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プロローグ

初めて物を書きます、拙いですが好きな要素を多分に詰め込んでいます。


練習と実験のつもりで書いております。

# プロローグ


 夏のトーキョーは、どこか壊れている。


 アスファルトにはひびが入り、雑草がその隙間から顔を出す。

 崩れかけたビルの窓にはガラスがなく、風がそのまま吹き抜けていく。

 遠くで鳴る蝉の声はやけに大きくて、やけに長くて――この街に残された時間だけが、取り残されているみたいだった。


 かつて、ここは首都だった。


 人が溢れ、光が溢れ、未来が溢れていた場所。

 けれどそれは、ほんの少しずつ、確実に崩れていった。


 始まりは、30年ほど前にまで遡る。


 世界各地で、異常気象が観測され始めた。

 突発的な豪雨。予測不能な台風。都市機能を停止させる熱波。地形を変えるほどの洪水。


 それらはやがて、“異常”ではなくなった。

 災害は、特別な出来事ではなくなった。


 世界は、それに適応するしかなかった。


 その中で生まれた新時代の機械がある。


 汎用型搭乗機動機――Multiple Ride Vehicle。通称、M.R.V(マーヴ)


 中央の胴体部を基点に、左右の腕部と脚部を換装することで、あらゆる現場に対応する搭乗型機械。


 不整地ではキャタピラ型脚部を装着し、泥濘や瓦礫の上を進む。

 倒壊寸前の建物内部では、多脚型脚部に換装し、重量を分散させながら自立する。

 腕部を換えれば、切断、運搬、固定、救助、建設――あらゆる“手”の役割を持つことができる。


 それは、一台で姿を変える重機だった。

 災害現場ごとに形を変え、必要とされる働きをこなす、適応する機械だった。


 だが、M.R.Vが爆発的に普及した理由は、それだけではない。


 過酷な被災地では、整備された設備など期待できない。

 大掛かりな工場も、精密な補修施設も、いつだってそこにあるとは限らない。


 M.R.Vのパーツ換装機構は、そうした環境でも扱えるよう設計されていた。

 最低限の工具と小規模な作業スペースがあれば、腕も脚も換えられる。

 整備も、補修も、現場で行える。


 そしてもう一つ。

 M.R.Vには、疑似人格積層電脳――AIOS(アイオス)が組み込まれている。


 AIOS(アイオス)

 動物や昆虫など、生物の行動モデルを基に構築された疑似人格電脳。


 それは操縦者の補助を行い、作業経験を蓄積し、状況を判断し、時には自律的に機体制御へ介入する。


 熟練者でなくとも、AIOSの支援があれば作業を行える。

 熟練者であれば、AIOSとの連携によって、人間一人では届かない精度と速度を実現できる。


 M.R.Vは、操る機械ではない。

 共に動く機械だった。


 作業用操縦ライセンスは十八歳から取得可能。

 災害対応、土木、建築、輸送、復旧――M.R.Vは世界中の現場に広がっていった。


 日本もまた、その変化から逃れられなかった。


 元より災害の多い国であった日本は、異常気象の常態化によって、都市とインフラの大規模な再編を迫られた。


 とりわけ首都トーキョーは、大きな打撃を受けた。


 かつて中心地と呼ばれていた区域は、度重なるゲリラ豪雨と局所的台風によって破壊された。

 地下は水に沈み、高層ビルは風に削られ、交通網は寸断された。


 一度は政府機能をトーキョー西部の市区町村へ分散移設し、M.R.Vを用いた大規模再開発計画――首都再生計画が進められた。


 無数のM.R.Vが導入され、壊れた街を作り直すための作業が始まった。

 それは、長い時間をかけて未来を取り戻すための計画だった。


 けれど、その未来は訪れなかった。


 数度の政権交代。方針転換。

 “今後の備え”という名目のもと、政府機能は日本各地へ分散されることになった。


 首都を一つの都市に集約する時代は終わった。


 そして、トーキョーは取り残された。


 開発途中の区域。

 中断された建設現場。

 放棄された無数のM.R.V。


 かつて再生のために集められた機械たちは、役割を失い、ジャンクとして街に残された。


 人もまた、同じように離れていった。


 残ったのは、壊れかけの都市と、使われなくなった機械。

 そして――それを拾い上げる者たち。


 放棄されたパーツを集め、機体を組み上げ、誰にも管理されない場所で戦わせる。


 最初は、ただの遊びだった。

 だが、その遊びは、やがて形を持つ。


 M.R.Vによる戦闘競技――サーキット。


 壊れた街を舞台に、M.R.V同士を戦わせる。

 勝敗は単純。最後に立っていた一機が勝者。


 観客は、廃墟の上を飛ぶドローンの映像を通して、その戦いを目撃した。


 危険で、無秩序で、無茶苦茶で。

 だからこそ、魅力的だった。


 やがてサーキットは、M.R.Vを開発する四大メーカーのスポンサーを得て、プロスポーツとして世界へ広がっていく。


 ルールが整備され、レギュレーションが定められ、操縦ライセンスを持つ者だけが参加できる競技へと変わっていった。


 安全性と引き換えに、無茶は管理されるようになった。


 ――だが。


 この街だけは、少し違う。


 すべてが始まった場所。

 すべてが壊れたまま残された場所。


 トーキョー。


 ここでは今も、無茶が残っている。


 年齢も、経歴も、関係ない。

 ライセンスも、パーツレギュレーションも存在しない。


 一夏だけ開催される、無制限トーナメント。


 その名は――サマータイム。


 壊れた街で、壊れかけの機体が戦う。


 勝つために。

 証明するために。

 あるいは、ただ、この夏を終わらせないために。


 風が吹く。


 崩れかけたビルの間を抜け、錆びた鉄骨を鳴らし、遠くで何かが動き出す音がした。


 トーキョーの夏は、長い。


 そして短い。


 そのどちらもが、ここにはある。



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