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#47.第一層


 よくよく目をこらして空を見ると雲はあるがまったく動いていない。


「冷静に観察すればするほど何かがおかしいな、この場所は……」


 どこから吹いてるのかは分からないけどそよ風はあるし空気の流れも確かに感じるけど、草木が揺れている様子はない。


「私の仮説なんですが、元々のダンジョン空間にマスターの中にある英雄のイメージが干渉してダンジョン内部が変化したのではないでしょうか?」

「それは有り得るな」

「この空間自体が人のイメージで作られた虚構の世界なので、現実世界に比べてデティールが曖昧なのかと……」

「まあ、そう考えるしかないか」

「戦乙女本来に近い身体の感覚がします」

「僕も自分の体なのに感覚に違和感があるよ」


 少し歩くと見慣れたモンスターがいた。


「ハウンドか、数はここから見える分だと4匹だな。僕が先行するからリコとジルは伏兵を警戒しながらフォローしてくれ」

「了解です」


 違和感のある体を馴染ませる小手調べとしては手頃な魔物でよかった。僕は一息に距離を詰めてハウンド達を強襲する。


「うぉおおおおおおお!!!!」


 久しぶりに振り上げたアグニールは心なしかいつもより大きな蒼炎を吹き上げて獲物に襲いかかる。一匹、また一匹と瞬く間に斬り伏せて残りの二匹に向けて切っ先を走らせた。

 ハウンド達は素早く飛び退いて僕の振り払いを躱すと連携するように左右に散開して波状攻撃を仕掛けてくる。

 ヨダレまみれの牙が僕に食いかかってくるが冷静にそれを捌いて、炎を纏った木大剣は容赦なく魔物達を叩き潰した。


「ハウンド達がいつもより手強い?」

「少し種類が違うハウンドでしたね。上位種のマッドハンターではないかと」

「油断できないな」

「ロイさん、リコさん。前方二時の方向、モンスターがこちらに向かってきます」

「僕が右側のゴブリン数体をやる! リコは正面のハウンド、ジルは左側のゴブリンを頼むっ!!」

「マスター、くれぐれも油断せずに!」

「ああ、お互いにな!」


 僕達は駆け出してそれぞれの標的に向かって散開する。僕の後ろから風切り音が響くと耳の横を掠めて矢が飛んでいった。正確無比に放たれた矢がゴブリンの眉間に突き刺さり、ゴブリンはほどなくして消える。クリスの矢が間引きしたゴブリンの群れを薙ぎ払い、リコ達の様子を見やった。

 彼女らも苦戦することなく魔物達を払い除けていた。


「ロイ様、私のこと忘れてません?」

「パーティでの戦闘になると、つい。今までリコとジルと僕の三人でやってきたからさ」

「むぅ……もう少し頼りにしてくださってもよろしいのにぃ……」

「今までが脳筋パーティだったからさ。慣れてないんだよ」

「でしたら、しばらくは能動的にサポートします。指示がなくても自己判断で動いて構いませんね?」

「そうしてくれると助かるよ」


 アナとクリス、それにエマは今のとこ余剰戦力だがここから先に進めばどうなるかは分からない。僕は手慣れた組み方をどう変えるか方策を立てながら歩いた。

 断続的に現れるモンスター達を倒しながら、アナは絶えず神聖魔法をエマはマッピングを作成して僕達四人は二人に危害が及ばないように互いにカバーし合いながらダンジョンを進んだ。

