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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第二章 剣と聖
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19-C -侵掠と邀撃-

 ドォォォォォォォォン!


 ノスタルジアにポッドが落下(らっか)する音。刹那は既(すで)にその地点へと到着(とうちゃく)していた。ポッドの中が開く。


刹那「……」


 刹那は身構(みがま)えていた。どんな者が現れても不意打(ふいう)ちを回避(かいひ)できるよう、臨戦態勢(りんせんたいせい)に入っていた。中から現(あらわ)れたのはスペースグラスを掛(か)けた男だった。


氷牙「早速、ガッツリと警戒(けいかい)した奴が一人か」


刹那「アナタ…だぁれ…?」


 刹那は構(かま)えようとしたが、人の手によって両手(りょうて)を掴(つか)まれた。その正体はバンダナを巻いた少年だった。


シアン「オイラはシアンと申(もう)します。初(はじ)めまして可憐(かれん)なお嬢(じょう)さん…。透(す)き通るような、つぶらで大きな瞳(ひとみ)…そのアップにした髪型がとてもお似合いで…」


刹那「え? え?」


氷牙「コーラぁ! シアン! またガッツリとナンパしてんじゃねーぞ!」


シアン「け…けど…こんな可愛(かわい)い人が出迎(でむか)えてくれたら…」


氷牙「女なんかに現(うつつ)抜かしてんじゃねーよ。テメェの悪い癖(くせ)だぞ。だろ? シアン」


シアン「おうともよ! 親分(おやびん)! 流石、親分(おやびん)は硬派だぜ!」


 刹那から離(はな)れるシアン。刹那は動揺(どうよう)していた。いつ何が来てもいいように構えていたのに、シアンは刹那に触(ふ)れていた。そして可愛いと言われたことにも動揺していた。


氷牙「とりあえず目的を果たさせてもらうぜ」


刹那「目的…?」


氷牙「プレゼントだ。とっときな」


 ポケットからプラスチックのケースを取り出した。その中もある機械の種子(しゅし)のようなものを親指で弾(はじ)いて刹那の前に落とす。種の先端は螺旋状(らせんじょう)になっており、自動的に回転して地面を掘(ほ)って潜(もぐ)っていく。


刹那「これは…」


氷牙「マッド重兵器(ルークス)。レッド・ワームの種(たね)、だそうだ」


 地響(じひびき)きと共(とも)に刹那の足元の地面が割(わ)れる! 一足飛(いっそくと)びでその場を退(ど)く刹那だったが、地中から現れたのは口だけで3mはあろうかという巨大なワーム。その身体は赤く、ゴツゴツとした甲殻(こうかく)に覆(おおわ)われていた。その先端にある大きな口と無数(むすう)の牙(きば)を向け、刹那に襲(おそ)いかかっていた!

 

シアン「あぁ…名も知らぬ可憐なお嬢さん…許して下さい…」


氷牙「まず子猫ちゃんを一匹…始末(しまつ)っと」


 大きな音と共にレッド・ワームが刹那もろとも地に頭を打ち付ける。


氷牙「…!」


刹那「…!」


 月花(げっか)が刹那を抱(かか)えて、レッド・ワームの攻撃から避難(ひなん)させていた。月花は現状(げんじょう)だけでイーバからの侵略者(しんりゃくしゃ)であることを理解した。



シアン「チックショー!」


月花「残念だけど、仕留(しと)めさせませんよ」


シアン「チックショー! 彼氏持(かれしも)ちかよ!」


 月花は予想外(よそうがい)の言葉にズッコケそうになった。


月花「俺は彼氏じゃ…」


 言い終(お)わらぬ間(あいだ)にレッド・ワームが頭を上げ、再(ふたた)び月花と刹那に襲(おそ)いかかった!


刹那「!」


 ドオォォォォォォォォォン!


