23
その夜、氷の国に風が吹いた。
その風は激しく、暖かく、国中を吹き抜ける。
オーレリアが目覚めると、外が騒がしい。
昨日は婚約の衝撃でよく眠れなかった。
今日は学園は休みだし、もう少し寝ようかな……
突然部屋の中が光で溢れた。光の粒が集まる。
「オーレリア! レックスと婚約したか!」
グレイスが慌てた様子で現れた。
「……何で知ってるんですか?」
ベットの中から答えるオーレリア。
「外を見てみろ!」
もう、どっちが主人か分からない。
オーレリアはのろのろ立ち上がり、カーテンを開ける。
なぜ外が騒がしいのか理解した。
「雪がない……?」
学園の園庭は、芝生が青々と茂っている。太陽が地上を照らしている。
小鳥が木に止まっている。
オーレリアが巨木にしてしまった林も、あんなに積もっていた雪がなくなっている。
そういえば、気温も高い気が……
「寒くない」
「通常なら冬は終わっている時期だったからな。崩れていたバランスが戻ったようだ」
氷の国の妖精王は、一人頷いている。
「すごい……」
明るい緑の植物達、水色の空、太陽の光まで、妖精の国の色と違う。ずっと白の世界だったが、やはりここは色の常識から違う、別の国なのだ。
外に見入っているオーレリア。
「オーレリア、これでお主の力は証明された。妖精の国が何か言ってきても、戻っては駄目だぞ? オーレリアがいなくなれば、この国は氷に包まれる」
「妖精の国には帰らないよ。待ってる人も、いい思い出もないし。心配しないで!」
「それならいいが……さて、我はもう一眠りするか。じゃあな」
グレイスは光を纏って消える。
私も寝ようと思ってたけど、こんなに植物が元気にしてるんだから外に出ないと!
今まで雪で閉ざされていた場所、園庭も中庭も裏庭も、散策したい。オーレリアは急いで準備をするのだった。
ーーーー
氷の城はバタバタしていた。
「冬が突然終わった! これは、どうしてだ?」
国王と従者のエミールが話している。
「エイラ様とサン王子の婚約パーティーが終わったからか? でも、正式に婚約したのは昨日ではないが……」
「もしかして、レックスとオーレリア姫か?」
「国王、レックス様が来られました!」
「入ってくれ。呼び出してすまないな、レックス。この気候についてだが……」
「父上、あの、昨夜オーレリア姫に正式に婚約を申し込み、承諾されました。おそらく、その影響なのかと……」
レックスは戸惑いながら伝える。
まだ昨日の余韻でぼーっとしている所に、この騒ぎ、城への呼び出しである。頭がついていかない。
「そうだったのか! それはおめでとう!」
「レックス様が婚約! よかったですねぇ」
国王もエミールも嬉しそうだ。
そんなに喜ばれると思わなかったレックスは驚いた。
「ありがとうございます。春も来た事ですし、良かったですね」
なぜか他人事のようだ。
「何を言っている。お前が婚約したのだぞ? それが嬉しいのだ!」
「オーレリア姫へ自分から求婚したのだろう? 好きな娘と結婚できるのだから、それはめでたい事だろう」
「冷めた青年だと思っていましたが、安心しました……」
いつも冷静な二人が別の人物みたいである。心配されていた事がわかって、少し恥ずかしくなった。
「あ、ありがとう……」
城から寮へ戻るレックスの足取りは軽い。
心の中も暖かくなっていた。
外は暖かい。
もうコートはいらないようだ。
皆薄着で外を散策している。芝生に座ってお喋りする生徒、外のベンチで本を読む生徒……
冬が長かったのだ。外にも出たくなる。
オーレリアは裏庭へ行ってみた。
ここは雪が深くて入れなかったのだ。今は遮るものはない。
ヒヤシンス、木蓮、わすれな草、それに、
「桜だ……」
ピンクの花が沢山咲いている。
蕾をすっ飛ばして、花が咲き乱れている。
桜の木を見上げるオーレリア。
「オーレリア」
振り向くとレックスが立っていた。
桜と花々に囲まれた彼女は、いつも以上に美しかった。
第一部 終
ーー後日談ーー
迅速に、婚約の件は皆に伝えられた。
両国共、了承していた事である。すんなり承認された。
婚約パーティーを! と、氷の国の国王も王妃も仰ったが、妖精の国の方が乗り気ではなく、当の本人達も断ったのでパーティーは無くなった。
