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いやはやだよ全く。

こんにちは!狭川です。


しがない販売員です。家電量販店の副店長やってます。


今日はほどほどにお客さんが来る。


扇風機や送風機、テレビやら電子ピアノの音。

有線から流れる音楽で、毎日ガヤガヤしているけど、客の入りは日によって違う。

土地ばっか広いからこの店舗規模だけど、大して人はこない。


今お客さんが入ってきた。ありがたい。

モックを拭いてるスマホ売り場担当がわざとらしくならないように持ち場にいるから安心。こっちはいちいち指示しない。


少子高齢化のおかげで、スマホもパソコンも買いにくる人はそう多くはない。せっかく来てくれたお客さんが、気に入ってくれたり仲良くなって買ってくれても、家族が怒り狂ってクレームを入れてきたりする。だから慎重にね。


喜んで買って行って家に帰っても、家族が「親にいらないものを売って!」って怒るんだよ。申し訳なさそうなご年配を何人も見てきた。こっちも申し訳なくなる。でも、そういう子供おじさんおばさんに限って、親と同居してるわけでも、介護してるわけでもない。全く、暇で羨ましいって思ってしまう。


上からは売上のために、お客さんが来たら検討で帰すなってお叱り受けるけどさ。


いやいや。大体の若いお客様らスマホでAmazon見てんだよ?検討しにきてるんだよ。




今日初めて会った店員がどう仲良くなればその検討をひっくり返せるのか、それはもう慣れとセンスだ。


自分はセンスがないから、慣れるまで断られまくる。

押しすぎると帰ってしまう。




ほとほとに難儀な商売だよね。一応はね。転職も考え中なのだ。




休憩中に転職サイトでも見るかと思っていると、

「おーい。ゆりー。」と、呼ばれる。

自分をこの名前で呼ぶ人は店長の中山だけである。



「休憩に行ってくれないー?」

と中山は申し訳なさそうに言ってくる。10時に勤務が始まって12時には休憩。そのあとぶっ通しで19時までだけど、他の子には嫌な顔をされるから、断らない奴に頼むのだ。


「わかりましたー。」私はスマホを触りたいからちょうどいい。



バックヤードのパイプ椅子に座る。


求人サイトを見ながら、あーこの仕事も6年かぁ。とぼんやりする。もちろんこの時間なので食欲はない。


「ゆり、悪いな。いつもいつも早飯で。」と悪びれず一応は謝罪する中山は、謝る割にこっちは見ない。売上確認やら、月末までの残数やら、上からのお叱りメールがきている業務用パソコンとにらめっこだ。


一応自分も休憩中ではあるが、仕事をしているふりをしておく。業務用のパソコンで自分の名前のアカウントにアクセスする。

今私は狭川だが、旧姓が百合川。旧姓と言っても、6年前に結婚していた時が百合川で、この仕事を始めてから離婚して、さらに再婚して狭川になった。百合川は前の夫の苗字だった。中山はいちいち変えるのが面倒なので、ずっとゆりと呼んでいる。


というか、店長からは「おい」とか、「お前」と呼ばれることの方がずっと多いんだけど、お店のスタッフから差別だパワハラだと文句が出たせいで「ゆり」に落ち着いた。


主にほのかがゴチャゴチャ言い始めたから面倒で統一しただけで、私はどうでもいい。心底。



店長は、お前、短期間で苗字変わりすぎ、とよく言う。それはそうだよね。店長と一緒に働き始めた6年で3回苗字が変わったわけだし。また川だし。



片手間に求人サイトをダラダラ見ていると、中山はしばらくこっちを見ていたようで


「何お前、転職すんの?」と聞いてくる。

「いやいや、参考までにですよ。」と言うが、「お前はセールスとか接客業が向いてるよ」と返してくる。


というか、人のスマホ覗かないでー。

お前って呼ぶからほのかがゴチャゴチャうるさいんでしょうがよー。


と言ってやりたいが、一応歳上で上司なので、あまり言えない。


パワハラだとも嫌だとも特には思わないが、ほのかが本当にめんどくさい。たった1つのことをいちいち大きくして、騒いで、被害者ぶるのだ。


「まあ転職したい気もよくわかるよ。これだしな」

監視カメラを見ても大してお客さんはいない。

いてもある程度高齢で、慎重にならざるを得ない。売っても返品されては二度手間だし、何より悲しい。


「まあ、見てただけですから」


私はテーブルに突っ伏し、仮眠をとるふりをする


「まあ、辞めたくなったら早めに言えよー。心の準備しておくからー。」




アラームが鳴るまで、テーブルに突っ伏したまま音楽を聴いて、ひたすら他の音を聞かないようにした。



アラームの振動で休憩から戻り、いつもと変わらない就業時間。いつもと同じ業務。



19時を過ぎ、他スタッフは退店。

残りましょうかと言ってくる優しいスタッフは多い。とてもありがたい。でも帰ろうね。お疲れ様。


バックヤードには人数分のロッカーがあり、着替えもするので奥まで入らなければ特段見えることもない。


副店長と店長が、その奥で何をしようが、業務関連のことと言えばだいたいは話が終わる。


今日は凛は休みなので、閉店作業で残れるのは店長と自分2人。中から鍵もかけている。



中山とはもう6年の付き合いになる。この関係になってからでもある。


奥さんがいるのも知っているし、子どもの写真も見ている。奥さんがいない時にたまたま会って、可愛くて抱っこさせてもらったこともある。


そんなことは置いといて

「咥えろよ」とニコニコ話す中山の声色が好きだ。

ゴツゴツした手が顔を掴むのが好きだ。


毎回毎回喉奥に突っ込むせいで、バックヤードの奥でよだれと鼻水まみれ。苦しいけどね、突っ込まれてる最中はやめてって言えないからね。


終わったら終わったで終わりだし、出さなきゃ入れるだけ。



なんてシンプル。動物みたいだ。



心の準備しておくなんて嘘であってほしいけど、実際嘘なんだろうな。この人結局、女で憂さ晴らししたいだけだしな。


前に、何故か急に真っ当に、普通に生活してみたくなったことがある。(今でもちろんそれがいいとは思うが)


転職を口実に、関係を止めようと伝えたが見事に玉砕。泣かれてしまってからは弱かった。



お前がいないとダメなんだ。という言葉がどうにも嬉しくて、嘘だって知ってるのに、結局転職も関係を解消もしていない。



あらかた終わると、またも何もなかったように片付ける。掃除もするし、消臭もちゃんとする。


20時半になった。私もこの人も、自分の家に戻る。

車で帰宅する私と、歩いてバスの中山。

送っていくようなバカな真似はしない。


挨拶もしない。背を向けて歩いていくあの人を呼び止めるわけでも見つめるわけでもない。


心の準備しておく、と言うこの人に、また泣いて欲しいと思ってる。私のせいで泣けばいい。それは当たり前だけど、中山には言わない。



もう自分がどうしたくて、何が楽しくてこうしてるのかほとんどわからなくなってるから、毎日がダラダラとすぎていく。



あー、腰ダルーい。と思いながら、今日も終わる。

毎日バカみたい。自分って動物より愚かだよなと思いながら職場を出ると、もう秋の風になっていた。



えっ、7年目になっちゃうじゃん。

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