 レッド・ワームの頭部に火球(かきゅう)が直撃(ちょくげき)し、その爆発(ばくはつ)と共に星型(ほしがた)の火花が舞(ま)った。月花と刹那は火球が飛んできた後方(こうほう)を振(ふ)り返った。そこには蒼い髪の少女が居た。


奈樹「スターファイア」


 10メートルほど後ろで奈樹が右腕にエア・ボードを抱(かか)え、左手をレッド・ワームの頭部に向けて立っていた。イーバと戦うことを決意(けつい)し、立ち向かう運命を受け入れたような凛(りん)とした表情をしていた。


刹那「奈樹様!」


 仰(の)け反(ぞ)ったまま停止していたレッド・ワームがプルプルと震(ふる)えだした。月花は刹那を連れ、距離を空(あ)けた。


奈樹「!」


 レッド・ワームが空に向かって、何かの黒い塊(かたまり)を吐(は)き出し続けた。


氷牙「腐食人造(フルイド・ゾンビ)。俺は名前くらいしか聞いてねぇから、何されても文句言うなよ?」


 吐き出された50個ほどの塊は地面に落下すると、ヘドロのようなものを纏(まと)ったゾンビの群(む)れとなって立ち上がり、その内の一匹が奈樹へ襲(おそ)いかかった!


『陽式(みょうしき)・暁突(あかつき)』


 奈樹とゾンビの前に割り込み、蒼輝は陽剣ブレイド・サンの素早い突きをゾンビの腹部(ふくぶ)へ見舞(みま)っていた! ゾンビは呻(うめ)き声を上げながら、崩(くず)れ落ちて倒れる。


奈樹「来てくれるって信じてた」


 奈樹は不安の一欠片(ひとかけら)もない表情で、蒼輝へ微笑(ほほえ)みかけた。


蒼輝「へへっ、エア・ボードが速くて追い掛けるのに必死だったけどな」 


シアン「う…」


 シアンが蒼輝に割り込み、奈樹の両手を取って膝(ひざ)まずいた。


シアン「愛の海に沈(しず)んでしまいそうな深いブルーの瞳と、長く艶(つや)やかな髪…それを際立(きわだ)たせる、しなやかでスリムなボディ…可憐さと美しさを兼(か)ね備(そな)えたパーフェクトな存在…初めまして、オイラはシアンと申します」


奈樹「…え…えぇ?」


 動揺する奈樹。蒼輝も呆然(ぼうぜん)としていた。


氷牙「シーアーーーーンッ! テメェまたナンパしてんじゃねーぞー!」


シアン「いやいや、親分(おやびん)! こんな可愛い人なっかなかいるもんじゃいよ!? 間違いなくSSランク級だって!」


 遠くで叫(さけ)ぶ氷牙に、シアンは熱弁(ねつべん)する。奈樹はその高い評価に照れ臭そうな表情を浮かべた。


氷牙「彼氏持ちはNGじゃなかったのかよ」


シアン「SS級ともなれば、お構(かま)い無し! 寝取(ねと)り奪(うば)うってものよ!」


蒼輝「か…彼氏…ってか寝取っ…」


奈樹「彼氏…」


 二人は顔を見合わせた。恥ずかしい、気まずいといった空気が流れる。



シアン「違いました? それは好都合(こうつごう)だ。ここはオイラのテクで一気にキス展開まで持ち込んで…」


奈樹「キッ…」


蒼輝「ま、待て! それは待て!」


氷牙「早く戻って来い! ここは敵の本拠地(ほんきょち)なんだ、油断(ゆだん)はするもんじゃない。 だろ? シアン」


シアン「おうともよ! 親分(おやびん)! 流石(さっすが)は出来る男だとも!」


 急いで氷牙の所へ戻るシアン。怒涛(どとう)の口撃(こうげき)と展開の早さに戸惑(とまど)う蒼輝と奈樹。


蒼輝「なんか調子狂(ちょうしくる)う奴らだな···」


氷牙「狂(くる)わされてんのはこっちだっつーの! なんで戦場(せんじょう)に女を連れてくんだテメーら!」


奈樹「うーん…だって戦うつもりだから…」


氷牙「また面倒くせぇこと起こる前に、さっさとヤッちまえよ。レッド・ワームさんよ」


 言葉を理解しているかのように、レッド・ワームがうねりながら頭を天(てん)に突き上げる。そして全長20メートルはあろうかという巨体を少しずつ地面から這(は)い出してきた。レッド・ワームから出てきたヘドロでできたゾンビのような者達は後方へ下がる。


