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序章:黒き竜と蒼き戦乙女①


ハジメマシテ な コンニチハ!

高原律月ですっ!


竜の魔女本編の前日譚であるエピソード0を序章として書かせてもらいました。


こちらはサイドストーリーなので飛ばしていただいても問題ありません!

 


 二千年以上も前の話、世界は一つだった。

 人類は思想や文化を分かち合い平和を信じていた。


 そんな世界も、やがて限界を迎える。


 蓋をした瓶に蜜を注ぐよう、満たされ続ける何かは内側で膨らみ、世界そのものが弾き飛んだのだ。


 そして、狂気を孕んだ世界は闘争へと至る。


 "大災厄"―――。


 それは留まることを知らない欲によって生まれた凄惨な殺し合いだった。


 世界に渦巻く負の感情から産み落とされた魔物達は大地を蹂躙し、世界は荒廃していく。


 これは、終わりなき災厄を止めるため願いの結晶たる"魔石"によって選ばれた英雄達の物語である。



 ―

 ――

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 ―


 統一された世界が弾けてから数百年後、世界は再び英雄を産み落とした。


「リコッッ!! 離れろ! こっからは全力で行くッッ!!!!」

「ファフニール、その力は危険です。今のアナタでは制御できない可能性があります!」


 選ばし英雄、白髪赤眼の青年ファフニールはその身に魔石の力を注ぎ、大災厄の元凶である真祖ラマンユと静かな平原で対峙する。


 ファフニールは願いの結晶である魔石の力に宿る黒き憤怒の焔をその身に纏わせ、仇敵である真祖を睨みつけた。


「これが世界が望む俺自身の滅びってやつか、堪えるぜ……」

「これ以上はケモノに堕ちますよ!」

「うっせぇ、コイツを倒すにはコレしかねぇだろがよォ!

