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#73.竜の魔女


 翌日、僕は夕飯の後にリコと二人になる時間を作って彼女に尋ねてみた。


「なあ、リコ?」

「なんです?」

「リコは全部知ってたのか?」

「なにをです?」

「竜の魔女のことも、英雄のことも」

「全部ではないです、私はアイリスやヴリドラと違って時間の移動は出来ませんからね」

「リコはどういう存在なんだ?」

「それは難しい質問ですね……」


「みんなにも聞かせた方がいいでしょう」と彼女が言うので、メンバーを集めて彼女の話を聞くことにした。


「どこから話したらいいのか……」

「ミティアと竜の魔女、それから聖女について聞きたいわ。話の根幹はそこよね?」

「アナさんは鋭いですね。

 まず、ミティアについてですが私も全容は分かりません。神聖道教会内では大いなる母であり、神として崇められる我らが父の伴侶の基盤となった女性です。

 それは神聖魔法師であるアナさんだけではなく、皆さんはご存知かと思われます」

「でも、その母と崇められる女性の名はミティアではありませんよね? なぜ?」

「ミティアは父と母が怒り、神罰を降す際の器と神聖道教会の原典には記されています。

 彼女の名は神の怒りそのものを意味します。同時に大災厄とは父の神罰を表す言葉として教会内では用いられますね。

 そして、竜の魔女はミティアを抑える為に人々の穢れや罪を請け負い、人々の生活を支える為の藁人形だと思って下さい。平たく言って、生ける肥溜めのような存在なんですよ……聖女というのは……。

 黒を内に孕み、白く見せることで人々の心の拠り所となっているのです」

「私がざっくり説明するわ。教会内の定義では、建前が神聖なる御神体で本音が穢れを注ぐ器っていう相反する二つを内包するのが聖女であって、反転して悪しき魂に堕ちることで竜の魔女となるのよ。

 それを代行し聖女の負担を軽減する為の使徒が神聖魔法師ってわけ!」

「なるほど……」

「存在するだけで穢れを持ってしまう聖女は神聖魔法を扱うことは出来ません。

 ですので、私は剣を振るうことしか出来ないのです……聖女の魂と魔女の魂を分離して神性を持つマスターを媒介にすれば、一時的に小規模で神の御業を行使することは出来ますが……」

「難しい話になってきたぞ……頭がパンクしそうだ……」

「ロイさん、私もです……」


 僕とジルは頭から煙を出してフラフラさせる。よくクリスとエマはついていけるなーと横目で見ると、エマは普通に許容範囲を超えて固まっているだけだった。


「プスプス……」

「エマは知識系に強いけど哲学系には弱いんだろうなぁ……」

「エマさんって生真面目だから考えすぎてしまうのかもしれませんね……」

「そこ! 真面目に聞いてるの?」


 気分は神父様の開いてくれる教室にうっかり顔を出してしまった時のソレである。雑談して怒られるとこまでそっくりだった。

 あの師にして、この弟子ありって感じだ。


「こほんっ……要約しましょうか?」

「そうですね、お願いします。これについて行けるのはクリスだけです……」

「ミティアは聖女であり、竜の魔女です。私はミティアをイメージして構築された戦乙女であり、聖女でもある。

 つまり、竜の魔女である私は世界の厄災ということです」

「……えと、前置き要らなくなかった?」

「正確な捉え方をしてもらわないと意味合いが変わってしまいますからね!」

「そーよ! 結果良ければ全て良しってのはそこに至るまでの過程を理解してて言える言葉なのよっ!!

 ロイみたいなのはすぐ臨機応変とか言うけど、そゆのは行き当たりばったりって言うのよ!!!!」

「はいはい、いつもご迷惑をお掛けしてますよ」

「開き直らないでよね! このおバカ!!」

「でたでた、説教オタク……」

「聖職者なんだから当然よ!!」

「アナさん、脱線してます。ロイさんなんて無視してください。話が進みません……」

「ジル、その言い方はないだろー!!」

「人の話を聞く時は態度というものがあるんですよ? 今のは茶化したロイさんが全面的に悪いです……」


 この流れは今までの人生で何回味わったのだろうか。もはや、板についたものである。


「後は英雄の話ですね。

 私が観測して来た限りの情報になってしまいますが、彼らは人間の持つ八つの原罪を各々が引き受けることで大災厄によって崩壊する世界に歯止めを掛ける装置のようなものなのです。

 そして、マスターが持つのは"慈愛"ですね。

 一見して慈愛は尊ぶべき美しい行いではありますが、行き過ぎてしまえば己の正義を正当化して利己的に振る舞う知性悪でもあります。

 これが最も厄介で最も恐ろしい原罪と言えるでしょう……知性の発展で行き着く先はそこです。

 最後の原罪とは、人類の最終到達点の中でも一番悪意があり陰湿なんですよ……」

「確かに……考え方を変えてしまえば、人間を滅ぼすことが一番の救済といえなくもないな……」

「そうです。現世の苦しみから解放するには死という救済を与え、幽世と現世の狭間に世界を造ることで全人類の救済を完遂させる。

 これも、一つの到達点でしょうね」

「結論として、英雄ってなんなのさ?」

「英雄は人々の形而上の思念が生み出した欲望を超える為の試練の体現者ということです。

 原罪の行動原理は今の英雄が持つ原罪に準拠して行動をします。原罪は英雄を取り込み、大いなる1……神に成り代わるのが運命としてあり、英雄は原罪を否定し、人間の可能性を拡げるのが宿命です。

 アナタは英雄としての側面、原罪としての側面、その両側を持っているので、マスターの結論で世界が変わるのです」


 リコが言い切った所で仲間達が自然と僕を見やる。


「んー、難しい……」


 言ってることがちんぷんかんぷん過ぎて、何の話をしてるのかすら良く分からなかった。


「ロイさん、大丈夫なんですか……?」

「ああ。なんとかなるんじゃない?」

「ロイ様? 世界の命運を握っているのですよ?」

「世界とか言われても分かんないんだよね」

「本当にマイペースね、アンタ」

「痛いのは今もイヤだし戦うのだって嫌いだよ?

 でも、村のみんなや精霊達……出会った人が居なくなるのも嫌だからさ……戦わなきゃなんだよなって思う。

 それじゃ、ダメかい?」

「……はぁ、器が大きいと表現しておきましょうか」

「まあ、やれることを目の前からコツコツだな!」


 僕は席を立つと、自室に向かった。


「みんな、ありがとう。

 やるべき事が見えた気がするよ!」


 退出する際にミレーユさんにコーヒーを淹れて持ってきてくれるようにお願いをした。


ハジメマシテ な コンニチハ。

高原 律月です。


竜の魔女、74話です!

ここで一時的に溜まった伏線回収に向けての仕込み回です。

今からここまでの伏線の暴露大会が始まりますよー!次話を書いてて楽しくて楽しくてw


それでは、また次回〜 ノシ

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