#45.拠点
翌日、仲間達と合流して僕達はクリスから貰った地図を頼りにギルド協会を目指して歩いた。
「ふあ〜……」
「相変わらずだな、リコ」
「ねむ……い…………です…………」
船を漕ぎながらフラフラと歩く彼女をアナが呆れた顔で手を引く。
「ほら、リコさん。足もと危ないよ! 前見て!」
「ひゃい……」
「ねーえー、しっかりしてよぉ! いつものキリッとしたリコさんはどこに行っちゃったのよ!!」
「いつも通り……です……よ…………」
「なんで、この人こんなに朝よわなのよぉ!!」
「知りません、聖女リコリスに聞いてください……むにゃ……」
「なんだかんだ、アナって面倒見がいいよね」
「そりゃ、昔っから抜けた誰かさんの面倒を見てたからね!! クセよ! 嫌んなっちゃう!!」
「あー、ターニャさんものんびり屋だったからねー。うんうん、わかるわかる」
「アンタよ! このおバカっ!!」
「僕かよっ!?」
「むしろ、どこから自分はしっかりしてるなんて自信が湧いてくるのよっ!!」
「抜けてる言われる意味がわからない!」
なんて会話をしていると、くたびれた建物が見えてきた。
「ごめんください〜」
「はーい」
ギルド協会に入って呼び掛けると、人気のない建物の奥から人の声が聞こえる。
「いやー、待たせてごめんね。なにせ、この街だとギルド所属で冒険者やるより船乗りやる方が儲かるからさ。人手不足なんだよ、ここ」
メガネをかけた若い男性がもっさりした頭を掻きながらカウンター越しにそう言った。
「ここに来るように言われたんですけど……」
「ああ、話は聞いてるよ。ロイ・オックスフォード君だったね、ここの書類にサインして」
男性は紙切れを僕に差し出す。
「書けました。他にすることは?」
「んじゃ、これ会員証……あとは好きにしていいよ」
「……え?」
「依頼自体があんまりないんだよね、この街ってさ」
「えぇー……」
「自主的に周辺モンスターの駆除して生計を立ててもらうか、他の街に行くかだねー」
「考え方によっては自由が効くって感じですね」
「まあ、そうとも言えるね。キミ、気遣いのセンス抜群だねー」
「そんなとこの所属でいいんですかね?」
「国的な規模で見たらギルドの権力は絶大だよ? 一人ひとりの戦闘能力は高いし、実践で培われたノウハウも持ち合わせた私設軍隊みたいなものだからねー」
「なるほど」
「ただ、この街だとあの分厚い壁のお陰でモンスターに困る人も居なければハウンドクラスくらいのモンスターの素材をかき集めたところで船で持ち込まれる数の方が圧倒的に多いから売値は二束三文なのが現実なんだよねー」
「まあ、確かに……」
「こう言うとワザとらしいかもしれないけど、上級モンスターの素材を集めてくれるなら話は別だろうね。流通してないようなヤツをさ」
「ああ、言いたいことは分かりました。なるべく努力しますよ」
「期待してるよ、大型新人さん。
ちなみに僕の名前はジョン・クライフだ。いちお、この街のギルド協会管理官をさせてもらってる。
なにか困ったことや知りたいことがあったら何でも聞いてくれ。分かることや力になれることだったら協力するよ、君は特級認定を受けてるからね」
虫も殺さないような顔しながら管理官をやるだけあって相当なやり手らしいということは分かった。
「クライフさん。早速なんですが、この街周辺で一番美味しい狩り場はどこですか? 難易度は問いません。とにかく他の人がお手上げの所がいいです」
「おおー、ヤル気満々だねぇー。どうしてだい?」
「市民の脅威になりそうなモノは駆除しておいて損はないでしょう?」
「ずい分と殊勝な青年だね。志は立派な方がいい、取っておきの場所を教えよう」
「取っておき?」
「生存率は高く見積って0.02%だ。その場所が出来て以来、一攫千金を夢見て何百人もの人間が訪れたが帰ってきたのは片手で数えられるほどの場所さ。
いわゆる、ダンジョンってやつだね。数百年経っても攻略者は未だに0、ダンジョンってやつは人類にとって未知の場所なんだ。
所在を知っているのも王国の一部の人間と我々ギルド協会の管理官クラス……それくらい無闇やたらに踏み入れてはいけないほど危険なとこさ」
「それはワクワクしますね」
「さっすが男の子! 頼りにしてるぜ?」
クライフさんが少し古びた紙切れを取り出す。
「そいつがその場所の地図だ。古っぽく見えるが雰囲気を出す為に僕が日に焼いただけで刷られたのは去年だよー」
「どーでもいい情報をありがとうございます……」
「いやぁ、あんまりにもお眼鏡にかなう人材がいなくってさー。間違えてうっかり暖炉の火種にしちゃったんだよ。
上に報告したら始末書を書かされちゃってさ。
んで、新しく刷ってもらったワケ! アハハハハ!!」
「間違えて機密書類を燃やすってヤバくないですか?」
「うん、大目玉っ! 上はカンカンだったよ!!」
僕は呆れながら紙を受け取ってギルド協会を後にした。
「銀行に行って旅支度に必要な資金を用意したらダンジョン攻略に出発だ!!」
「こんなのんびりしてていいんでしょうか?」
「ジル、確かに大災厄も脅威だけど情報を集めないことには動き回るワケにもいかないだろ?」
「まあ、確かに」
「ギルド協会や国に恩を売れれば支援も受けやすくなるし情報も集めやすくなると思うんだ。クライフさんも遠回しに言いたかったんじゃないかな?」
「なるほど、ロイさんって意外と考え方がしっかりしてるんですね」
「一人暮らしが長いからかな。生きてく為に色々と考えておかないと、冬には餓死まっしぐらだからな!」