 まるで夢の中にいるような妙な居心地のせいで時間が経っても体が違和感を持ったまま、慣れない。

 例のモニュメントを見つけた僕は声を掛けた。


「少し休もうか」

「ロイ、いつもより疲弊してない?」

「分からない、分からないんだ。なぜか妙な違和感が拭えなくて……そのうち慣れると思うんだけど、頭で考えてる以上に体力を浪費してしまうんだ」

「しばらく戦闘は避けたら? 今のとこ、リコさんとジルさんだけでも危なげなく戦えてると思うしさぁー」

「いや、最悪の場合を考えたら僕が切り込むのが一番安全だからね」

「無理はしないでね?」

「するつもりはないよ、約束する」


 戦闘の激しさで言えばエルフの里付近での連戦の方がよっぽどキツかったし、そうでなくてもずっと死を身近に感じながらここまで戦ってきたんだ。

 これくらいの戦闘でこんなに消耗してしまう理由がまったく思い浮かばない。


「よし、進もうか……」


 半刻ほど体を休めた僕達はまた歩き出した。


「エマ、マッピングの方はどうだい?」

「今の休憩で1/3ほどは埋まりました。今のところはトラップなども見当たりませんし、何だか不気味ですね」

「同感だ。ぬるま湯に浸りながらジリジリと体力を削られていくような変な感じがするよ」

「アナタ達が強すぎて測りかねるのですが、心なしかいつも以上にモンスターも強い気がします」

「なるほど、何かが狂ってるな……これは……」

「油断しないでください。私の知ってるこの迷宮ブケファラスとはまるで違う何かがあります」

「そう、だな……」


 しばらく無言で進んでいるとエマが後方から声をかけてくる。


「止まってください!」

「ん?」


 彼女は小走りで僕達の前に出て地面を確認する。


「この一帯だけ違和感があります。恐らく何かしらのトラップが仕掛けられてます」


 よくよく目をこらすと確かに草の生え方がおかしい。


「少し重みのある物を置いてみましょう」


 僕は袋に土を詰めてその区画に放り込む。放られた土袋は地面に落ちると地面ごと落下した。


「落とし穴か。古典的な罠だな」


 空いた穴を覗き込んで様子を窺うと土袋は針の山でズタボロになっていた。

 この中に仲間が落ちていたと思うとゾッとする。

 エマが僕と一緒に覗き込み、顔をしかめて鼻を鳴らした。


「……スンッ」

「エマ、どうした?」

「息を止めて! 離れて!」


 彼女は僕を無理やり穴から引き離した。間を置かずに僕の体を謎の悪寒が襲い、息が上手く出来なくなる。


「あっ……がぁ……!?」

「アナさん!! 早くロイさんに解毒魔法を!」


 喉が焼けるように痛み、呼吸が出来ずに苦しくて胸を抑えたまま冷や汗が止まらない。


「なにがあったの!?」

「トラップに麻痺系の毒物が仕掛けられていましたっ! 恐らく熱処理で解毒出来るタイプの気化毒です!!」


 エマが適切にアナに情報を共有すると、アナがすぐさま何かを祈るように呟きながら僕の背中をさする。


「かハッ……!?」

「ロイ! 大丈夫!?」

「はぁはぁ……大丈夫……息が出来る……ふぅ……」

「アンタ、ほんとなにしてんのよ?」

「迂闊に軽はずみなことをしてごめん、迷惑かけてちゃったね」

「ロイさんを責めるのは少し酷な気がします。こんな醜悪なトラップ、ダンジョンで見たことありません。人為的に仕掛けられたような、高度なトラップですし……」

「違うわよ! 今の話じゃなくてずっとよ!!

 ここに来てからずっと空回りしてるわよ?」

「分からないんだよ、ホントに……なんでだろうな……」


 僕がアナに説教されて項垂れている間、リコとジルは火魔法で落とし穴の処理をしていた。

 クリスは辺りを警戒するように矢を番えて周囲を見回している。


「さすが気化毒、よく燃えますねぇ〜」

「相当充満してたんでしょうね。種火だけでこんなに火柱が立つなんて……」

「騒ぎを見てモンスターが集まってこなければ良いのですが……」


 仲間達が的確に行動すればするほど僕の中で何かが焦り、余計に体の疲労が膨れて焦燥感だけが募っていく。


「こんなんじゃ、これ以上進むのは無理よ! 私は後ろからみんなを見てる立場として、いったん引き返すことを提言するわ!!

 今のロイは危険すぎる! みんなを巻き込んじゃうわよ!?」

「僕は足でまといになっているかい?」

「そうじゃない! いつものアンタらしくないって言ってるのよ!!」

「アナはいちいち説教臭いんだよっ!

 このパーティの中で僕は何も貢献出来てない!! 役立たずのお荷物になっている自覚くらい僕だってあるんだよ! ほっといてくれよ!!

 みんな、いいよ……それぞれがちゃんと強みを持っててさ。僕なんかが居なくたってきっと上手く回せるんだと思うよ。

 だからこそ、僕は何かをやらなくちゃいけないんだ! 僕の取り柄なんて体を張って危険を背負うしかないだろ!!」

「この、おバカぁ! アンタ、ほんとバカよ!!」

「うるさいなぁっ! バカはバカなりに必死なんだよ!!」

「ロイッッ!!?」


 僕はアグニールを手に取ると、みんなの制止する声を振り切って走り出した。

 目的もなく、闇雲にただ走って転んで、また立ち上がって、息が上がっても走り続けた。

 もどかしさと苛立ちを八つ当たりするよう、視界に入るモンスター達を手当たり次第に叩きのめして言いようのない怒りを吐き出す。


「くそっ! クソっ!! くっそぉおお!!!!」


 斬り裂くモンスターは手応えもなく、ただただ光の粒になって空に還っていき、それが僕の心を余計に虚しくさせた。

 緑の炎がゆらゆらと立ち上がって空を焼いている。

 モンスターに囲まれて緑炎が膨れていくほどに喉が渇き、止まらない汗が鬱陶しく僕の顔を這った。

 身体から噴き出す緑の炎が僕の蒼炎と交わり、慟哭に呼応するかのよう激しく燃えて目の前の敵を焼き潰す。


「なんでだよ! なんでっ……どうして……」


 辺りのモンスター達を殲滅させると、言葉にならない問いかけを一人で吐き出して僕は膝を折った。

 緑炎は揺らめくばかりでダフネもククルカンも答えてくれる訳もなく、ただただあの二人と言葉をぶつけ合った闘いだけがボクの心の中を逡巡する。


「どうしたら越えられるっていうんだよっ!!

 まだ僕はアイツらに負けたままなんだよ! 勝てちゃいないんだよぉっ!!」


 ククルカンの行いは外道だった。クリスの姉にしたことも聞いた。

 それでも、僕はククルカンを嫌いになれなかった。


 ーー今の僕がしていることはなんなんだ。


 目の前のモンスターを八つ当たりで蹴散らしてる僕にククルカンのやったことを否定できるような立派な言い分はあるのか?……そう思えば思うほど、心も炎に灼かれたように空っぽになってしまう。


(ファフニール、聞いてるんだろ?

 教えてくれよ、なあ!!)



 ファフニールは黙り込んだまま、僕の問いかけに答えてくれなかった。

ハジメマシテ な コンニチハ!

高原律月です。


竜の魔女第47話です!

ロイ君、病んだり明るくなったり忙しいですね((´∀`*))ヶラヶラ

まあ、世界を背負ってるのでこれくらいの悩みは許容範囲なんじゃないかな?と思ってます。

たかーらの思い通りになかなか動いてくれないキャラ達デスネ˙꒳˙)


それでは、また次回〜 ノシ

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