月花「こいつは厄介(やっかい)だな…」


蒼輝「来るぞ!」


 レッド・ワームがその巨体を地に這(は)わせるだけで地響きがする。月花と刹那を狙って前進するが、二人は蒼輝と奈樹の居る所とは別方向へジャンプして避ける。


奈樹「スター…っ!」


 レッド・ワームの胴体(どうたい)中部に向けて手を向け、咎力(きゅうりょく)を溜(た)めた瞬間(しゅんかん)だった。まるで狙(ねら)われていることを理解しているかのように、胴体下部を尻尾で殴打(おうだ)するように動かし、奈樹を狙った!


蒼輝「奈樹! ぐっ!」


 蒼輝はレッドワームの攻撃を自(みずか)らの身体で受け、抱(だ)きかかえた状態で奈樹を庇(かば)った!


奈樹「蒼輝!」


 10メートルほど吹き飛ばされた蒼輝は奈樹を抱(かか)えたまま、自分が下になるようにして地を滑(すべ)って倒れた。


奈樹「大丈夫!? ごめんなさい、迂闊(うかつ)だった…」


蒼輝「あぁ…これくらいなら平気だ…。イテテ…まぁ思ったより効いたな…」


 上にいた奈樹が離れると上体を起こす。


月花「……」


 刹那達を避難させるべきか、このまま戦うべきか悩(なうや)んでいた。イーバと戦うことは覚悟(かくご)していたが、自分が今までしてきたのは野蛮(やばん)な男達との喧嘩(けんか)。咎力(きゅうりょく)を使う戦いや、異型(いけい)のモンスターとの戦いなどのセオリーなど知らないし、心得(こころえ)てなかった。

 レッド・ワームが追撃(ついげき)するように、蒼輝と奈樹へ向かう! 刹那が間(あいだ)に割(わ)って入り、手を地に触れた。


刹那「土中(どちゅう)返(がえ)し!」


 刹那の前方の地面が、地中から出た水の噴出(ふんしゅつ)で90度に折れ曲がり、レッド・ワームの侵攻を妨げた! が、その地面の壁を諸共(もろとも)せずに突進し、地面を押しながら近付いてくる!


月花「刹那ちゃん!」


 月花は刹那の前に立つ。この壁を突破されたら自分が護(まも)る。そう思い立っていると…。レッド・ワームは諦(あきら)めたのか、後ろへ下がっていく。レッド・ワームは警戒している様子だった。その先へ、皆は目をやった。


レイ「これがイーバの力か…。僕に任せてもらえないかな?」 


 レイが立っていた。門の内部から出る結界が解除(かいじょ)され、合流したのだ。


蒼輝「こいつ…レイにビビったのか?」


氷牙「へっ…違(ちげ)ーよ。ようやく機能したってことだ。これで俺っちの役目は一つ終わりだな」


月花「どういうことだ…?」


蒼輝「こ…これは…!」


 レッド・ワームは口から煙(けむり)を吐(は)いていた。それは紅く、徐々に蒼輝達の周りを染(そ)めてゆく…。


奈樹「これは…咎霧領域(フォッグアリーナ)…!」


 エビルの時の黒いものと違い、赤い霧(きり)が辺りに漂(ただよ)う。




 蒼の館にある結界を発動させた勾玉はポッドが落ちた地点へ向かって走る。すると前方に赤い空間が漂(ただよ)っていた。

 

勾玉「この霧…! まさか咎霧領域(フォッグ・アリーナ)か…!?」


 中へ入ると前方に雷が落ちる! そこからビリビリと体を硬直(こうちょく)させてくるような威圧感(いあつかん)。

 姿(すがた)を現(あら)わしたのは赤いコートに赤い仮面の男…。


勾玉「この感覚…お前はE兵器(クリミナル)ではないな…」

 