「なるほど、それはそうかもしれませんね」
「あとは資金も潤沢にあるから拠点をちゃんと置こうか。この人数でも生活に困らない程度の物件があればそこを買って拠点にしよう!」
「ふむ、必要あるんですか?」
「王族が根無し草だったら格好がつかないだろ! クリスを経由して情報を引き出すんだよ!!」
「ロイさん、商才とかありそう……」
「ロイって変なとこで情熱を燃やすタイプなのよね」
銀行の窓口で昨日渡された証書を見せると受付嬢は血相を変えて奥に消えていく。しばらくすると中年の男性が僕達の所へやってきた。
「本日はようこそお越しくださいました」
「お金を引き出したいんですが……」
「はい、昨日のうちにご用意はさせて頂いておりますがお預かりしてる金額が金額ですので一括で引き出すのはオススメ致しかねます」
「あー、その心配はしなくていいですよ。とりあえずは当面の資金繰りが出来る程度に引き出せれば問題はありませんので」
「ホッ……」
「それとですね。別件でご相談したいことがあるんですがよろしいですか?」
「ええ、なんなりとお申し付けください」
「そちらの銀行で持て余してる物件の中に少しだけ間取りの大きな家とかありませんか? 預金から一括で支払いするので用意していただけると助かるのですが」
「そのお話は是非とも! 具体的な条件をいただけるとこちらも助かります」
「10人ほどが寝泊まりしても余裕のある大きさ、出来たらギルド協会から近くて分かりやすい立地の物件がいいですね」
「でしたら、担当の者に案内させますね」
男性は席を外すと別の男を連れて戻ってくる。
「お話はお聞きしました。手頃な物件がありますのでご案内いたします」
「助かります」
来た道を戻るように歩いていくと、豪奢とまではいかないがそこそこ景観のいい青い屋根の建物があった。内見させてもらい、広さと部屋数を確認して僕は即決した。
「ここがいいです、ありがとうございます」
「他もございますがよろしいのですか?」
「この辺一帯に青い屋根の家は他にないでしょう? 分かりやすい方が帰ってくる時に目印になるじゃないですか」
「なるほど、そこまでお考えとは恐れ入ります」
「この家の購入でそちらに預けてる金額の半分くらいになりそうですか?」
「そうですね、それくらいにはなりそうですね」
「でしたら、良かったです」
「広さが広さでなかなか売れず、当方でも取り扱いに困っていた物件なので大変助かります。少しお値引きさせていただきますね」
「いいんですか?」
「ええ、持ちつ持たれつですよ。なにかご入用ありましたら、ご贔屓にしていただければと」
「ありがとうございます!」
僕がホクホク顔で新居に荷物を持ち込むと、黙り込んだ仲間達が呆れ気味な横目で僕を見ていた。
「人たらしもここまで来ると呆れたものね……」
「ちゃっかり値引き交渉も引き出して、1/3くらい値切ってましたよ?」
「家具などの必需品もまとめて受注してそこも値引きしてましたからね、恐ろしいです」
「いやいや、値切ったワケじゃないし。向こうが善意で安くしてくれて、ご好意に甘えただけだよ」
「会話の中で情報を引き出しながら相手に選択させるテクニックがえげつないですわね、ホント……」
「そんな難しいこと出来るワケないだろ〜。買いかぶりすぎだぞ、みんな」
「無自覚なところがロイらしいわね」
庭先で空気を切り裂くような飛行艇の空飛ぶ音を聞きながら僕は誰に聞くわけでもなく尋ねた。
「なあ、飛行艇ってどれくらい速いんだろーな」
「国の端から端までを半日くらいで横断するそうですよ、マスター」
「極端なことを言えば、ここに腰を据えたとしても移動は困らないってことだ!」
「ええ、まあ……」
「なるほどなぁ……そうだ、クリス!」
「はい、なんでしょう?」
「エルフの人をここの管理人として一人か二人ほど常駐させて欲しいんだ。いきなり他の種族だと街の人達がびっくりしちゃうから人間とよく似たエルフがいいと思う」
「して、その心は?」
「この街とこの家を拠点にして、もっとお互いが交流を持ってもいいと思うんだ。昨日、見て回った感じだと獣人種もそれなりにいるし精霊種だって居てもいいだろ?」
「なるほど、なにか大きなものを掴んだのですね?」
「ああ。精霊種もククルカンとの戦いで疲弊してしまったからね。これまでの暮らしに代わる生き方を取り入れてもいいと思うんだ。
今のままだと、個体数を減らしすぎてどの部族も立ち行かなくなってしまうよ」
「ふむ、言いたいことは分かりますが……」
「分かってる、今までの暮らしを変えるのは簡単じゃない。ちょっとずつ手を打っていこう!」
「承知しました、手配いたします。ちょうど昨日呼んだ者達がおりますゆえ、彼らをこちらに寄越しましょう。ちゃんとした人選は後日改めて行います」
クリスは小走りで街の中を駆けていった。
「さて、クリスが出かけているうちにダンジョン攻略のための準備をしよう。リコは留守番をしててもらえるかな?」
「わかりました」
「なぜ?って聞かれると思った」
「アナタの決めたことにいちいち口出しするつもりはありませんよ」
「そっか、すぐ戻るね」
僕は街に繰り出して、当面必要になりそうなものを買い集めて歩いた。
ハジメマシテ な コンニチハ!
タカハラ律月デス
竜の魔女45話です!
勢いで書いてきて世界観を放置していたので今さらになって序盤みたいな話ばかりですみません。
ネタを話してるヒマもなく執筆に追われてる今日この頃です!
それでは、また次回〜 ノシ




