19-C -侵掠と邀撃-
ドォォォォォォォォン!
ノスタルジアにポッドが落下する音。刹那は既にその地点へと到着していた。ポッドの中が開く。
刹那「……」
刹那は身構えていた。どんな者が現れても不意打ちを回避できるよう、臨戦態勢に入っていた。中から現れたのはスペースグラスを掛けた男だった。
氷牙「早速、ガッツリと警戒した奴が一人か」
刹那「アナタ…だぁれ…?」
刹那は構えようとしたが、人の手によって両手を掴まれた。その正体はバンダナを巻いた少年だった。
シアン「オイラはシアンと申します。初めまして可憐なお嬢さん…。透き通るような、つぶらで大きな瞳…そのアップにした髪型がとてもお似合いで…」
刹那「え? え?」
氷牙「コーラぁ! シアン! またガッツリとナンパしてんじゃねーぞ!」
シアン「け…けど…こんな可愛い人が出迎えてくれたら…」
氷牙「女なんかに現抜かしてんじゃねーよ。テメェの悪い癖だぞ。だろ? シアン」
シアン「おうともよ! 親分! 流石、親分は硬派だぜ!」
刹那から離れるシアン。刹那は動揺していた。いつ何が来てもいいように構えていたのに、シアンは刹那に触れていた。そして可愛いと言われたことにも動揺していた。
氷牙「とりあえず目的を果たさせてもらうぜ」
刹那「目的…?」
氷牙「プレゼントだ。とっときな」
ポケットからプラスチックのケースを取り出した。その中もある機械の種子のようなものを親指で弾いて刹那の前に落とす。種の先端は螺旋状になっており、自動的に回転して地面を掘って潜っていく。
刹那「これは…」
氷牙「マッド重兵器。レッド・ワームの種、だそうだ」
地響きと共に刹那の足元の地面が割れる! 一足飛びでその場を退く刹那だったが、地中から現れたのは口だけで3mはあろうかという巨大なワーム。その身体は赤く、ゴツゴツとした甲殻に覆われていた。その先端にある大きな口と無数の牙を向け、刹那に襲いかかっていた!
シアン「あぁ…名も知らぬ可憐なお嬢さん…許して下さい…」
氷牙「まず子猫ちゃんを一匹…始末っと」
大きな音と共にレッド・ワームが刹那もろとも地に頭を打ち付ける。
氷牙「…!」
刹那「…!」
月花が刹那を抱えて、レッド・ワームの攻撃から避難させていた。月花は現状だけでイーバからの侵略者であることを理解した。
シアン「チックショー!」
月花「残念だけど、仕留めさせませんよ」
シアン「チックショー! 彼氏持ちかよ!」
月花は予想外の言葉にズッコケそうになった。
月花「俺は彼氏じゃ…」
言い終わらぬ間にレッド・ワームが頭を上げ、再び月花と刹那に襲いかかった!
刹那「!」
ドオォォォォォォォォォン!
レッド・ワームの頭部に火球が直撃し、その爆発と共に星型の火花が舞った。月花と刹那は火球が飛んできた後方を振り返った。そこには蒼い髪の少女が居た。
奈樹「スターファイア」
10メートルほど後ろで奈樹が右腕にエア・ボードを抱え、左手をレッド・ワームの頭部に向けて立っていた。イーバと戦うことを決意し、立ち向かう運命を受け入れたような凛とした表情をしていた。
刹那「奈樹様!」
仰け反ったまま停止していたレッド・ワームがプルプルと震えだした。月花は刹那を連れ、距離を空けた。
奈樹「!」
レッド・ワームが空に向かって、何かの黒い塊を吐き出し続けた。
氷牙「腐食人造。俺は名前くらいしか聞いてねぇから、何されても文句言うなよ?」
吐き出された50個ほどの塊は地面に落下すると、ヘドロのようなものを纏ったゾンビの群れとなって立ち上がり、その内の一匹が奈樹へ襲いかかった!
