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妖刀少女が行くポスト・アポカリプス  作者: 坐久靈二
Chapter.3 存亡

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Episode.105 誓いの時

 五大遺跡。――『古の都』こと『中央大遺跡』、ビヒトと初めて出会った『南の大遺跡』、『原子力遺跡』こと『北の大遺跡』、現在の『新たなる都』こと『東の大遺跡』、そして最後に残されていたのが今回旅の目標として提示された『西の大遺跡』である。


 恐らく判明している中で最も大きな冒険が期待出来る『五大遺跡』、リヒトにその存在を明かされてから今までずっと宙ぶらりんになっていた最後の未踏領域である。

 成程、確かにミーナと妖刀が切望した冒険の舞台としてはこの上なく相応(ふさわ)しい場所であろう。


 ルカを含めた四人の視線がフリヒトに集まる。

 まだ幼い為、運命の方針決めや事務処理は殆どルカや彼の母親であるトワ、それから配下の者達が行ってはいる。

 しかし、重要事項の最終的な判断は本人が下す様に取り計らわれていた。


「分かりました。但し、条件があります。」

『条件?』


 ルカにとっても意外だった様で、フリヒトに問い返す。


「簡単な事です。それに手を付けるなら、都を治める者として(ぼく)自身がちゃんとこの目で様子を見ておきたい。」


 フリヒトは三人に笑みを向けた。

 つまり、彼も同行するという事らしい。

 皆でもう一度冒険する、というミーナの願いを叶える為には、彼が欠けてはならない。――そういう意図があるようにも思えた。


『フリヒト様、お言葉ですが今の貴方(あなた)に万一の事があっては……。』

「ルカ、これは将来的に人類が共同生活を送る拠点を増やす為の視察でしょう? ならば、(ぼく)にはそこの安全性を自ら確かめる義務がある。」


 ルカはそれ以上反論しなかった。

 (そもそ)もこの四人はネメシスを討伐した英雄達である。

 道中がダーク・リッチに掌握され、ネメシスの待ち構えていた『古の都』の地下遺跡以上に危険なものとは考えられない。

 である以上、「危険だ」という脅しは通用しないのである。


「一応、(ぼく)からもう少し詳しく説明しておきましょう。」


 フリヒトはそう言うと、山積みになった資料の中から五大遺跡周辺の地図を取り出した。


「懐かしいな。」


 シャチは感嘆の声を漏らした。

 これは(かつ)てミーナ、シャチ、そしてフリヒトが五大遺跡を巡って地下遺跡の奥へ続く扉を開ける為にリヒトから預かった物と同じ地図だ。


「ええ。これを見ていると(ぼく)も昨日の事の様に思い出します。だから、挫けそうな時はこれを眺めて、あの時の記憶に想いを馳せるんです。」


 フリヒトは一枚一枚を愛おしむ様に見詰めながらミーナ達の前に広げていく。

 シャチが道中でリヒトから渡されたものを含め、現在ではほぼ全ての地図の原本がフリヒトの執務室に収められている。


「さて、あの時(ぼく)達はまず『南の大遺跡』から足を運びました。これは他の大遺跡に最も多く通じている場所だったからです。」

「ああ、それは覚えている。思えば妙な配置だな。」

『五大遺跡は一応それぞれ大体の方角で呼ばれているが、位置関係は(かつ)てこの近辺の都市や施設のあった場所にそのまま建設された様なんだ。』

「へぇー、道理で……。」


 つまり、中央と東西南北に遺跡を建築したという訳ではなく、偶々建設された場所にこじ付けで東西南北と呼んでいるという事らしい。

 その為、実際の位置関係では中央大遺跡たる『古の都』はそれほど中央ではなく、『南の大遺跡』もそれ程真南ではない。


(わし)の記憶が正しければ、この〝新たなる都〟こと〝東の大遺跡〟や〝古の都〟の場所は歴史的象徴の意味合いが強く、(むし)(かつ)て栄えていたのは〝南の大遺跡〟の周辺だった様に思う。』

