22-A -闇からの訪れ-
浜辺に居た奈樹と颯紗の前に突如姿を現した女性、紫闇。その正体は悪魔。冥幽界という悪魔の棲む世界から来たという。
蒼の館の一室。話によると、紫闇は魔王の手によって妃にされそうになっている。そこから逃亡して、別世界である蒼輝達の住む世界……つまり生幽界に逃げ込んできたのだという。
蒼輝「魔王って…スケールがデカイな…」
月花「その魔王っていうのは…」
紫闇「アスモデス…それが奴の…私を狙う者の名前…」
現在の冥幽界には三つの城と国があるという。そこへアスモデスが新勢力として新たな城を建設し、国の魔王となろうとしている。
紫闇「新国の条件……それには王と妃が必要だ…。そこで…近隣の村で警備兵をしていただけの私に、白羽の矢が立った」
月花「どうして紫闇さんに?」
紫闇「私は比較的に純粋な人間に近い姿をしている……。それをアスモデスは気に入ったそうだ……。そして私の前に現れたのはアスモデスの配下である、『アスモデス四死公』」
蒼輝「四死公……?」
紫闇「アスモデスが集めた精鋭だ。悪魔のおおよその強さはナンバーを与えられた階級で決まる。それが第零に近い程、実力が上……。第七悪魔である私程度では、四死公の前に為すすべもなくやられ、無理矢理捕らえられた。そして…」
皆は黙っていた。しかし、待っていても何も言わなかった。痺れを切らした蒼輝が問いただした。
蒼輝「そして…どうなったんだ?」
紫闇は俯いたままだった。しかし、ゆっくりと口を開いた。
紫闇「奴は…いつまでも抵抗する私を自身の所有物とするために…刻印をつけた…」
勾玉「刻印…?」
紫闇は悲しげな表情を浮かべて顔を上げ、蒼輝達のいる方を見た。そして…。
マテリア「ひっ…!」
奈樹「…!」
奈樹の手を握っていた颯紗の手が強く握られた。その意味は、恐怖。
風魔「…酷いことをするもんだね」
紫闇は手で髪を掻き分けたのだ。髪で隠れた左眼を皆に見せた。そこに、眼は無かった。
目のあるはずの位置は焼けただれたような痕と、闇のように深く小さな赤いコアのような物が蠢いていた。髪を抑えていた手を放し、髪で再び眼を隠した。
紫闇「奴は…私から力だけでなく、眼も奪った…。私を傷つけることで、自分のモノであると証明すること…そして私に所有物であると自覚させること…」
蒼輝「ヒデェ…」
月花「これは許されることではありませんよ…」
しばらくの静寂。皆は紫闇が可哀想に思えてならなかった。そして紫闇が敵ではなく、寧ろ被害者なのだと判断するには十分すぎる話だった。
奈樹「あの……力だけでなく奪ったって、どういうことですか? まるで力をどうにかして奪われたかのような……」
紫闇「アスモデス自身は……そこまで大きな力を持っていない…。だが……奴は悪魔の力を吸収する能力を持っている…」
風魔「なるほど…その能力があれば、いずれ魔王を名乗るのも夢物語じゃない」
そうなれば、いずれ紫闇は魔王の妃に……いや、それどころか未来永劫、アスモデスに抵抗する力を奪われ続けるだけじゃなく、力を得るための養分となり、悲惨な道を進むしかないということになる。
奈樹「…こんな話を聞いた上で…紫闇さんをアスモデスに明け渡すなんて私には出来ません」
バサラ「そうだな、紫闇の姫をこの島に匿おうぜ」
勾玉「…それは良い判断とは思えんな」
皆が勾玉を見た。
マテリア「どうしてですか? 勾玉さん。 紫闇さんがこんなに困っているのに…」
勾玉「いくらなんでも相手が強大すぎる。イーバのような人間が作り出したE兵器などとは違う。悪魔や魔王となれば、ノスタルジアそのものが無事で済むとは思えん。紫闇を匿うことは、俺は反対だ」
蒼輝「勾玉…じゃあ紫闇を見捨てろっていうのか!?」
勾玉「そうだ」
蒼輝の問い掛けに、即答する勾玉。今にもぶつかり合いそうな緊迫感が部屋中に漂う。
風魔「落ち着きなって蒼輝。勾玉の言うことにも一理ある。紫闇をこの島に置き続けることは、今までのE兵器やE生物を守るのとはワケが違う。匿ったことで逆鱗にでも触れたら、その魔王って奴に島ごと木っ端微塵にされちゃうかも知れない」
蒼輝「けど…!」
勾玉「少なくとも俺は、カノンの守ろうとしていたこの島の大事を優先する」
蒼輝「…!」
その言葉に、何も言えなくなる蒼輝。カノンが全てを、命を賭けて愛したノスタルジアという島。E生物達の楽園。この島はカノンそのものと言えるもの。それを失うことは……したくなかった。
勾玉「この島が無くなればどうなる…? 今まで守り通してきたモノ、全てを失うことになるぞ? 俺達だけじゃない。ここにいない花の屋敷にいる者。ファラル大陸から移住して島へ来た者。商店街に済むE生物達も…カノンの墓も」
蒼輝「……」
奈樹「……」
蒼輝も、奈樹も、マテリアも黙ってしまった。勾玉の意見を真っ先に尊重した風魔も匿うことには反対なのだろう。奈樹の手を握って、怯えたままの颯紗も…。
月花「だったら俺が紫闇さんを守りましょう」
皆は月花を見た。
月花「紫闇さんの無事が確認できるまで、一緒にノスタルジアを出ることにしますよ」
紫闇「……」
その発言に、一番驚いていたのは紫闇だった。
蒼輝「けどさ…まぁ、まだ紫闇の身が危険と決まったわけじゃないから、別に出て行かなくても…」
月花「手遅れになってからでは遅すぎますよ。紫闇さんの様子を見れば、今から船での移動は難しいでしょうから、明日にしますけどね」
奈樹「月花さん…」
月花「大丈夫さ、奈樹ちゃん。安全だと判断できれば、また帰ってくる。紫闇さん、今日はゆっくり休んで下さい」
そう言って月花は部屋から出て行った。
バサラ「……言いたいことだけ言って行っちまったゼ?」
勾玉「俺も外へ行こう……。もう少し自分の考えを纏めたい」
風魔「そうだね。外の空気吸ったら、色々と考え方も変わったりするかも知れない」
マテリア「…わ…私も行くです…」
こうして紫闇の居る部屋に残された蒼輝、奈樹、颯紗、バサラ。
紫闇「君達も行ってくれていい……。それに……しばらく一人にしてほしい…」
しかし、放っておいていいものかどうか迷ってしまっていた。颯紗が握ったままの奈樹の手をクイッと引っ張って、外へ行きたそうに…いや、紫闇の居る空間から離れたがっているようにしていた。
バサラ「あっ……そうだ、今日はマリアが来る日なんだ。そろそろ出迎えに行かないと」
その言葉をキッカケに、皆は外へ出ることにした。紫闇に休むように言ってから部屋を出た。先に出て行った勾玉達の姿は、もう見当たらなかった。




