ではなかった。
俺の記憶通り、この男、次々と技名と決め文句を叫んで能力を発動している。
まさかとは思っていたがこのジンという奴……。
「ここで全て終わらせる………!!」
眼帯を破り捨てる。
「……『ダークフレア』ァァッ!!!」
……ピッ。
最後まで見ることなく、俺はビデオカメラの電源を切った。
(間違いないこの男………重度の中二病だッ!)
彼の能力は確かに凄かった。
しかしあの強烈なキャラクターのせいで実力が霞んでいる。
「ディミトリ以上に技名叫ぶやつがいたとはな……」
女子は完全に引いている。しかし試合を終えた彼は表情ひとつ変えず、壁にもたれかかって他の試合を見ていた。
その挙動からは、清々しさすら感じる。
「凄いメンタルだな……なるほど。」
あの能力と強靭な精神を持っていればどんな相手でも怯まず戦えるだろう。
女子一人に引かれた程度で退学を決意したどこぞの『振り逃げ王子』とは大違いだ。
「…………勉強になったぜ。」
心のなかで彼に感謝し、俺はAコートを後にした。
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