マッド「マッド…。E兵器(クリミナル)ではない。我(われ)は…イーバ幹部」


勾玉「……」


 マッドは静かに背負っていた剣を鞘(さや)から抜いた。それを見て勾玉も収納札(イクリプス)から剣を取り出し、右手で掴(つか)んだ。


勾玉「牙蛇剣(がじゃけん)…ファング・ブレード!」


マッド「貴様は剣士か…? だとすれば湧(わ)き上がるぞ…この感覚。何も気にすることなく刃(やいば)を交(まじ)えられる…」


勾玉「イーバ幹部…エビル以外の者がどれほどの力か見せてもらおうか! レンクスウェイズ!」


 勾玉の刃がマッドへ伸びてゆく!




氷牙「それじゃ全員ゴチャゴチャして戦っても面倒なんで分断(ぶんだん)するぜ? コッチは目的があるからな。だろ? シアン」


シアン「おうともよ!」


 氷牙は新たなカプセルを取り出し、それを天高く投げた。すると咎霧領域(フォッグ・アリーナ)を分割(ぶんかつ)するような壁が発生した。


牙「この空間から逃げることを封じるもの、『咎霧分断壁(フォッグ・シャッター)』だそうだ。コイツは並の力じゃ壁を壊(こわ)すことは出来ず、通過することはできない」


蒼輝「レイ! 月花!」


奈樹「刹那!」


レイ「僕なら大丈夫。君達は自分達のことだけを考えるんだ」


 蒼輝と奈樹は腐食人造(フルイド・ゾンビ)の群(む)れと。レイはレッド・ワームと。月花、刹那は氷牙、シアンと隔離(かくり)された。そして別の空間に勾玉とマッドが隔離された。


 こうしてイーバの二度目の侵略(しんりゃく)が始まった。



 そして…瞬(またた)く間に最初の勝敗が決まった。


勾玉「ぐっ…!」


マッド「もう終わりか…剣士と呼ぶには程遠(ほどとお)い…」


 平然と立つマッド。折れた牙蛇剣(がじゃけん)は弾かれて回転して遠くに落下した。勾玉はマッドの剣に身体を斬られ、うつ伏(ぶ)せに倒れた。


勾玉「なんという…剣技(けんぎ)…」


 たった数撃(すうげき)、マッドの刃(やいば)を受けただけで剣が折られた。そのまま目にも留(と)まらぬ早さで切り捨てられた。同じイーバ幹部でも、マッドにはエビルとは違う点があった。それは慢心(まんしん)しないということ。常(つね)に戦いにのみ気を張り、決(けっ)して油断などしない。眼前(がんぜん)の敵を斬ることのみに集中していた。


勾玉「くっ…無念(むねん)…」


 マッドは歩み寄り、倒れる勾玉に対(たい)して剣を振り上げた。


マッド「終わりだ」


 勢(いきお)いよく剣を振り下ろした!


勾玉「…!」


 剣は途中(とちゅう)で停止していた。勾玉の前に光り輝く壁があった。マッドはそれを見て、後方へ大きく距離を取った。勾玉は奈樹の光術(こうじゅつ)だと判断したが…何かが違ういつもの光の壁とは相違(そうい)を感じた。


『セイント・バリアー…』


 勾玉の前に立っていた者。それは…。


マッド「何者だ…」


『私は…聖クレア教会の聖女(せいじょ)…』


 勾玉の視線の先には銀色の髪、聖クレアの正装の聖衣(せいい)を身に纏(まと)った少女。その姿は、倒れていた所を花の屋敷に連れてこられた聖女だった。


マリア「マリアリアドネレイドリス・ヒエロス…それが…私の名前」

挿絵(By みてみん)


マッド「イーバ幹部…地獄紅剣士(ヘル・レッド・マーダー)…マッド」


 勾玉の窮地(きゅうち)に突如(とつじょ)現(あらわ)れたマリア。蒼輝と奈樹、刹那と月花、そしてレイは…この戦いを制(せい)することができるのか…?




 第十九話 -侵掠(しんりゃく)と邀撃(ようげき)- End

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