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#17.覚悟の在り方


「おいおい、こんなもんかよ……」


 黒装束に身を包んだ男が呆れたように嘆息を零した。

 僕は木大剣を突き刺して肩で息をする。


「ハァ……ハァ……」


 剣を支えにかろうじに出来る息で身体中に酸素を巡らせながら対峙する男を睨みつける。


「まあ、ちったぁ成長したんじゃねぇか?」


 彼が剣を蹴り上げると空を舞った剣はかん高い音でいなないた。日照る太陽が剣を煌めかせ、僕のほほを汗が伝う。


 その剣を掴むと男は言った。


「休憩は終わりだ」


 白髪の男は一足飛びで僕の懐まで飛び込むと、遅れてやってきた剣閃が僕を襲う。


「ぐぅっ!!」


 僕は細身の男が振るう剣撃とは思えない重さの一閃をなんとか愛剣で受け止める。


「どたまがガラ空きだぜぇ〜?」

「ぐあっ!?」


 男は性格の悪そうな赤い瞳を更に意地悪く歪めて僕の顔を殴りつけた。たまらずよろめくと、間髪入れずにみぞおちに蹴りが突き刺さる。


「おっせぇーんだよ、ヤル気あんのか? あ?」

「まだまだぁ!!」


 たたらを踏みつつ、彼が足を引っこめるタイミングに合わせて肩から体ごと当たりにいく。予想外だったのか、彼は少しだけ目を丸くしながら体当たりを食らい、後ろに少し下がった。