 ラマンユを祓わなければ大災厄は本当の意味で終わりはしねぇんだよ!」


 穢れである魔物を浄化する焔を与えられし英雄はその身に魔石の力を宿すことで大災厄を祓う。


 世界を混沌に陥れた大災厄も英雄の手によって一時的な終息を迎え、 人々が最後に願ったものは世界を救った英雄の破滅だった。


「アナタが守り切れなかった人がいることに責任を感じているのは知ってます。

 しかし、英雄は神ではありません。

 救えなかった者達の弔い合戦に何の意味があるというのですか! もう限界ですよ!」


「違ぇよ、コイツとの個人的な因縁にケリを着けたいだけだ!」


「神に打ち勝とうなどと! 真祖を仕留めるより先にその身を焼くことになりますよ!」


 願いの力をその身に受け、自身の黒き焔で焼かれて苦しむ英雄を見て真祖は嘲笑う。


「大災厄を止め、救ったはずの人間達に化け物と恐れられる気分はどうですか? 英雄?」


「英雄がどうとか御託なんざぁどうでもいいんだよォ! アイツらを殺られた時から俺はお前をブチ殺すことしか考えたことねぇよ!!」


 生まれ育った故郷をラマンユに焼かれ、戦いの中で多くの友を喪った英雄は最後の決戦を前に歯を食いしばり、確固たる決意を胸に滅びへと誘う神を睨め付けた。


「哀れですね、黒の英雄ファフニール。

 世界を救済した英雄が最後に辿り着く先は自らの破滅ですか。

 人々の負の感情にその身を任せれば楽になれるというのにまだ足掻くと?」


「お前は俺に狩られる心配だけしとけ、真祖ッッ!」


「神である僕がこの場にいる――、それが世界の答えです! 黒き英雄!!」


 赤き神槍を携えた竜をも屠る英雄、"龍帝"の纏う黒焔も唸りを上げる。


 彼が握るグングニルもファフニールの激情に呼応し、鉛色の空に赤のコントラストを作ってその穂先を光らせる。


 英雄達の闘争を少し後ろで見守る青装束の乙女リコリス―――。


 英雄を死地へと誘う戦乙女である彼女は張り裂けそうな胸の嗚咽を抑え込み、掠れる声を振り絞った。


「ファフニール! アナタの黒焔は怒りの感情で激しく燃え盛ります。しかし怒りに身を任せればその先に待つのは破滅ですよ!」


「構わねェよ! そん時はお前が止めてくれりゃァいい!!」


 リコリスの赤い瞳にかつて見送ってきた英雄達の姿とファフニールの背中が重なる。


 彼女は知っていた。


 激情に飲まれ、力を望んだ先にある英雄がどうなるのかを―――。


「アイリスを取り込んだアナタを止めるなど無理です! ですからどうか!!」

「なんかあったら後始末は任せたぜ、相棒……」


 ファフニールは彼女を見やりながらニヒルに口の端を持ち上げた。より一層黒焔を激しく昂らせ、リコの叫びを振り切るようにして青年は大地を駆ける。


「来ますか、英雄。始まりにして最後の原罪、この真祖が貴方の物語を終わらせましょう!!」

「―――ァア゛ッ!!? 」


 ファフニールのグングニルが穂先に黒き焔を灯す。振るわれる神槍が流星のような美しい軌道で真祖を刺し貫かんと迫った。


「やれるもんならやってみなァ!」

「やれやれ、まるで首輪のない猛獣ですね……」


 赤き槍は対峙するラマンユの黒剣と交差して眩むほどの閃光を散らす。


「人が神に届くことなどありはしない。貴方の美しい顔が絶望に沈む様を見るのが愉しみですよ……」

「知るかよ、一人で夢見てろや。この腐れがァ!!」


 ラマンユは鋭い突きを払い除け、舞うかのように身を翻し、次々と繰り出されるファフニールの攻め手を事も無げに受け流す。


「チッ! ちょろちょろとウゼェな!!」

「無駄ですよ。英雄はしょせん神である僕の模造品に過ぎない、それが人の限界です」

「黙れよ。そのスカした面に風穴を開けてやっからよ!」


 感情に任せて振るわれる赤槍の直線的な軌道をラマンユはことごとく撃ち落としていく。

 焦燥し狼狽する赤眼を冷徹な紫の眼が見下げた。


「無駄と言っています、理解しなさい」

「……クソッ! 届かねぇ!!」


 ひと際と甲高い音が響き、ファフニールの一撃は大きく払われ、無防備になった体が晒される。


「なっ――!? まずっちまったな、おい――…」

「本当に獣のようですね、ひどく人間らしくありますよ」


 ラマンユの振るうレーヴァティンがファフニールの命を絶たんと風を切り裂いて迫り、紅き瞳に青空と一筋の煌めきが映った。


「終幕です。なかなかと面白い余興でしたよ、黒の英雄……」

「避けて! ファフニール!!」


 リコリスの声がファフニールの耳に届くと彼の瞳孔が獰猛な竜のように大きく縦に伸び、深紅の眼が金色の光彩に染まる。


