表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

PR
71/136

#69.天涯の女王

 迫り来る巨大な蛾や蜂、地を飛ぶ飛蝗を切り払う。


「倒しても倒してもキリがないっ!!」

「どれほどの数がいるというのですっ!」


 無限に湧く軍勢の王、ヴリドラがクスリと笑った。


「無駄ですことよ?」

「やってみなくちゃわからないだろう!」


 彼女は無垢な瞳を静かに逸らして嘆息した。


「英雄ロイ、アナタは我が同胞がどれほどいるか分かっていないようですね……」

「数の差がなんだっていうんだ!!」

「人間の数を"1"と、しましょうか……」


 白い瞳が月光に照らされて妖艶に光る。

 その瞳は威圧するよう不意にこちらを見た。


「我らは"万"です。それがどれほど絶望的な物量差か、バカでないなら分かるでしょう?」

「そうだとしても!」

「でしたら、気が済むまで、おやりになって……」


 ヴリドラが見下げるように冷酷な目でこちらを見やった。僕はフェンリルを掲げて黒の獄炎を吹かす。


「アナ! 神聖魔法をくれっ!!」

「ほいほい!」


 愛剣に纏わりつく黒焔は、僕がフェンリルを振り払うと意志を持つ生命のように蟲達に飛びかかった。

 獄炎に食われた蟲は羽を焦がし、躰を焼かれ、バタバタと落ちていく。


「クスッ……その程度では止まりませんよ?」

「ああ、そうだろな!」


 僕は前面にいる蟲達を焼き払ってクリスに目配せした。彼女は矢を番えて弓を引き絞る。


「クリスッ!!」

「承知いたしておりますわ!!」


 クリスが矢を夜空に撃ち放つと、天地をひっくり返すような水色の彗星が雲を割いていななく。

 途端、流星群となった矢が降り注ぎ、世界を水色の灯りで照らした。

 刺し貫かれた虫達がみるみるうちに光の粒となり、しじまの向こうに消えていく。

 その光の中を一筋の黒い影が隙間を縫うようにして走った。


術式(エンチャント):(:)静寂を呑(グロム・ヴォ)む雷霆(・グリミトゥ)!!」


 逆立つジルの黒髪を起点に彼の全身を静電気がバチバチと爆ぜる。


「これだけ空気が乾燥していれば使えそうですね……おあつらえ向きに羽が空気を擦ってくれています……」


 稲妻は弾かれたように駆け巡り、明滅をしながら蟲の群れを撃ち落としていく。


二重奏:赤(デュオ:ヴォル)と黄の葬送曲(トゥー・レクイエム)ッッ!!!!」


 閃光が暗闇を跳ねる度に万雷が帳の中を駆け回り、一気呵成に群れを殲滅した。


「ふぅ……こんなところでしょう…………」


 ジルの雷撃によって空を覆う黒い影は瞬く間に払われ、雲一つ無い中空に真白な月が輝いた。


「まあ、キレイですこと」


 ヴリドラはあくまで僕達に興味を持たないという風情で晴れた空を見上げ、大きな月を瞳に写しながら恍惚とした表情を浮かべた。


「このっ! こっちを向けぇ!!」


 僕は黒の炎を纏うフェンリルを振り上げてヴリドラに打ちかかった。


 ―――キィィィン……。


 彼女は空を見上げたまま、フェンリルの切っ先に蒼い槍の穂先を当てて僕の斬撃を止める。


「なっ……!?」

「王は強き者であるからこそ王なのですよ?」

「原罪の名は伊達じゃない訳だ!」


 押し込もうと力を込めると地面が割れる。微動だにしないヴリドラの周りに妖艶な紅い火が揺蕩う。

 僕達の焔とは違う、とてもたおやかで静かな紅き焔は気品と威厳に満ちていた。


「なんなんだよ、この異質な炎は!?」

「ロイ殿。アナタは獄炎を使役しているのかもしれませんが、わたくしは違います……従えているのです」

「どういうことだよ!」

「ただ使うのと従えるのではまるで本質が違います。ですから、こういう差を生むのですよ……お分かりになって?」


 現にヴリドラは力を入れることもなく、僕の全力を平然と受け止めている。


「どうして……と言いたそうなお顔をしておりますね? 簡単ですことよ、アナタの炎は派手に燃えていても何も燃やせていないのです。温度が低すぎる、それでは生木の皮は燃やせても芯は燃やせないのと同じことですよ」

