#96.譲れぬ想い
「……あちらは盛り上がっておりますわね」
「隙ありです!!」
ヴリドラが視線を外した隙を見逃さず、リコが必殺の一太刀を振るう。
「わたくしに隙はありません!!」
ヴリドラが振られた一太刀を押しとどめるよう、カラドボルグの穂先でレーヴァテインを捉える。
―――ガキンッ!!
刃先を止める精密な一突きにリコは苦虫を噛み潰したように眉を寄せる。
「そう簡単には取れませんか……」
「愚論ですこと。それしきのことでわたくしの命に届くと思ったのなら自己評価が高すぎますね、竜の魔女」
剣を引き、ヴリドラの繰り出す高速の刺突を受け流しながら、リコが徐々に間合いを詰めていく。
「この槍を受けて退りませんか……名に違わず勇猛でいらっしゃること……」
「アナタの距離で斬り合おうとは思いませんよ。
力づくでもこちらの間合いで戦わさせていただきます!!」
「さすがの場数ですね、久方ぶりにわたくしの火が燃えたぎっております!!」
「もうとっくにコチラの間合いだというのに、この槍さばき……神の御子はかくも忌々しいものですね!」
ヴリドラの一突きを踊るように躱し、リコの美しい青髪が尾を引いて弧を描く。リコが翻ったレーヴァテインを振り払い、カラドボルグの下からヴリドラの横腹めがけて剣閃が走る。
「―――フッ!!」
「くっ……!?」
槍を引いていては間に合わない―――、そう直感したヴリドラは槍を持つ反対の手を袖口に突っ込むと持ち手がある刺突に特化した飾り気のない金属器を取り出し、くるりと回して逆手で握り、レーヴァテインを受け止める。
―――ギィンッッ!!
金属と金属が激しくぶつかり合う音が響き、鈍い銀色の輪郭を鮮やかな火花が縁取る。
「被弾覚悟の捨て身の一閃でも届きませんか……やりますね!!」
「今のは不覚でしたわ。私に守りの一手を使わせるとは……兄上との戦い以来です!!」
リコが薙ぎ払う剣筋のまま、ヴリドラの防御を押し切ろうと足先に力を込め、腰を落として体を捻る。
「その兄上を鍛えたのは私ですよッッ!!」
「存じ上げていますとも!!」
ヴリドラは流麗な肢体を横にしならせ、リコの力を受け流すようにして側転しながら体を捻りあげる。斬れ味鋭い黒の神剣が子気味のいい風切り音を立てて彼女の背面を流れていく。
ヴリドラの視界がくるりと一回転すると、その目に無防備に晒されたリコが映る。
「勝負ありましたね! 竜の魔女っ!!」
蒼き神槍がリコ目掛けて迫る。リコは剣を振り切った体勢のまま、不敵に笑う。
「案外、お上品じゃあ……ありませんかっ!!」
狂気すら感じるその笑いにヴリドラは少しだけ気圧されてしまう。
ヴリドラが突き通すか否か躊躇った刹那を見逃さず、リコが左手の甲でカラドボルグを受け止め、その美しい頬に鮮血が跳ねてアゴの輪郭を切り取る。
リコは貫かれた痛みを意にも介さず無理やりに槍の軌道を逸らし、カラドボルグが地面に突き刺さる。
「さあ、この槍を引いてご覧なさい? アナタが引くと同時にアナタは私の間合いですが……如何なさいますか?」
「竜の魔女、アナタに躊躇いはないのですか?」
「それこそ愚論です。私は一本の剣―――、マスターの脅威となるアナタを排除する為ならば腕の一本くらい差し出したとしても惜しくはありません」
「なんという覚悟――…、アナタはただ彼の傍に居るワケではないのですね」
「舐めないでください。マスターの為に戦うと決めたその時から、戦乙女は己の身命を賭して主を護る為だけに剣を振るうのです!」
「さりとて、わたくしにも譲れぬものがあるのです!」
リコは貫かれた手で槍を押し込めたまま、無理やり立ち上がってヴリドラを睨め付けた。
「抜かしなさい、痴れ者が。
手を抜いていて私を倒せると思ったんですか?」
「くっ!! お黙りなさい、アナタなぞ権能を使うまでもありません!」
「ならば、チェックメイトです。
槍を引くより先に私はアナタを叩き斬ります」
リコはレーヴァテインを握る手でカラドボルグを握り、左手から無理やり抜き取って槍の柄を血塗れの手で掴む。
「ぐっ……! やはり痛いものは痛いですねぇ……」
「これが戦乙女の胆力―――。
分かりました、認めましょう。アナタは敵として全力をもって排除させていただきます」
ヴリドラは大きく息を吸うと肺に溜めた息を静かに吐き出す。彼女の周りを静かな紅い炎が揺らめき、超高温に空気が歪むのがリコに見て取れた。
「不公平だと後で騒がないでくださいね?
