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#18.好敵手


 あれから数日。西に進むほどにモンスターの数も増え、次第にその強さと凶暴性が上がってきた。

 毎日の酷使に体と精神も慣れてくる。


「リコさん、3時の方向! 中サイズの獣型モンスターが三体います!!」

「承知しました!」


 アナが索敵魔法でモンスターを洗い出すと、リコは駆け出した。


「てやぁあああ!!」


 青い髪を翻して彼女は刹那のうちにモンスターを切り刻んだ。


「7時の方向にも! スカベンジャー種ね!」

「……処理します」


 ジルもリコの剣さばきに当てられたように小柄な体を軽やかに舞わせて後ろから来る敵を迎撃する。


「……だんだん、モンスターの数が増えてきたな」

「グチって場合じゃないよ、ロイ!」

「ああ! あれは索敵するまでもなく見えてるよっ!!」


 正面を見据えると、大型の獣が土ぼこりを上げながら突撃してくる。


「あれはレオパルド種……あの大きさに似合わず素早い動きをしてくるわ! 気を付けてね!!」

「ああ!!」


 僕は相づちをして駆け出した。久しぶりの大物に心臓が早鐘を打つよう僕の胸を締めつける。雄叫びを上げる巨軀の獣が僕を認めてギラつく爪を振り上げた。


「うおおおぉぉっ!!」


 躊躇うことなく更に強く踏み込んで、振り下ろされたその爪をすっかり馴染んだ大剣で受け止めて振り払った。


 ーーガキンッ!!


 怯むように獅子が少し下がる。


「くらえっ!」


 レオパルドが怖気付いた隙を逃さずに渾身の力で愛剣を振るう。

 速度の乗った切っ先から青白い焔が巻き上がり、突風のような大きなうねりを発しながら木剣が獅子の横っ面を叩く。


 ーーガンッ!