「くっ……!!」

「アナタ方はわたくしを倒す気概で頑張っていらっしゃるのでしょうが、わたくしにとって今日この場に来たことは散歩のようなものです。

 そも、人など踏み潰そうと思えばいつでも可能なのですよ?」

「そんなことさせるかぁああ!!」


 ククルカン戦のように蒼い焔でヤツの紅い焔を喰い燃やそうと全身から蒼炎を燃やす。侵食するように僕の焔はヴリドラの炎を飲み込み、大きく膨れ上がる。


「折り込み済みです」


 彼女は慌てることもなく、更に炎の出力を上げた。逆に僕の炎を喰うように赤の炎は激しさを増していく。


「どうしてっ!?」

「アナタの火でわたくしの業火を喰うことは出来ませんよ? 熱量が違います、そんな種火では高温であるこの焔は灼けません」

「僕の焔が食われていく……!?」

「違います、アナタの蒼き火から熱を奪い取っているのです」


 僕はフェンリルを荒々しく振り回し、何とかして彼女に一撃を与えようと試みるが、ことごとく彼女の槍に静止させられる。


「もうおよしなさい。その刃も火もわたくしには届きませんよ」

「やってみなくちゃ分からないだろ!!」

「青いですね、とても……戦士は時に退くことも出来ねばなりませんよ。

 背中に背負う者達がいるならば尚さらです」

「くっそぉおおおおおお!!!!」


 ヴリドラは僕の剣撃を押し退けると槍を突き出した。その槍を間一髪、半身を捻って避ける。


「くっ、なんて鋭い突きだ!!」

「クスッ……」


 彼女は静かに笑いを零すと、抑えきれないのか徐々に声が大きくなっていく。


「アハハ……アハハハハハハハハ!!!!」

「なんだ、急に?」

「何とか避けれた……とか思っちゃいましたか?」

「どういう意味だよっ!」

「よくご覧なさい」


 ヤツの目線は僕の後ろを見ていて、その氷のような美貌は意地悪く歪んだ。

 僕は蒼い槍の先を追うようにゆっくりと振り返る。

 受け入れ難い現実が僕の目に映った。


「ガハッ―――……!?」


 槍の穂先はリコの腹を捉え、深々と突き刺さっている。


「リ、リコッ!?」


 ――ギリィィ……!!


「あぐぅ!?」

「ああっ!?」


 僕が悲痛な叫びを上げると槍は軋みながらリコの腹に食い込んでいく。


「わたくしの忠告を無視した罰です、重罪ですよ?