「――あぁ!! 言われるまでもねぇ!!」


 瞬間、神速で振られた刃を赤き槍が受け止める。


「この僕の剣を止めた――っ!?」


 静かな平原に激しい衝突音が響き渡ると涼やかな風が吹き抜け、リコリスの絹糸のような青髪が風の中で踊った。


「クソッタレが、俺としたことが頭に血ぃ上りすぎてたぜ」


 重くのしかかる灰色の空にファフニールの吐く白い息が流れていく。


「有り得ない! たかが英雄一人がこれほどの神性を纏うなんて!」


 荒々しく猛っていたファフニールの黒焔が今は品格を持って彼の周囲を舞い、自由意志を見せながらも(あるじ)に付き従うかのよう揺らめいていた。


「ファフニール、アナタは憤怒の具現であるあの黒焔を完全に支配下に置いたというのですか?」

「これがカミサマの領域ってヤツか? 居心地が悪ぃたらないぜ」

「この土壇場で世界を越えたというのですね、さすがです」

「ア゛!? 難しい言い回しすんなよ、しゃらくせぇな!」


 ファフニールは受け止めていたラマンユのレーヴァティンを押し払い、まるで舞踊のような力感の無い軽やかな所作でグングニルを振るう。

 ラマンユが圧されるように大きく跳ね退き、ファフニールは一気に距離を詰め、吠える。


「そろそろくたばれや!! ラマンユッ!!」

「しつこいですねっ! 貴方は!!」


 切り結ぶ二人の剣戟が鮮やかな輪郭を描き紡がれてゆき、圧倒的な剣速を見せていたハズのラマンユがファフニールの速度に振り回され始める。


「くっ、さすがは英雄。

 この僕を相手に食い下がりますか―――」

「お前だけはぶっ殺す! それが俺のケジメなんだよ! 」


 火花が散り打ち合いが激しくなるほどにファフニールの黒焔は静かに猛り、神を呑まんと欲す。


「オラオラオラァ!! どうした、遅くなってんじゃねェか?」

「下品な野獣が調子に乗って……!!」


 傷だらけになり、それでもなお食らいつくファフニールにラマンユは理性的な嫌悪感を見せる。


「首だけになろうが喰らいついてやんよぉ!」


 返す刀で手傷を負わせても怯むどころか膨らむ闘争心に、神を名乗る青年はたじろぎ無意識のうちに半歩退いていた。


「品性の欠片もない、めちゃくちゃじゃないか」


 執拗に放たれる怒涛の連撃が遂にラマンユを捉え、ファフニールが双眸を見開いて会心の一突きを繰り出す。


「風穴空いたぞ! テメェええ!!」

「――ぐぅ!!?」


 紙一重で躱されたグングニルの切っ先がラマンユの頬を掠め、少しの静寂が訪れる。


「ファフニールの槍が、英雄の刃が、人の可能性がとうとう神に届きましたっ!!

「下等種ごときがこの僕に傷を負わせるなどっ!?」

「ヒャハッ! テメェも人間ってこったなぁ、赤いもん流れてんじゃねぇかぁ!!」


 ファフニールの言葉でラマンユは無意識のうちに自分の頬を撫ぜた。


 震える指先に付着した赤い液体を見るなり、ラマンユは強ばる口を無理やりに噛み潰して大声を張り上げる。


「違うッッ!! 僕はこの世界の神だ!!」


「テメェは一番最初に英雄に選ばれたってだけじゃねぇか、気取ってんじゃねェよ。

 なあ? 始まりの英雄さんよォ!! 」


「その名で僕を呼ぶな! 僕は英雄なんかじゃない、真祖ラマンユだ!!」


 まるで打ち合い始めとは真逆。


 感情に任せて刃を振るうラマンユの太刀筋をファフニールは冷静に捌いていく。


 降り注ぐ斬撃の雨を一つずつ丁寧に堰き止め、躱し、あるいは受け流し、ラマンユの感情と直接会話するようにファフニールはただ黙ってその剣を受け続ける。


「世界の真祖たる僕が! この世界のルールである神の僕がァ―――!!」

「カミサマよぅ、ずい分とお怒りじゃねぇか? 背負いすぎちまったな、アンタは?」

「下等種である人間ごときに押されるなど有リ得ナイッッ!!」


 真祖の面持ちは打ち合うごとに屈辱に歪み、紫の瞳は憤怒と憎悪の火を宿していく。

 その憎しみはどこか遠くの、ファフニールではない誰かに向けているかのようだった。


「この傀儡がァ!! 人の業を背負わされただけの藁人形がァア!!僕に逆ラうなぁアあ!!」


 真祖の瞳に宿る憎悪と怒りが最高潮に達した時、黒の英雄がそんな姿を嘲笑うように笑いを零した。


「ククッ―――」

「ナニがオカシイ?!!」

「ごちゃごちゃとうっせーんだよ、まだ分かんねぇの?」


 ラマンユの渾身の一振りを紅き神槍で受け止め、ファフニールは満身創痍ながらも彼の剣を払い落として瞠目した。


「な――!? 力が入らな―――」

「キレ散らかしてるとこ、悪ぃんだけどよぉ?