「オーレリア本当にパーティーしないの?」
エイラに婚約を報告すると、パーティーについて何度も確認してきた。
「うん。人前に出るのは得意じゃないし、お披露目は恥ずかしいかなって」
オーレリアは恥ずかしそうに笑う。
「レックス様もいいの?」
「俺もパーティーは得意じゃないし、オーレリアの好きにしていいよ」
エイラは二人を交互に見る。
「そう? まぁ、お互いが了承しているならいいけど…」
国王と王妃への報告は緊張した。
「婚約のご報告に参りました」
レックスとオーレリアは伴って礼をする。二人揃っての報告は滞りなくすんだ。
「承知した。仲良くな!」
「お二人が正式に婚約したこと、祝福いたします」
二人から了承の旨をもらい、部屋の外へ出る。
「妖精の国へは行かなくていいのか?」
レックスがオーレリアへ訊ねる。
「うん。書面で了承されてるし、問題ないよ。帰っても誰も祝福してくれないと思う……」
オーレリアは少し俯く。
自分が置かれていた状況を客観視できるようになってきた今では、少し思う所がある。
「オーレリアを思ってくれてる人達は、この国にいる。そう落ち込むことはないよ」
レックスがオーレリアの肩に触れる。
「うん。ありがとうレックス」
見上げて微笑む。
二人で学園に帰る為、馬車に乗る。
隣に座るレックス。
「……オーレリアは俺のこと、どう思ってる?」
「え?」
「いや、なんか婚約はしたけどさ、俺達まだ友達感が強いし、これってこのままでいいのかなって思って。上手く言えないんだけど」
レックスが頭をかく。
「私はレックスのこと、いい人だって思う」
「うん。そうか。まぁ、悪いヤツって思われてないならいいか……」
レックスは考え込んでいる。
「レックスは私のことどう思ってるの?」
「そりゃあ、好きだけど」
何気なく聞いた質問の答えに、オーレリアは開いた口が塞がらない。
「す、き?」
「好きだから婚約申し込んだんだろ? 分かんない?」
レックスがオーレリアを見つめる。顔が赤い。
「そんなの、知らないよ……」
体温が上がる。何これ? 心臓おかしい。
「オーレリア、顔赤い。照れてるの?」
レックスが顔を覗き込む。
「だって、急にそんなこと言うから!」
「……照れてるの可愛い」
レックスがオーレリアの手を握る。
「へ? かわ、かわいい?」
何だかレックスの距離がおかしい。急にそんなにグイグイ来られても!
オーレリアは内心、心臓が爆発しそうだ。
手はずっと繋いだまま。グイッと引っ張られた。
「ひゃあ!」
オーレリアはレックスの胸に顔を埋めた。レックスの手が背中にまわる。
ぎゅっとされた。
「!」
「……嫌?」
レックスが優しく耳元で囁く。
「えと、あの……嫌じゃ、ないです」
オーレリアが静かに伝える。
しばらくして身体を離す。
解放されたオーレリアを見つめるレックス。
「急にごめん。嫌じゃないなら安心した」
優しく微笑むレックス。
オーレリアは見つめることしか出来なかった。
オーレリアはドキドキしすぎてパニックである。
レックスが私を好き? いつから? なんで?
部屋に戻ったオーレリアは座り込む。
頭はぐるぐるしている。
ど、どうしよう?
いや、どうしようもないんだけど。私、鈍すぎる……
落ち着け! こう言う時は!
鞄を漁るオーレリア。取り出した種に魔力を込める。
花が咲く。向日葵だ。
「はぁ。かわいい向日葵……」
レックスが私を可愛いって言った。
思い出してしまった。ダメだ。落ち着けない!
その夜はうまく眠れない、オーレリアであった。
ーーーー
「おはよう!」
エイラは相変わらず元気である。
「おはようエイラ……」
オーレリアが席に座る。
ちょっと寝不足である。それに、昨日どうやって寮まで帰ったのか覚えていない。
「おはようオーレリア」
レックスが隣に座る。
「おはよう」
オーレリアは消え入りそうな声である。
レックスはそれを見て微笑んでいる。
昨日の事が頭から離れない。オーレリアは、赤くなりそうな頬を手で押さえた。
ーー第二部へーー
最後までお読みいただき、ありがとうございます。
第二部は、構想中です。
こんな展開にして欲しい、こんな話が読みたい……そんな感想お待ちしてます。