 王たるわたくしの言葉を聞き入れられないのであれば、それ相応の痛みを伴うのは必然です」

「リコを離せ!!」

「よいのですか? 私がこの槍を抜けば彼女の腹から大量の血が噴き出しますよ?」

「くっそぉおお!!」

「これは躾です、お分かりになって?」


 僕がフェンリルを手から零すと、ヴリドラは優しく笑った。


「いい子ですね、ふふっ……」

「クソッ! なにがしたいんだ、アンタは!!」

「安心してください、急所は外してありますから。そこの神聖魔法師が治癒すれば死ぬことはありませんよ。ただ、これ以上深く刺さればどうなるか分かりませんが?」

「早く用件を言えよ!!」

「……はて、用件? そんなものはありませんよ?」


 彼女は先ほどまでの冷徹な面持ちを崩して、まるで恋する乙女のように顔を赤らめて嬉しそうにニコニコと笑う。


「あぁ……その表情もたまりませんねぇ……とてもステキですよ、ロイ殿――……」

「気味が悪いぞ、アンタ!!」

「あぁん……そのお顔です。その憎悪に塗れた表情がたまりませんっ!!」

「なんなんだよ! 意味わかんないぞ!!」

「理解など求めておりません。わたくしはただアナタの嫌がる顔が見たいのです…………」


 彼女は立ち竦む僕の頬を撫でながら赤らめた顔を近づけて、扇情的な仕草でただ僕の目をじっと見つめる。


「ロイ殿、千と二十一年の間ずっとアナタに焦がれておりましたわ……」


 細く可憐な指で愛おしそうに僕の顔を撫で回した彼女は口びるを近づける。堪らず、僕が顔を背けると彼女の動きが止まった。


「……お仕置きが必要ですね」


 冷徹な声で彼女が呟いた。


「……ああああっ!!? ぐぅうううう!!」


 リコの悲鳴が背中越しに聞こえる。


「ロイ殿? 愛する人が死んでしまいますよ?」

「くっ……」

「ほら、こちらを向いて……わたくしを見て……」


 僕は逸らした顔をヴリドラに向けた。彼女は柔い口びるを僕の首すじに押し付けながら慎ましく笑う。


「なんと情けないお顔をなさって。

 そんなお顔なさらないで?」

「誰のせいで……クソッ……」

「でしたら、あの女を諦めてわたくしを殺してご覧なさい?」

「出来る訳ないだろっ!!」

「ええ、知ってます……ふふっ……」

「イカレてる! 狂ってるぞ、アンタ!!」

「これでもあの女を殺さないように必死に自制しているのですよ? 嫉妬で気が狂いそうな頭を押さえて私はずっとアナタのことを見ていたのですよ?」

「なんだってこんなことを……」

「すぐにでも殺したかった……アナタを私だけのモノにしたかった……けれど、愛する男を悲しませては女としての配慮に欠けるというものです」

「ヴリドラ、お願いだ。今すぐリコを解放してくれ……頼むっ……」

「でしたら、そうですね……」


 彼女はしばし考えるよう、可憐な瞳をクリクリと揺らしながら僕を仰ぎ見た。


「わたくしからもお願いしても?」

「ああ、分かった」


 ヴリドラはこちらの様子を伺いながら体を悶えさせる。


「あの……ロイ殿……」

「なんだ、早く言ってくれ!」


 陶器のような白い手が僕の前に差し出された。


「手を握ってはもらえませんか?」

「……は?」

「なに言ってんだ、アンタは?」

「だから、その……手を握って欲しいのです……」


 こんな時になにをふざけているんだ?と思ったが、挙動不審な所を見ると大真面目らしいようだった。僕が差し出された手を握ろうと手を出すと彼女は急に手を引っ込める。


「少し、お待ちになって!!」

「今度はなんだよ?」

「き、緊張で手汗が……申し訳ありません!」


 ヴリドラは慌てた様子で手のひらをスカートに軽く擦り付ける。


「頼むから真面目にやってくれよ! リコが死んじゃうだろ!!」

「わたくしは大真面目ですよ! あの女のことより今はわたくしを見て欲しいです!!」

「こんな真似をしてまで何を考えてんだよ」

「……どうぞ」


 再び差し出された手を握ると、ほんの少し彼女の肩が跳ね上がった。


「これで満足か?」

「ええ、ありがとうございます」