 俺の焔の特性、忘れちゃいねぇか?

 怒りを喰って燃え上がるンだぜ、コイツは」


 ラマンユは握ったレーヴァテインを右手から零し、震える指先を見つめる。


「カカカカカカカカカカカカ、カァ〜カッカッカッッ!!!!

 俺の焔はよぉ、俺と同じで捻くれてんだよなぁ! 」

「こレは一体ドうイフ、こトダ?」


 ファフニールが大きく飛び退いてグングニルを振るい、紅の槍先が鮮烈な弧を描く。


「偉そうなこと言ってンのはいいけどよぉ〜?」


 強く握り直されたグングニルがすぅ――と尾を引いてファフニールの後ろ手に回る。


「―――スケたぜ? アンタ?」

「ナニ?」

「余裕が無くなって化けの皮が剥がれてんじゃねぇか!! エセ神さんよぉ~!」

「な、ぜ…? 僕の神性が崩れ落ち、て……?」

「オレサマの権能はよ、なにもてめぇ自身の怒りだけじゃねぇ。他人(ヒト)のモンまで食っちまうんだよォ!!」


 大きく踏み込まれた左足が地を割り、腰の横回転が肩で縦回転に変わる。

 しなるように振られた右手の先でグングニルの穂先が獲物を捉えた。


「悪ぃな、アンタの神性は喰わせてもらった!

 てめェの神性で灼かれて消えろ、 真祖ラマンユッッ――!!」


 渾身の力で放たれた槍身は熱い指先から離れ、黒き焔を纏い、総てを灼き払わんと咆哮する。


「避けれるもんなら避けてみなァ!!

 ―――全てを討ち滅ぼす(グングニル・)蒼穹ッッ(ドボルク)!!!!」


「バ、バカな、神たるこの僕がァ……」


「俺の炎は怒りを燃料にして燃え上がるんだよォ!! 残念だったなぁ!!」


「ぐあァあああぁぁァァああ!!!!」


 黒竜と化した槍がラマンユの胸を貫き、空を駆けていく。

 点睛した臥龍が暗かった空を払い、世界は青空から陽の光を仰ぎ見る。

 灰色だった空は大災厄の終息を祝福するよう、鮮やかな青はただただ美しかった。


「くっ……!! まだ終わってませんよ!!」

「まーだ生きてんのか、このくたばり損ないが」


 怒りと狂気に顔を歪めるラマンユが刺し貫かれた胸元を押さえ、呆れたようにため息を零すファフニールを睨んだ。


「ボ、ボクを見下すなァ!! 下等種が!!

 劣等種である人間から産まれただけの出来損ないがぁああああァァアア!!」

「見下してんじゃねぇよ、哀れんでんだよ……分かれや、この死に損ないが……」


 英雄は真祖を憐憫の目で見やり、辛うじて息をする仇敵を感情のない瞳でぼんやりと眺めた。


「アンタも終わりだな。その傷だ、遅かれ早かれくたばんだろ?」


「僕は死にませんよ、人がこの世に存在する限り何度だって蘇ってみせます。

 なぜならアナタ達人類が僕を選んだんだ、僕は神だ―――…死ぬことなんてありませんよ―――…」


「なんでだろうな、仲間も家族もみんなアンタに殺されちまったが終わってみたら呆気ないモンだわ」


「そうですね、とても不愉快ですよ。アナタみたいな下等種族に見下されたままなのは非常に心外です」


 ラマンユがファフニールの後ろを見やり、くすりと歪んだ笑みを零す。

 

「しまっ―――!!?」


 ラマンユはファフニールが振り向くより先にリコリスの後ろに回り込むと、彼女の首元に剣を突きつけて勝ち誇るように嘲笑を浴びせかけた。


「これだから人間というのは愚かなんですよ、少し優位に立ったくらいですぐにボロを出す」

「――ぁぐぅ!?」

「リ、リコ?! クソッタレが!」


 首元を後ろから締め上げられ、苦しそうに喘ぎ声を上げるリコを見てファフニールがたたらを踏みながら駆け寄る。


「油断しましたね、黒の英雄―――。

 この女も道連れです、大切なんでしょう?