 確かな手応えを感じた僕は振り回した勢いを利用してもう一度ヤツの顔面に斬撃を叩きつける。


「ガァアアアアア!!?」


 痛みに耐え切れずにレオパルドが首を振り回す。

 僕は少し飛び退いて柄を強く握りしめると、寝かせた刀身を蒼炎が這い回った。

 踏み込んだ右足で地面を蹴り飛ばし、一直線にレオパルドに向けて突撃する。


「……ああああああっっ!!!!」


 レオパルドに突き刺さった剣先がその巨軀を焼き切って両断し、チリチリと舞い上がる火の粉が空にほどけていく。


「はぁ……はぁ……特訓の成果が出てきたな……」


 僕は振り返り、高出力で撒き散らかした爆炎に焼かれる獅子を見ながら自身の成長に手応えを覚えた。


「ええ。本当に強くなりましたね、マスター」

「リコ、お疲れ様」

「私の身体能力もかなり底上げされてきてます」


 リコが鞘に剣を収める。


「戦闘勘も良くなりましたね」

「ジル……」

「最初は無闇やたらに突っ走ってましたが、連携も向上したように思えます」


 僕たちは再び西へと歩き出すと、道中でアナがぽつりと言った。


「なんでかな?」

「ん?」


 その疑問の続きを催促するよう返事をする。


「獣型がやたら多い気がするんだけど?」

「言われてみれば、確かに……」

「平原だから当然と言えば当然なんだけどさ、他の魔物がほとんど居ないのはいくらなんでも不自然っていうか……そんな気がする」


 そんな会話をしていると、またぞろと獣型のモンスターが湧いてくる。


「際限なく出てくるな……」


 ここ最近はほとんど戦闘ばかりでまともに進めていない。

 モンスター達を斬り伏せながら少しずつ西へと歩んでゆく。


「アナ、疲れてないか?」

「まだ大丈夫!」


 この頻度で戦っているとアナの消耗が少し気になる。


 付近のモンスターをあらかた片付けて一息をついた。


「ふぅ……」

「ロイさん、私が見張りに立ちます。少しアナさんを休ませてあげましょう」

「そうだね」


 ジルが周囲を警戒しながらアナを見る。つられて、僕も幼なじみを見やった。


「はぁ……はぁ……」


 見やったアナはヒザに手をつきながら肩で息をする。


「常に索敵を行いながら私たちの疲労を肩代わりしてるんです。相当キツいはずです」

「ああ」


 ここに来てアナの負担が激増している。なんとか彼女の負担を減らすことは出来ないものかと頭を悩ませながら声をかけた。


「アナ、少し休もう」

「う、うん……」


 彼女は尻もちをつくように地面に腰を下ろすと大きく息を吐いた。


「はあ〜、きっつ〜……」


 滝のように溢れる彼女の汗を少しでも抑えようと、僕は布をパタつかせて風を送る。


「ありがとね〜」

「まあ、これくらいしか出来ないけど」

「んにゃあ〜……生き返るよぉ〜……」


 アナが暑さに耐えかねて上着を少しはだけさせる。しっとりと濡れた鎖骨からしたたる汗が胸の谷間に流れていく。何気なしにそれを目で追うと、彼女がパタつかせる上着の隙間からチラリと下着が見えた。

 無意識に釘付けになり凝視しているとアナの手が止まる。


 三方向からの視線が痛い。


「……ケダモノ」

「おや? こんなところに1匹討ち漏らしが?」


 ジルとリコが僕に詰め寄ってくる。


「ち、違うんだ……ワザとじゃ……」


 僕は弁明するようにアナの顔を覗き込んだ。


「あぅ……あぅ……」


 彼女は顔を真っ赤にさせて口元を引きつらせ、焦点の合ってない目でこちらを見ていた。僕と目が合うと彼女は我に返ったよう鋭い目つきで僕を睨んで蹴り飛ばす。


「ばかぁああああぁぁぁあああ!!!!!」


 ーーベシッ!!


 蹴り飛ばされた時に健康的で程よい肉付きをした柔らかそうな足の間から白っぽいものが見える。


「……あ、白だ」


 転げながらそう呟くと、袋叩きにされた。


「アナタって人はー!!」

「英雄どころかとんだハレンチ野郎ですね……」

「ばかっ! ばかばかばかぁ!!!」


 コイツら、こういう時だけは体力が無限になるんか……と思いながら、すっかり元気になった仲間の暴力に耐えていると向こうでなにかが動くのが見えた。


「いてっ……いててっ……!」


 よくよく目をこらす。


「ん?」


 僕は彼らの暴行を無視して立ち上がる。


「おいおいおい……」


 複数の物影があり、少し先に離れて小さな影2つが見えた。


「……どうしたのです?」

「またこんなパターンかよっ!」


 僕の様子に気が付いた仲間たちが僕の目線の先に視線を向ける。


「ロイ、なにが見えるの?」


 アナが目をこらして僕に問いかける。かなり距離はあるが、小さな影の方は人っぽい形をしていた。


「リコ! ジル! アナを頼んだっ!!」


 僕はくそ重たい剣を放り捨てて全速力で駆け出した。


「人が魔物に襲われてる!! 距離があるから1人の方が早い!」


 段々と影が近づいてくると、やはり人影だった。


「間に合うか?」


 グングンと影は大きくなっていくが、距離がありすぎて思うように縮まらない。モンスターと思しき影が人影に迫る。


 ーーきゃああああああぁぁ……っっ!!


 女性のつんざくような悲鳴が響き渡る。


「くっそぉぉおおおお!!」


 僕は地面を蹴飛ばして身を投げ出す。間一髪、モンスターが彼女達に飛びかかるより先になんとかモンスターをよろめかせることが出来た。僕が割って入ると、魔物たちの注意がこちらに移る。


「はぁ……はぁ……間に合った……」


「あ、ありがとうございます……!」


「僕がコイツらを引き受けるんで、あっちに向かって逃げてください! 僕の仲間がいます!!」


「は、はい! ……でも、アナタは武器がないじゃないですか!?」


「大丈夫です! さあ、行って!!」


 目線はモンスターに向けたまま、遠くなっていく足音を確認して僕は神剣クラウスを右手で握りしめる。

 敵は四体、三体は今まで通りの獣型モンスターだが一体だけどちらかといえば獣人種に近い。



「お前はいま逃がしたヤツがどんな存在か分かってるのか?」

「へぇ、獣のくせに喋れるのか?」

「我が主より貴様の存在は聞いているぞ。竜の魔女を従えし英雄よ」

「よく分かったな」

「人間とは思えない速度で大地を駆け、魔力を帯びたその剣を見れば、な」


 獣人は続けて問いかける。


「貴様の名は?」

「ロイ! ロイ·オックスフォードだ!」

「良い名だ。我が名はライオネル、我が主君である神獣皇ククルカン様の脅威とならん貴様を殺す者の名だ」


 こいつ、今までとは段違いだ―――……どこか余裕のある所作から放たれる死の圧力に僕は固い唾を飲み込んだ。


(ダフネくらい強い圧力を感じる……)