『陽式・暁突』
奈樹とゾンビの前に割り込み、蒼輝は陽剣ブレイド・サンの素早い突きをゾンビの腹部へ見舞っていた! ゾンビは呻き声を上げながら、崩れ落ちて倒れる。
奈樹「来てくれるって信じてた」
奈樹は不安の一欠片もない表情で、蒼輝へ微笑みかけた。
蒼輝「へへっ、エア・ボードが速くて追い掛けるのに必死だったけどな」
シアン「う…」
シアンが蒼輝に割り込み、奈樹の両手を取って膝まずいた。
シアン「愛の海に沈んでしまいそうな深いブルーの瞳と、長く艶やかな髪…それを際立たせる、しなやかでスリムなボディ…可憐さと美しさを兼ね備えたパーフェクトな存在…初めまして、オイラはシアンと申します」
奈樹「…え…えぇ?」
動揺する奈樹。蒼輝も呆然としていた。
氷牙「シーアーーーーンッ! テメェまたナンパしてんじゃねーぞー!」
シアン「いやいや、親分! こんな可愛い人なっかなかいるもんじゃいよ!? 間違いなくSSランク級だって!」
遠くで叫ぶ氷牙に、シアンは熱弁する。奈樹はその高い評価に照れ臭そうな表情を浮かべた。
氷牙「彼氏持ちはNGじゃなかったのかよ」
シアン「SS級ともなれば、お構い無し! 寝取り奪うってものよ!」
蒼輝「か…彼氏…ってか寝取っ…」
奈樹「彼氏…」
二人は顔を見合わせた。恥ずかしい、気まずいといった空気が流れる。
シアン「違いました? それは好都合だ。ここはオイラのテクで一気にキス展開まで持ち込んで…」
奈樹「キッ…」
蒼輝「ま、待て! それは待て!」
氷牙「早く戻って来い! ここは敵の本拠地なんだ、油断はするもんじゃない。 だろ? シアン」
シアン「おうともよ! 親分! 流石は出来る男だとも!」
急いで氷牙の所へ戻るシアン。怒涛の口撃と展開の早さに戸惑う蒼輝と奈樹。
蒼輝「なんか調子狂う奴らだな···」
氷牙「狂わされてんのはこっちだっつーの! なんで戦場に女を連れてくんだテメーら!」
奈樹「うーん…だって戦うつもりだから…」
氷牙「また面倒くせぇこと起こる前に、さっさとヤッちまえよ。レッド・ワームさんよ」
言葉を理解しているかのように、レッド・ワームがうねりながら頭を天に突き上げる。そして全長20メートルはあろうかという巨体を少しずつ地面から這い出してきた。レッド・ワームから出てきたヘドロでできたゾンビのような者達は後方へ下がる。
月花「こいつは厄介だな…」
蒼輝「来るぞ!」
レッド・ワームがその巨体を地に這わせるだけで地響きがする。月花と刹那を狙って前進するが、二人は蒼輝と奈樹の居る所とは別方向へジャンプして避ける。
奈樹「スター…っ!」
レッド・ワームの胴体中部に向けて手を向け、咎力を溜めた瞬間だった。まるで狙われていることを理解しているかのように、胴体下部を尻尾で殴打するように動かし、奈樹を狙った!
蒼輝「奈樹! ぐっ!」
蒼輝はレッドワームの攻撃を自らの身体で受け、抱きかかえた状態で奈樹を庇った!
奈樹「蒼輝!」
10メートルほど吹き飛ばされた蒼輝は奈樹を抱えたまま、自分が下になるようにして地を滑って倒れた。
奈樹「大丈夫!? ごめんなさい、迂闊だった…」
蒼輝「あぁ…これくらいなら平気だ…。イテテ…まぁ思ったより効いたな…」
上にいた奈樹が離れると上体を起こす。
月花「……」
刹那達を避難させるべきか、このまま戦うべきか悩んでいた。イーバと戦うことは覚悟していたが、自分が今までしてきたのは野蛮な男達との喧嘩。咎力を使う戦いや、異型のモンスターとの戦いなどのセオリーなど知らないし、心得てなかった。
レッド・ワームが追撃するように、蒼輝と奈樹へ向かう! 刹那が間に割って入り、手を地に触れた。
刹那「土中返し!」
刹那の前方の地面が、地中から出た水の噴出で90度に折れ曲がり、レッド・ワームの侵攻を妨げた! が、その地面の壁を諸共せずに突進し、地面を押しながら近付いてくる!
