#75.日々の暮らし
「やあ、呼び出してすまないね」
「我が王。本日はどのようなご用件で?」
「ガキにくどくど説明されても面白くはないだろう?
率直に聞こう、ここにお化けムカデの牙がある。こいつを細工の凝った武器に出来るかい?」
「……期限は?」
「一週間だ、それ以上は待てない」
「無理難題をおっしゃいますな?」
「キミ達なら出来るさ。こいつを大仰で華美な武具に仕立ててくれ、客寄せの目玉にしようと思う」
「加工の工程すら分からない物を一週間で完成させろと? 失礼ですがアナタは物作りの難しさをまるで理解してないと見受けられますが?」
「ああそうだな、そう思うよ?」
「でしたら、期限を設けるのは……」
僕はクリスに目配せをした後、ノームの職人の目をもう一度見返す。
「そう言いながら、その目はすでに職人の目になっているんじゃないか?」
「無理な期日に見た事も無い素材を仕立てろと言われれば、職人としては胸が高鳴るというものです。
すでに頭の中ではイメージも湧いていますが、加工の工程にどれだけの時間を費やすかが分からないことには簡単には首を縦には振れませんな……」
「こちらで出来るサポートは行うつもりだ。すでに、この素材の加工手順などは解析させてある。
こういうのが得意な種族がいるだろう?」
彼は目を丸くするとクリスから手渡された資料をパラパラとめくった。
「アルラウネ種ですか……いやはや、彼らの自然に対する造詣の深さには恐れ入りますな……」
「ウンディーネ達にも協力してもらったよ。未知の素材や流通の少ない素材をぶっつけ本番で加工しろなんて無茶は言う訳ないだろう?」
「我々の腕を高く評価していると?」
「無論、キミ達だけじゃないが……加工品を流通させて商売の基盤にしようと考えてるんだ。職人の腕を十全に活かす為に素材の解明を出来る部門も構成しておくってのは管理側として当然だろ?」
「お見逸れ致しました」
「それで、出来るのか? 出来ないのか?」
「やるとしか言えないでしょう。ここまで詳細に分析された資料があって出来ないとなれば、ノーム一族の名折れですよ」
「キミ達はアイデアを形にすればいい。良いものを売るのはこっちの仕事だ、良いものを作る為の調査もこっちの仕事……キミ達は良いものを作るのが仕事ということさ」
「ちなみに資材の調達などは?」
「明日の朝までに終わらせるさ。
細かい材料などの指示は今晩のうちにまとめておいてくれるかい? 二日以内に用意させよう!」
「そこまで整備してあっての、この話ですか……王よ、アナタはどこまで先を見ているというのですか?」
「まだ何も見えてないさ。やれることをやって、必要だと思う工程は人から聞いてるだけだからな。
僕自身は判断して指示を出すだけなんで気楽なもんだよ?
形にするのはキミ達だ。それぞれの強みを十二分に引き出してくれよ」
「この件、謹んでお受けいたします」
ノームの彼が退出した所で僕はパーティメンバーの皆に問いかけた。
「人間にとって未知の文化を引き入れた。
ギルドという大きな団体とコネクションも作った。
調達ルート確保もした。
資金面の問題は先送りだ……これは交渉の余地があるからね。
……次に打つべき手はなんだと思う?」
「マスター、いつの間にここまでのことを?」
「ダンジョンに潜る前からかな?
定期で街に戻ってきたのはクリスに進捗確認をしてもらう為だし、そもそもダンジョン攻略に乗ったのもこの為だしな。
エマの存在は本当に大きいよ。
ギルドや公的機関との交渉を進めるのに、ある程度の顔が利く人材をお誂え向きに用意してくれたクライフさんは相当切れる人物だってことさ。
お陰で一番問題になりそうな障害を楽々クリア出来たってわけ。
まあ、マージンバックはエグい要求されたけども……軌道に乗ればそこまで問題にはならないかな?」
「ロイさん、なぜ私達には教えてくれなかったのですか?」
「ん? プレッシャーで逃げそうな時にリコもジルも叱責してくれてたから分かってるんだろうなと勝手に思ってたよ?」
「え、知らなかったの私達だけなんですか!?」
「二人が知らなかったなら、そうなるね!」
リコとジルが顔を見合わせてうなだれる。
「それで、次に打つ手とは?」
リコが呆れたような口調で僕に尋ねた。
「原罪は強大だ。それこそ軍勢の規模でいえば人間と精霊を合わせた所で比にならないくらいの物量を持っている。
人間が打ち勝つには彼らを知らないとならないし、物量差を押し返せるだけの武器が必要だとは思わないかい?」
「なるほど、言いたいことは分かりました」
「リコとジルは戦闘担当だから難しく考えることないと思う。それぞれの強みがある訳だし、キミ達は下手したら数万の物量をひっくり返えせる人材だしね!
そうなると、僕達に今必要なのは大きく開いた差を数万規模くらいにまで埋めることだと思う。
それはアナとクリスの領分だと思うな、もちろんリコとジルの発想が使える手立てになることもあるかもしれないし……だからこその話し合いの場ってことさ!」
「ロイさんが知らないうちに出来る人物に……」
「失礼なヤツだな、ジル……」
「マスターはこっち側だと思ってました……」
「リコまでっ!?」
僕はそんなに間抜けに見えるんだろうか、二人は露骨にショックを受けた反応を見せる。
「……というか、この場に私が居てもいいのですか?」
「むしろ、エマが居てくれないと困るよ? クライフさんにいちいち取り次いでもらうの面倒くさいじゃん?」
「それは確かに……」
「アナ的には信用し切れない部分があるみたいだけど、僕としては原罪の問題を抱えてる以上はクライフさんもこっちの話に乗るしかないんじゃないかと思ってるからさ、心配してないよ」
「密偵を使って相手に情報を与え、それを逆手に取って優位を作り出すとは……」
「買いかぶりだね、そいつは。しがらみの多い人が勝手に雁字搦めになっただけの話だろう?」
「まあ、そうかもしれませんが……」
僕は考えをまとめるよう椅子に深く腰かける。
暖炉の火が薪を焼いてパチパチと音が響いた。
ハジメマシテ な コンニチハ!
高原 律月デス!
竜の魔女 第75話でした。
バトルそっちのけになってしまってますが、これはこれで執筆が楽しいです((´∀`*))ヶラヶラ
それでは、また次回〜 ノシ




