36,鏡合わせの私達の幸せ
数年後。
国に蔓延っていた悪しき組織と貴族達の企みが暴かれ、国王陛下から褒章を賜った私は、公爵夫人となって一冊の本を世に出した。
それは、理不尽な婚約者に振り回されていた、性格のまるで違う二人の少女の魂が入れ替わり、それぞれの婚約者と縁を切って、自分らしい幸せを掴んでいく物語。
本の表紙には、物語に登場する二人の少女が、横向きに手を合わせるように描かれている。
(黒髪の少女ユーリと、白髪の少女アリエル。まるで、かつての私達みたいね。優里……貴女は無事に、諒一さんと幸せになれたのかしら)
完成した本の表紙を撫で、親友へ思いを馳せる。
夫である公爵自ら校正したという触れ込みと共に売り出されたその小説は、社交界でも瞬く間に人気となった。
更には、その本に背中を押された令嬢達の存在も大きかったようだ。
これまで婚約者に理不尽な態度を取られてきた令嬢達は、その本を胸に抱いて、両親や婚約者本人に婚約破棄や婚約解消を申し出たらしい。
「この本の少女達が、わたくしに勇気を与えてくれたのですわ」
「どれだけ願っても、相手は変わってくれない……。だから私自身が変わらなくてはいけないのだと、この本は気付かせてくれたんです」
そんな声に後押しされ、小説は今も飛ぶように売れている。なお、令嬢達や夫人達に横暴な態度を取り続けてきた令息達や夫達は、揃って顔を真っ青にしたらしいけれど……。
「それなら最初から私のように、妻を心から大切にすればよかっただけでしょう。ねぇ、レイーラ」
「えぇ。政略で結ばれた関係だったとしても、お互いを尊重し合うことは出来るはずです。相手を理解しようと努力することも」
出版社のインタビューに、私達は寄り添いながら仲睦まじく答える。
「それが出来ない関係なんて、いずれ破綻するだけです。けれど、恵まれない境遇から抜け出したいと思った時、一人で立ち上がるのは難しいでしょう?そんな方の背中を押し、心を支える拠り所になればと願って、この本を執筆したのですわ」
――そう。私がかつて、彼女に支えられたように。
理不尽な言葉に縛られ、かつての私達のように日陰で泣いている令嬢が何処かにいるのなら。一人でも多く、囚われた檻から広い空の下へ飛び立ってほしい――そう願って。
私がそう伝えると、少しだけ抱き寄せられた。耳元に温かな吐息がかかる。
「私としては、ユーリに妬いてしまうんだけれどね。魂で繋がっているだなんて、卑怯じゃないか」
「まぁ!ふふふっ、フィルミーノったら」
記者に聞こえないほどの小さな声で耳打ちされ、くすくすと笑ってしまう。
フィルミーノには私の夢の話は全て伝えている。本当に魂が入れ替わったことまでは話していないけれど、この方のことだから、もしかすると察しているかもしれない。
そして、夢で見た少女をモデルにして“ユーリ”を綴ったことも知っている。私がどれほど彼女を大切に想っているかも――。
(貴女はフィルミーノに慄いていたけれど、彼は貴女に嫉妬しているらしいわよ、優里)
「彼女達はただの登場人物ではありません。過去の私の姿であり、私の心を支えてくれた親友なんです。そして、傷付いた私を見付けてくださったのはフィルミーノでした。私の幸せは、この方のおかげなんです」
「……こうして面と向かって言われると少し照れくさいけれど。私も彼女と出会えたから、人を信じ、愛する喜びを知れました。私の幸せも、彼女のおかげです」
私達は顔を見合わせて微笑んだ。
きっと彼女も、愛する人と幸せに笑い合っていると信じている。
こことは別の、同じような空の下で――。
後日、その取材記事は本のタイトルと共に大きく掲載された。
その本のタイトルは――
『鏡合わせの少女達の幸せ』
これにて、
【 入れ替わり令嬢はもう黙らない。〜モラハラ婚約者を捨てたら公爵令息が味方に!?鏡合わせの私達は幸せを掴みます〜 】
は完結となります!
ここまで拙作をお読みくださった皆様に、心からの感謝を――本当にありがとうございます!
レイーラとフィルミーノによる断罪。
夢の中での優里との邂逅と、優里と諒一の出会いやざまぁ。ドタバタ婚約、そして結ばれた二人のその後――いかがでしたか?
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※先週にも告知した通り、このあと活動報告を投稿いたします。お読みくださった皆様への感謝を書いておりますので、お時間のある方はお読みいただけますと幸いです!
また、少し宣伝させてください!
▶短編の新シリーズ:恋落ち目撃シリーズ
こちら、昨日既に1本投稿しております。
『幸せに浸る隙なんて与えてやりませんわよ?』
毎週金曜日20:30頃に、4週続けて投稿を予定しております!
来週の公開予定タイトルは、
『わたくしの婚約者が“運命の人”と出会いすぎる件』
です。どうぞお楽しみに!
▶5月末~6月上旬開始予定の新連載
『悪女レニエラの罪は暴かれる ~閣下、どうぞ“わたくしの部屋”をお探しください~』
次の長編は、ミステリーの要素が強めの作品となっております!
そして次回の目玉として、少し変わった試みでエンディング分岐を“4つ”ご用意いたしました!
こちらについては作品公開時に詳細を記載いたしますので、今暫くお待ちくださいませ!




