#78.剣聖ロゼリア・シュルーズベリー
「さてと、お話を聞きましょうか? お姉さん?」
「アナはどうしてそう、高圧的なんだい?」
「そんなつもりないわよ!」
屋敷まで引きあげてきた僕達は赤装束の女性を応接間に座らせた。
「先に斬りかかったのはこちらです。
非は私にあります、申し訳ありません……」
「どーせ、ロイがおちょくるようなことを言ったんでしょ?」
「はい、僕のせいです。ごめんなさい……」
「いえ、問答無用で襲いかかった私がいけなかったのです。叩き伏せてから吐かせればいいと自惚れた結果がこのザマです」
「危ない思想だなぁ……まあ、僕に常人離れした肉体がなかったら勝てなかった可能性の方が高いけども……少し危険じゃないか?」
しゅんとした彼女は借りてきた猫のように体を丸める。エマがそんな彼女に問いかけた。
「それよりも、剣聖といわれる"赤薔薇の騎士"が後先も考えずに街中でなぜチャンバラしてしまったかです。
あれでは醜聞を晒してしまうだけでしょう?」
「私は剣聖ではありません。その名を語っていいのは先代だけです……」
「ふむ、事情が複雑そうですね」
「確かに私は赤薔薇の騎士と共に剣聖の称号を先代から譲り受けましたが、それは歴代の赤薔薇の騎士の威光であり私自身の実力ではありません!」
「あれだけの剣術を持っていても?」
「貴方に勝てなかったではないですか!! それが全てです!」
「ケガとかはないかい?」
「この上、情けまでかけるというのですかっ!!」
「あはは、元気だなぁ〜」
この子、いちいちオーバーリアクションで面白いな。とか思っていると痛い視線が突き刺さる。
「ますたぁ……?」
「アンタ、真面目にやってんの?」
「ケダモノ……」
「ロイさん、彼女は深刻なんですよ?」
咳払いをして気を取り直す。
「それで、その先代は?」
「私に赤薔薇の騎士を託した後、この四年間行方不明です。
私は師にどれほど近付いたか己の力量を試したくて腕が立つという貴方に襲いかかったのです。
少なからず、そういう野心はありました」
「なるほど、重責による焦りか……気持ちはよく分かるよ」
「剣聖と持て囃されても私はまだ未熟……先代に少しでも近付きたいのです!」
「うんうん、わかるわかる!!」
「アンタ、真面目に聞いてあげてるの?」
「失礼だな! 至って真面目だぞ!」
「こんな生真面目お姉さん相手にそんな軽い相槌してたら適当にあしらわれてると思っちゃうでしょ!!」
「そーいう性格なんだよっ!」
「ロゼリア・シュルーズベリーです。生真面目お姉さんではありません」
「あ、お堅いの気にしてるんだ……」
ミレーユさんが淹れてくれた紅茶をすすりながら彼女はすました顔で自身の名を告げた。その様子を見て、アナは少し気まずそうに目を逸らす。
僕達も自己紹介をしてひとまず苦い空気を緩和させた。
「とりあえず、今回の件は公務ではない?」
「黙秘します」
彼女はすましたまま、紅茶を口元に運ぶ。
「ロゼリアさん、捕虜になったら尋問しやすそうだね……」
「……ブふッ!! なな、な……なぜですか!?」
「今の質問で黙秘は公務ですって言ってるようなものなんだけど?」
「違います! 断じて否ですっ!!」
僕の後ろで「リコさん、これは……」とか「ええ、侮りがたい天然ですよ……アナさん……」とか「私と同じ匂いがします……」とか「ロイさんから今すぐ引き離した方がよいのでは?」などと意味不明な審議が始まる。
「あの……?」
「ああ、この人達はちょっと変わってるんだ」
「「アナタだけには言われたくありませんっ!!」」
「なんでだよっ!!」
話を進めたいが、どうも埒が明かない。
「本題に移ろうか……アナタは王国からの命令で僕達のことを探ってたのは間違えないね?」
「はい、そうです」
「得体の知れない新興勢力の内情を探るのが任務なわけだ?」
「隠しても意味は無いでしょうね、その通りです」
「どうしたらこの場を退ける?」
「貴方達の目的や戦力の規模、ロメリア王国の敵ではないことを明らかにしたいと思います」
「まあ、急に資金を積み上げて家屋を買い漁っていれば不審だと思うのは当然だろうな……」
「民の安息を脅かすのであれば速やかに排除するのが我らの使命ですので!」
「ちなみになんだが……これは言った方がいいのか悩むところなんだけど……」
「なんです?」
「探りを入れるのに身元がバレバレになるような格好は今後控えた方がいいと思うよ?」
「というと?」
「ご立派な武装で街を練り歩いていたら内情を探ってるの丸わかりだから。
自信家なのは分かるし、打ち合ったからこそ生半可な腕じゃないことは分かるけど……ロゼリアさん、壊滅的に極秘任務をこなすの向いてないと思うんだ。
すでに僕のとこに王国騎士から探りが入ってるって情報が漏れてるんだよね、これがまた……」
「なんですって!?」
「会場で殺気バチバチにこっちを睨むのもバカ正直すぎると思うし……」
また後ろで「いわゆる、剣術バカってやつですね」とか「根性がひん曲がってるロイからしたらチョロい小娘よ」とか「ロイさんはケダモノ……」とか「やはり早急に引き離しましょう、ロイさんと会話させるのは危険です」とか聞こえてくる。
―――ジル、二回もケダモノは言わなくていいだろう。
そう思いながら、半分罵声の言葉を無視してロゼリアさんの探りに対する答えを提示する。
「僕達のことが知りたければ、この街のギルドマスターに話を聞くといいよ。
その方が話が早いだろうし信用度は高いだろ?」
「わかりました」
彼女は勢いよく席を立つ。
「お邪魔しました、所用が出来たので失礼します!