焚き付けたのはアナタなんですから……」
リコは今までの戦闘経験から直感で危険を感じ、力任せに引き寄せようと足先を踏み締めて力を込める。
―――フワッッ!!!!
次の瞬間、ヴリドラが腕を引くとリコは力負けをしてしまい、いとも簡単に宙を舞ってヴリドラの元に引き寄せられる。
「軽いですね、とても」
「なっ―――!?」
ヴリドラが微笑むと引き寄せられたリコの腹に蹴りがめり込み、細い身体からベキベキと異音が鳴る。
「があっ!?」
「野蛮な戦い方をしたくはなかったのですがいたし方ありませんね。
無様に転げなさい、竜の魔女!!」
ヴリドラに蹴飛ばされたリコが地面をはね飛びながら地面を転げ回る。
「ゴホッ……ゴホッ……強烈ですね、これは……」
「わたくしの炎は因果逆転―――、わたくしの望みは全てわたくしの思うままなのですよ」
「まさかこんな乱暴な方法で引き剥がされるとは思いませんでしたよ」
リコが痛みを堪えながら立ち上がると、ヴリドラはニコリと笑った。
「力比べではアナタには勝てませんから」
「失策でしたね、ヴリドラ。今しか勝機はありませんでしたよ、アナタ……」
「言ってなさい、竜の魔女。この力を使えば万が一にもアナタに勝ち目はありませんことよ?」
美しく鮮やかな紅炎が燃え盛り、ヴリドラの背に膜翅が形成される。
「ずい分と大仰なこけおどしですねぇ〜」
「あら? 意外と便利ですのよ、こちら」
ヴリドラがトンッ―――と地面を蹴り上げ、超高速でリコに接近する。
カラドボルグが迫り、わずかに反応したリコは半身を捻って何とか躱す。
「なるほど……そういうカラクリですか……」
「初見で看破するとは流石ですね、竜の魔女」
「扇状にその炎を放射展開することで飛ぶという因果を生み出している訳ですか。
やはり、こけおどしではありませんか。飛べたところでなんだというのです。
姿勢もままならない突きなど私には当たりませんよ?」
リコが呆れたように鼻から息を抜くと、ヴリドラが妖しく笑った。
「―――それは早計ではなくて?」
リコが訝しがるように眉を寄せる。
―――ブシュッ!!
「ぐっ……!?」
突然とリコの肩口が切り裂かれ、彼女が思わず顔をしかめながら切れた肩を押さえる。
「確かに避けたハズです、なぜ……?」
「アナタは何を"避けた"のですか?」
「アナタの突きは当たらなかったっ!」
「ふむ……"当たらなかった"ですか。
そうですね、確かにわたくしのカラドボルグはアナタに避けられて当たりませんでしたね。
ええ、正解です」
リコが肩から手を離してレーヴァテインを構える。
「厄介ですね、これでは迂闊には近付けませんね」
「おや? 距離を置いて良かったのですか?」
「くっ……!!」
リコの眉間を一筋の汗が伝い、あごの先から地面に落ちた。
ハジメマシテ な コンニチハっ!
高原律月です!
竜の魔女、96話ができました。
リコリスvsヴリドラ戦、ずっとやりたくてウズウズしておりました(ノ)・ω・(ヾ)
なんでかな、セイバーとランサーの戦いっていいですよね(笑)
ちなみに、たかーらはランサー派です!
それでは、また次回〜 ノシ