 刹那、ヴリドラの潤んだ瞳から熱が失われ、冷徹な眼差しが僕の後ろ、リコを見抜いた。僕達が呆気にとられていると彼女は一息でリコの元へと詰め寄る。


「……しまった!!」


 二人が目線を交わして睨み合う。


「目障りな女ですわ、アナタ……」

「くっ……ヴリドラ……アナタは何を企んでいるのですか?」

「わたくしの欲しいものを根こそぎ奪い取っていく下劣な魔女め、わたくしはアナタを赦しません!!」

「でしたら今すぐその槍で私を貫きなさい!」

「ええ、そうして差し上げますことよっ!!」


 ヴリドラが蒼い槍を握り直して力を込める。


「―――やめろぉおおおおおお!!!!」


 カラドボルグから垂れる鮮血がリコの傷口から溢れてヴリドラの白い手を赤く染め上げる。


「……しかし、約束は約束ですわ。今のとこはアナタを生かしてあげます、竜の魔女」


 蒼い槍が抜き取られると同時、リコの傷口にヴリドラの手が触れて空いた傷口を塞ぐ。


「そこの神聖魔法師、早く治癒を!」

「は、はい!!」

「くっ、アナタなぞに情けをかけられるなど……」

「黙りなさい、竜の魔女。アナタなぞは生かされた立場を存分に噛み締めて辱められればよいのです」


 不意に視線を向けられたアナがワンテンポ遅れてリコに神聖魔法をかける。ヴリドラの指の間から溢れていた血が止まると、リコは血の気のない顔をしたまま気を失い、ヴリドラにもたれ掛かる。


「わたくしは約束を違えません。いかに憎き恋敵であろうとこの場は約束通り生かします」


 抱えたリコをジルに手渡してヴリドラは僕に近寄ってきた。


「ロイ殿、そこに我が兄ファフニールもいるのですね? 少しお話をさせていただいても?」


 ファフニールは半ば無理やり僕と入れ替わり、ヴリドラを強く睨み付けた。


「400年振りだな、ヴリドラ……」

「兄上、お久しぶりです」

「なんの気紛れだ? おい?」

「なんの話でありますか?」

「とぼけんなよ、お前が本気ならとっくに全滅させられてんだろ?

ヒマ潰しにしちゃ趣味がわりぃぞ?」

「ふふっ……そうですね、わたくしにはわたくしの考えというものがあります。

 兄上こそ、アナタの責務はとうに終えたハズです。それでも彼らを導いてあげるのはとても面倒見のよいことで?」

「抜かせ……あとだな、兄貴として言ってやる。

 お前、男の趣味が最悪だぞ? こんなのにゾッコンたあ、見る目がないんじゃねぇの?」

「余計なお世話ですこと。兄上だってお分かりになっておられるのでしょう?

 母が私達ではなく彼を選んだ理由を――……」

「チッ……クソうぜぇな、相変わらず。だから男にモテねぇんだよ……小賢しい女にたかるのなんざ、ハエかバカだけだぞ?」

「ご忠告、痛み入りますこと……クスッ……」


 ヴリドラは女らしく笑うと踵を返して歩き出す。


「神殺しの英雄―――……アナタが挑むのは神です。それがどのようなことか、もう一度お考えになることです。

 そこなる竜の魔女を選び、戦うか。

 大いなる意志に従い、滅ぶか。

 ――まあ、わたくしを選べば話は簡単ですけれども……クスクスクスクス……」


 天涯の女王は笑いを残して闇夜に消えていった。

ハジメマシテ な コンニチハ!


高原 律月です!


竜の魔女、69話になります。

ヴリトラさんは蓋を開けてみたら、とんでもメンヘラヤンデレガールでした(笑)

いまいち、キャラを掴めないまま去っていってしまいました((´∀`*))ヶラヶラ


妹属性、高飛車、愛が重い、ヤンデレ気味、乙女チックとか駄目な方向で設定盛られてて困ったちゃんでした……ひたすら(笑)


兄妹で殺し合いしてみたり、元カノの今カレの面倒見たり、ファフ兄さんってポジションが大変ですな((´∀`*))ヶラヶラ


そんなこんなでネタが尽きて死にそうなとこを自爆して首が回らなくなった感じです(笑)

回収するのが大変だぁ!と思いつつ、考えてるたかーらでした!!


それでは、また次回〜 ノシ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