お紅茶、ご馳走様でした。とても美味しかったです!」
剣の柄に手をかけ、やる気満々でふんふんと鼻を鳴らす彼女にひと言。
「いや、この時間に押しかけたら非常識でしょ?」
「あ……そうですね……」
とんでもない猪突猛進っぷりに頭を押える。しおしおになって座る彼女に声を掛けた。
「とりあえず、今から晩ご飯だけど食べてくかい?」
「そうさせていただきます……」
数分後、僕達は絶句した。
「もぐもぐ……美味しいです!!
おかわり下さいっ! ガツガツ……おかわりっ!!
ミレーユさん、お料理お上手ですね!」
「すごい食べっぷり……」
「どうしましょう?」
「困ったな、こりゃ」
よほどお腹が空いていたのか、尋常じゃない勢いで料理を平らげていくロゼリアさんの食べっぷりにミレーユさんが珍しく困り果てた顔をする。
「んー、困りましたねぇー。美味しく食べて下さるのは嬉しい限りなのですが、食材も作るのも間に合いませんよ……」
「たぶん、この手の人は胃袋が無限だから尽きたところでストップでいいと思う……」
「そうですねぇ〜」
満足そうにデザートを頬張るロゼリアさんに思わず尋ねる。
「ロゼリアさん、とんでもない食欲ですね」
「こんなに美味しいご飯は久しぶりですっ!」
「良かったですね、ミレーユさん」
「はいー!!」
「まあ、ご飯にありつけるの自体が三日ぶりくらいなんですけども!!」
「……は?」
「先日、財布を落としてしまいまして!」
「え、どーやって過ごしてたんですか?!」
「騎士たるもの、野宿など取るに足らぬことなのです!!」
「うわぁ……」
なんで、王国はこんな人間を選任したのだろうか……人選ミスどころじゃないだろ、こんなん。なんて思いながらドヤ顔の彼女を見やる。
「えーと、他に同行してる人とかは?」
「部下は絶対についてくると言いましたが、振り切ってきました!! 陛下直々のお達し、私一人で遂行して騎士団の株を上げるのです!」
あ、ダメだこの人……ヤル気が空回りするタイプだ――……。
「たぶんそれ、違う意味で心配されてますよ?」
「ちがう、いみ……?」
「一人にしたら野垂れ死にしそうで心配なんだと思います……」
「私はそんなヤワではありませんよっ!!」
「そうですか、それは大変失礼しました……」
ふんふん鼻息を荒くして詰め寄ってくるロゼリアさんを避けるように顔を逸らした。
リビングに戻るなり、彼女は糸が切れたようにソファに寝転がる。
「すぴー……すぴー……」
数秒もしないうちに可愛らしい寝息が聞こえてくる。
「むにゃむにゃあ〜……くぴっ!」
「なんなの、この人間台風……」
寝顔を見つめるアナの眉間がピクピク引きつっていた。
「系統的にはアナと同じ匂いするけど?」
「はぁあああ!?」
「うん、そっくりだな……」
「ふざけないでよっ! これと一緒ってどーゆー意味よっ!!」
「落ち着け、一緒にはしてない……ガクガク……」
激しくシェイクされる頭をされるがまま揺らされながら仲間達に問いかけた。
「みんなはどう思う?」
「小動物系ですね、癒されます」
「アナさんが小型犬、この人は中型犬ですね……」
「感情表現が素直で可愛らしいと思いますよ?」
「元気なわんこ系ですわね、うふふ……」
「だってさ?」
「人のこと、どーゆー目で見てんのよ!!」
「ハハハ、そーゆーとこだぞー」
より一層激しくシェイクされる頭を成り行きに任せて僕は乾いた笑いを零した。
ハジメマシテ な コンニチハ!
高原律月です!
竜の魔女、78話になります!
ファンタジーを書いてたら出したい職業No.1の剣聖ちゃん回です!
そして、ポンコツ化しました(笑)
どうも、ギャグは苦手です。
とはいえ最近は長々と説明的なセリフが多かったので、流れを戻すのにコメディを挟みました。
コメディやるとテンプレ化してしまうのが難点ですね……(´・ω・`)
それでは、また次回〜 ノシ