『そうなのですか……。妖刀さん、もう少しその辺りの話を詳しく聴きたかったのですが、もうその時間は無いのですね……。』


 ミーナだけではなく、妖刀と意思が疎通出来るようになったルカも彼との別れを惜しんでいる様だった。

 いや、ルカだけではない。

 普段から話が出来たシャチは勿論、地下遺跡の中で彼の話を聞いたフリヒトとエリもミーナがずっと妖刀の意思と共に在った事は身に染みているだろう。

 ミーナが(さや)を強く握り締めるその姿に、何も思わぬ者などこの場には居なかった。


「話を戻しましょう。つまり(ぼく)らは元々、『南の大遺跡』の後に此処(ここ)『東の大遺跡』かもしくは『西の大遺跡』へと訪れる予定でした。」

「そうだったな。その二つは『古の都』から直接向かうよりも『南の大遺跡』を経由してから向かった方が効率は良かったのだ。」


 シャチはフリヒトの話を当然の様に覚えていたが、ミーナは首を傾げる。

 彼女にとって、冒険の順番は余り関心が無かった。


『ミーナ、お前さんはそういう所、変わらんの……。』


 妖刀は呆れたような、それでいて慈しむ様な声で感想を漏らした。


「まあでも、今回は流石にちゃんとするよ。だって……。」

『皆まで言わんで良い。解っとるから。』


 だが、そんなミーナも今回は何よりも特別な冒険になるだろうから、準備から気合の入り方が違う。

 そんな事は付き合いが長い者程よく解っている。


「つまり、今回もまたあの時と同じです。先ずは『南の大遺跡』に出て、そこから改めて『西の大遺跡』へと向かう。その道中に、『南の大遺跡』も生活拠点にすることが可能かどうか、現状を(つい)でに()ておきましょう。」

「フリヒト、さっきからお前は生活拠点を増やすという様な話をしているが、そんな必要があるのか? 確かに、このまま『新たなる都』の生活が安定して何世代か後に人口が増えればそういう話は出てくるのだろうが……。」


 シャチはフリヒトの言葉に疑問を挟んだが、ミーナとエリから「余計な事を言うな。」と白い眼で見られた。


(おれ)はただ気になったから()いただけで、今回の旅を覆すつもりは無いし、そうなったら反対するぞ。」

『シャチ、それは(ぼく)から説明しよう。フリヒト様、宜しいですね?』

「ええ、お願いします。」


 フリヒトの許可を得て、ルカが話し始めた。


()ず、人手不足というのは何も移住後に始まったことではなくて、リヒト様が統治していた〝古の都〟の頃より在った問題なんだよ。』

「何? 初耳だな。」

『まあ余り大っぴらに吹聴する様な話でもないからね。それで、当時からこういう計画があった。つまり、(ぼく)達やミーナ達の様な、小規模な集落で明日の生活の当てもない共同生活を送っている人たちを各地で探し出し、受け入れて人手を増やそう、と……。』

「ああ、(おれ)がしたように、か……。」


 今ではフリヒトの相談役の様なポジションに収まったルカも、元々は外部の人間だった。

 それを手引きしたのがシャチであり、両者を繋いだのがミーナとの縁だった。


『その時の事を思い出して欲しいんだけど、(ぼく)達が〝古の都〟に辿り着けたのはシャチ、(きみ)の護衛があってこそだ。更に言えば、当時はまだ壊物(かいぶつ)跋扈(ばっこ)していて、(たお)せさえすれば道中の食料には困らなかった。』

「成程。だが今は違う、と……。」

『遠方になればなるほど都まで辿り着く事は困難になる。その為、どうしても〝中継地〟が必要なんだ。』

「それで、(ぼく)達は(かつ)ての遺跡に眼を着けたんです。その手始めに、『五大遺跡』を、と……。」


 ネメシスが(たお)され、壊物(かいぶつ)が大幅に減ったとはいえ、現在も人類の大部分が困難な生活を続けている事は変わらない。

 都の住人以外は今も旧文明が遺した建物を隠れ処としながら、(かつ)てのミーナ達と同じように自活しているだろう。

 寧ろ、壊物(かいぶつ)が弱体化したとはいえ大幅に減った分、食糧事情はより厳しいものになった可能性が高い。


 そんな人々に直近ではより安全な隠れ処を提供しつつ少しずつ移動して貰い、将来的には『新たなる都』で受け入れて安定した生活を送って貰う。

 都としても世代交代よりも早い時期に人手不足を解消する。

 それが今回の旅の大義という訳だ。


(わし)に気遣うだけでなく、この様にお役に立てる道筋まで着けて頂いて、感謝に言葉も御座いません。』


 妖刀はフリヒトとルカに謝意を述べた。

 彼にとっても、ただ共同体の事情よりも自分の都合を押し通すよりはその為の大義があるのは有難いことだった。


「では、早速準備に取り掛かりましょう。なるべく早くに出発できる様に。」

(かしこ)まりました。』


 その後、旅立ちは二日後の朝という事で話は(まと)まった。

 ミーナがネメシスとの最後の戦いを前に願い、誓った、妖刀との最後の冒険が始まろうとしていた。

完結直前連続更新のお知らせ。

次回6/1㈭より、完結予定の6/4㈰まで、毎日連続更新します。

何卒、最後まで宜しく御願い致します。

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