 下がった隙を逃さず、僕は刀身の先に蒼炎を乗せて体を思いっきり回転させる。


「くらえぇぇええ!!!」

「やるじゃねーか、兄弟……」


 横薙ぎがファフニールの腹にめり込むと、彼はくの字に折れ曲がり吹き飛んでいく。3度、4度と地面を転げた彼は体勢を立て直して地面を捉え、僕に向かって加速する。

 目では追えないほどの速度で繰り出さた刺突はあっけなく僕の肚に突き刺さった。


「……ぐぁあああああ!!!」


 僕は込み上げそうで込み上げない血反吐を吐くように声を漏らして膝を折る。彼は突き刺した剣から手を離しながら言った。


「まーた死んだな、何回目だよ」

「くっそぉ〜……」


 ここ数晩、夢の中で彼と手合わせをしているが、一度も彼に致命傷を与えらない。


「強すぎる……」

「おいおいおい、なに言ってんだよ。俺は1ミリも本気出しちゃいないぜ?」


「原罪やダフネみたいヤツらはこれ以上っていうのか?」


「間違えなく数段上だな。

 お前は必死すぎて気付いてないが、俺は権能を使ってすらいやしないぜ?」


「権能……今さらだけどそれってなんなんだよ?」


「お前の馬鹿力や青い炎も権能だよ」


 ファフニールは僕から突き刺さった剣を荒っぽく引き抜くと腰掛けた。


「原罪や戦乙女のヤツらはお前達と同じで魔石の力を宿してる。それぞれが特大の取っておきを持ってるのさ、まあかく言う俺も持ってるがな」


「詳しく教えてくれ!」


「魔石の質で権能も変わるからなぁ……ペラペラ喋るのはフェアじゃないから、これ以上は教えられんね! ちっとは自分の頭で考えるんだなっ!」


「考えろっ……たって……」


 ファフニールは大きなため息を吐いて頭をかいた。


「わーたよ、少しだけな?」


「キミのお陰でぼんやりと色々は分かってきたつもりだけど……」


「その青い炎については?」


「カッコイイ!! あと、自分は熱くない!」

「はあああ……」


 男は呆れたような目でこちらを見やる。そして、空を見上げて言葉を紡ぐ。


「ソイツはな、対象を絶対に焼き切る獄炎だ。俺の黒焔と性質は近いな」

「キミの黒焔はどういう性質なんだ?」

「俺のは自由意志で対象に食らいつくものだ」

「ふむふむ……僕のは燃やし始めたら焼き切るまで止まらない、キミのは対象を燃やすまで追い回すってことか」

「まあ、そんなとこだ」

「他の原罪もやっぱ炎を使うのか?」


 ファフニールが空をあおいだまま、言った。


「火ってのは神聖な力の象徴なんだよ」

「なんで?」

「知るかよ、そう思うやつが多いからそうなんだよ」

「ふむ?」

「自然現象で最も身近にあって、扱い方を間違えれば牙を剥く……そういう部分が畏怖の対象なんだろ」


 彼は不意に目線をこちらに向けた。


「扱い方を間違えんなよ?」


 少しだけ苦しそうな表情を作りながらそう言い、僕が返事をする間もなく、彼は言葉を続けた。


「戦乙女はそれぞれに意味を持つ。リコの場合は希望を司っている……戦乙女は自分たちが持つ意味に由来した権能を使うからな、覚えとけよ」

「アイリスは?」

「おい、聞く必要あるか?」

「最近のキミと話していると悪いヤツな気がしなくてさ」


 僕が真剣な眼差しで彼の目を射抜くと、ちょっとした間を置いて観念したように彼が口を開いた。


「……アイツは時間だよ」

「教えてくれてありがとう」


 "時間"……そのワードが持つ意味を考えた時に僕は1つのことに気が付いた。


「ん、もしかして……?」

「気が付いたか」

「キミが僕たちの前に現れたのは、今もいるのは……」

「アイツの権能のせいだよ、死ぬ間際の呪いみたいなもんだな」

「呪いかぁ……」

「時間ってのはな、"過去"と"未来"……そして、"現在"なんだよ」

「まあ、誰かさんがぶった切ったお陰で本物の俺は消えたけどな!」

「あー、それはごめん」

「俺の願いと希望を叶えてくれたんだ、少なからず感謝はしているよ」


 彼は立ち上がると白い野原を歩いていく。


「力ってのは使い方だ、何事もな」


 ファフニールが去り際にそう言い残してサラサラと光に溶けていく。


 景色は暗転すると、白い野原から月夜が照らす薄暗い平原が横たわる。僕は目を覚まし、仲間たちが寝ていることを確認して少し離れた場所に来る。


「がはっ……おぇええ……」


 連日の行進に加え、毎晩の夢稽古に精神がすっかりすり減って意識がグラグラとする。


「ふぅ……きっついな、これ……」


 吐くものもなく、込み上げる胃液もなく、胃だけがきゅうう……と絞られる。


「完全に過労ですね、少しペースを抑えた方がよいのでは?」


 声に反応して振り返ると、リコが立っていた。


「り、リコ……」

「焦りすぎではないのですか?」

「ダメだ、今のままじゃダメなんだよ」

「死んでしまいますよ!」

「死なない体だから問題ない」

「精神の問題です、人は不眠で活動し続けられるようには出来てないんですよ!」

「人は……か……」

「こんなことは止めてくださいっ!」


 リコが悲鳴に似た声を出して目の縁に涙をためる。


「僕が足を引っ張てるのは分かってるんだ、だから……」

「お願いですから、これ以上は……」


 脂汗の吹き出るような視界で彼女の顔を煽ると、たまった涙が美しい顔立ちを縁取るようにゆっくりと流れていき、地面に染み込んでいった。


 僕はそんな彼女を愛しく抱きかかえる。


「大丈夫、まだ大丈夫だから……」

「アナタが毎日死にそうになるのをどんな顔して私は見てればいいって、いうのですか! あまりに、あまりに惨すぎます……っ!」

「それは聞けないお願いかなぁ」

「どうして!?」


 リコが悲痛な面持ちで僕を見る。いっそ、こんなこと止めてしまえばこんな顔をさせずに済むのだろうか……そう思いながらも、僕にも引けない理由はあった。


「ダフネとの一件は向こうにその気がなかったからいいけど、また同じことがあったらキミを守れないじゃないか……それだけはイヤなんだ」


「そ、それは……」


「先送りにして後悔だけはしたくない。明日もキミと笑い合いたい……その為にならどんなに辛くても歯を食いしばって耐えられるんだ」


「ロイ、アナタは……本当に…………本当に……私の愛しいマスターなんです。私だってアナタを失いたくはないのです」


 リコが僕の胸の中で駄々をこねる子供のように泣きじゃくる。そんな彼女の頭を撫でながら彼女が泣き止むのを待つ。


(愛しいマスター……か……)


 彼女のその言葉が少しだけ僕の心で反芻した。


「ごめんね、リコ。やっぱり僕は強くなりたいんだ……だから今だけは無理をさせてはくれいないか?」


 ばらけた絹糸のような青枝の髪からのぞく彼女の顔に触れながら僕は言った。


「それにさ、あとちょっとで掴めそうなんだよ!」


「ズルいじゃありませんか、そんな嬉しそうな顔で話するなんて」


 彼女は観念したように痛々しく笑うと、ともなく艶やかな鴇羽色(ときはいろ)の口びるを僕の口に当てがった。


「んっ……」


 僕たちは少し甘ったるい吐息を絡めてお互いの感情をないまぜにする。


 暁星が明星に変わり、空の向こう側から顔を出した太陽が彼女のたおやかな瞳を色鮮やかに照し出す。


「そろそろ戻りましょうか……」


 少し気恥ずかしそうに彼女はおずおずと僕を見つめてそう言った。

ハジメマシテ な コンニチハ!

高原 律月です。


第17話の更新です。


地味に設定の掘り下げ回になりました(笑)

意外と寄り道が多いですね、この物語……無意識に進みが悪いです((´∀`*))


エルフの里編に早く突入時させねば、と思いながら書いております。


それでは、また次回〜 ノシ

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