 ククッ、クハハハハ!!!!!」

「クソがぁああ!! やめろぉおおおおお!!!!」


 ファフニールの焦燥した顔つきにラマンユは溜飲する思いで笑い転げ、距離を詰めようとする彼の目の前でリコリスの胸元に剣を突き立てようと振りかぶった。


「なーんてな! ソイツぁ、締め上げ方が甘かったンじゃねぇか?」

「―――ッ!!?」


 ファフニールの陰湿な笑いを認めた直後、ラマンユの視界はぐるり180°逆さまになる。


「―――なっ!!?」

「―――取りましたよ、最後の原罪ッッ!!」


 あまりにも刹那、ラマンユは自身の置かれている状況を理解出来ずにいた。


「残念だったなあ、カミサマぁ?

 その女、俺と一緒にアンタんとこまで辿り着いたんだぜ?

 お飾りのお姫様なワケねぇだろうがよぉおお!! あひゃひゃひゃひゃ!!」


 地面を背に空を仰ぎ、言葉も出せずに打ちひしがれて呆けるラマンユの視界の遥か先、キラリと光る何かに彼は気が付く。


「な、なんだ? アレは―――…」


「あ、それと―――だ。

 オレサマのグングニルはよぉー?

 獲物を食い殺すまでは止まんねェんだワ、ご愁傷さま」


 リコリスが素早く手を離して飛び退くと、黒焔を纏った赤の槍がラマンユの視界を覆う。










『お家に帰ろっ! ね、ラマンユ!』








 




「ああ、マリア―――…」












 グングニルが突き刺さる瞬間、ラマンユの柔らかな声がファフニール達の耳にも聴こえた。


「―――うわああああァァアアアアァァ!!」


 傲慢なる神の断末魔が平原に響き、浄化されていくかのように遠くまで駆けていく。


 ラマンユの胸に突き刺さった槍から溢れた黒焔が彼を包み、焔に灼かれてのたうち回る彼を眺めてファフニールは舌打ちした。


「チッ―――!!お前みたいなゲスは二回殺したくらいじゃ物足りねぇな、クソがァ」


 しばらくすると動かなくなったラマンユは火種の弾けるパチパチとした音だけを残して灰に変わっていく。


 焼け焦げた跡に突き刺さるグングニルを抜き取り、ファフニールは不機嫌そうに悪言を吐き捨てた。


「愚かだったのはテメェの方だろうが、クソボケがよォ……大切なモン落っことしやがって……」


 そんな彼を宥めるようにリコリスは柔らかい声で微笑んだ。


「これで終わりなのですね」

「アア、ぜんぶ終わった。大災厄を払い、めでたくこの世界はハッピーエンドってヤツだなァ?」


 ファフニールが苦しそうに顔をしかめて座り込むと、リコリスは慈しむようにして彼の背中をさすり落ち着かせる。


「こんなんが終わったって、アイリスも村のヤツらも、お人好しのバカたれ共も帰ってきやしねぇーんだ。

 俺一人だけ悪夢の続きを見なくちゃならねぇんだな」

「そ、それは……」


 ファフニールに背をさする手を止め、リコリスは泣きそうな顔で胸に手を当てて俯く。


「大災厄が終わったんだ、アンタの役目も終わりなんだろ?」

「ファフニール――、私は――…」

「ここまで来れたのはお前のおかげだよ。ありがとな、相棒……」


 帰るべき場所も最愛の人も多くの友すらも失った英雄は返り血を拭い、ただ青空を仰いだ。



序章ですが、2〜3話構成になるので少し長いです。

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