 ヒリつく空気に冷や汗が吹き出るのと同時に、痛いくらいに跳ねる心臓と湧き出る高揚感で頭の感覚が麻痺する。頭の中にある危険を感じる鐘がうるさいほどに警告を鳴らす。


 心臓の鼓動が落ち着いてくると共に麻痺していた頭が妙に冴え渡った。


「……なにを笑っているのだ?」


 ヤツに言われて僕は我に返り、緩んだ口角を引き締める。


「死地に際して高揚するとは貴様も戦士だな」

「つくづく嫌になるよ、まったく」

「まずは小手調べだ」


 ライオネルが右手を挙げると獣たちが僕を取り囲んだ。


「平原の狩人、グリムレオパードだ。こやつらの速さについてこられたら相手してやろうではないか」


 ヤツは傲岸不遜にそう言うと、腰を下ろして品定めするような目つきでこちらを見やった。豹たちは尾を引くような速さで僕の首元を狙い、血生臭い牙を突き立てんとする。

 シルバーファングにも引けを取らない速度で駆け回る不規則なその軌道を捉えるのに手間取っていると、ライオネルが嘲るように口の端を歪めた。


「所詮はこわっぱ、か……クハハハハ!!」


 侮蔑にも似た高笑いに僕は激昂して吠えた。


「なめるなぁああああ!!!!」


 僕の目に怒りの火が灯ると、突き出した左手に黒焔が宿る。突然と溢れ出る黒い焔に少し戸惑うが、左手を灼く痛みがヤツらを殺せと叫んだ。


「貴様!? その炎はっ……!!」


 黒炎を見たライオネルが大げさに反応する。


「英雄ファフニールの獄炎……なぜ、貴様がそれを……!?」


 僕は仲間の所に置いてきた大剣を手繰り寄せるように左手を振るいながらグリムレオパードの爪牙を紙一重で躱す。


「来いっ! アグニール!!」


 黒焔を纏った愛剣が目の端に写り、とてつもない速度で僕の手元とまでやって来る。クラウスを地面に突き刺して飛来するアグニールを掴んだ。

獰猛な豹達が僕を目掛けて三方向同時に迫り来る。


「悪いな、手加減してて……」


 掴んだ勢いで体を捻り、皮一枚でヤツらの牙を躱し、頬を掠めたその牙をバカでかい自慢の愛剣が振り払うとレオパード達は細切れに寸断される。

 爆ぜるような黒い火が1片残らず魔物を焼き焦がし、喰い足りないように暴れ狂う。


「めんどくさいからまとめて処理したかったんだよ」


「その姿、まるでラースグリーズ……怒れる火神のごとき……」


 ライオネルの眼が鋭くボクを睨み付け、ヤツは隙だらけだった身構えを引き締める。


「非礼を詫びよう、戦士よ……全力をもって貴様をこの場で屠るのみよ……」

「やれるもんならやってみろよ、三下ぁ!!」


 焔が野原を這いずり焦がし、この身を燃やす。


「いざ、尋常に!!」


 獅子は金色のたてがみをはためかせ、鎌首をもたげた。


 僕は、その総てを断ち切るようにアグニールを振り上げた。


ハジメマシテ な コンニチハ〜

高原律月ですっ!


竜の魔女18話になります!

いよいよ、中ボス戦に差し掛かりました。

ここまで来ていまだに大ボス本戦に進みそうな気配がないくらいのスローペースで展開されております。そう、まるでメジロブライトのような……っ!?


ここから、戦闘終了まではかなりボリュームがある(予定)ので頑張りたいと思います。

すでに次話も作っているのですが、投稿ペースが追いついてしまってピンチです!


展開もちょっとハードめ、たかーら的には意欲的なギミックも盛り込ませております。少しびっくりするかもしれないし、あーそれテンプレ……ってなるかも分かりません!


そんなこんなで次話をお楽しみに!←お楽しみにしている方がいらっしゃるかは不透明ですが(笑)


それでは、また次回〜 ノシ

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