月花「刹那ちゃん!」
月花は刹那の前に立つ。この壁を突破されたら自分が護る。そう思い立っていると…。レッド・ワームは諦めたのか、後ろへ下がっていく。レッド・ワームは警戒している様子だった。その先へ、皆は目をやった。
レイ「これがイーバの力か…。僕に任せてもらえないかな?」
レイが立っていた。門の内部から出る結界が解除され、合流したのだ。
蒼輝「こいつ…レイにビビったのか?」
氷牙「へっ…違ーよ。ようやく機能したってことだ。これで俺っちの役目は一つ終わりだな」
月花「どういうことだ…?」
蒼輝「こ…これは…!」
レッド・ワームは口から煙を吐いていた。それは紅く、徐々に蒼輝達の周りを染めてゆく…。
奈樹「これは…咎霧領域…!」
エビルの時の黒いものと違い、赤い霧が辺りに漂う。
蒼の館にある結界を発動させた勾玉はポッドが落ちた地点へ向かって走る。すると前方に赤い空間が漂っていた。
勾玉「この霧…! まさか咎霧領域か…!?」
中へ入ると前方に雷が落ちる! そこからビリビリと体を硬直させてくるような威圧感。
姿を現わしたのは赤いコートに赤い仮面の男…。
勾玉「この感覚…お前はE兵器ではないな…」
マッド「マッド…。E兵器ではない。我は…イーバ幹部」
勾玉「……」
マッドは静かに背負っていた剣を鞘から抜いた。それを見て勾玉も収納札から剣を取り出し、右手で掴んだ。
勾玉「牙蛇剣…ファング・ブレード!」
マッド「貴様は剣士か…? だとすれば湧き上がるぞ…この感覚。何も気にすることなく刃を交えられる…」
勾玉「イーバ幹部…エビル以外の者がどれほどの力か見せてもらおうか! レンクスウェイズ!」
勾玉の刃がマッドへ伸びてゆく!
氷牙「それじゃ全員ゴチャゴチャして戦っても面倒なんで分断するぜ? コッチは目的があるからな。だろ? シアン」
シアン「おうともよ!」
氷牙は新たなカプセルを取り出し、それを天高く投げた。すると咎霧領域を分割するような壁が発生した。
牙「この空間から逃げることを封じるもの、『咎霧分断壁』だそうだ。コイツは並の力じゃ壁を壊すことは出来ず、通過することはできない」
蒼輝「レイ! 月花!」
奈樹「刹那!」
レイ「僕なら大丈夫。君達は自分達のことだけを考えるんだ」
蒼輝と奈樹は腐食人造の群れと。レイはレッド・ワームと。月花、刹那は氷牙、シアンと隔離された。そして別の空間に勾玉とマッドが隔離された。
こうしてイーバの二度目の侵略が始まった。
そして…瞬く間に最初の勝敗が決まった。
勾玉「ぐっ…!」
マッド「もう終わりか…剣士と呼ぶには程遠い…」
平然と立つマッド。折れた牙蛇剣は弾かれて回転して遠くに落下した。勾玉はマッドの剣に身体を斬られ、うつ伏せに倒れた。
勾玉「なんという…剣技…」
たった数撃、マッドの刃を受けただけで剣が折られた。そのまま目にも留まらぬ早さで切り捨てられた。同じイーバ幹部でも、マッドにはエビルとは違う点があった。それは慢心しないということ。常に戦いにのみ気を張り、決して油断などしない。眼前の敵を斬ることのみに集中していた。
勾玉「くっ…無念…」
マッドは歩み寄り、倒れる勾玉に対して剣を振り上げた。
マッド「終わりだ」
勢いよく剣を振り下ろした!
勾玉「…!」
剣は途中で停止していた。勾玉の前に光り輝く壁があった。マッドはそれを見て、後方へ大きく距離を取った。勾玉は奈樹の光術だと判断したが…何かが違ういつもの光の壁とは相違を感じた。
『セイント・バリアー…』
勾玉の前に立っていた者。それは…。
マッド「何者だ…」
『私は…聖クレア教会の聖女…』
勾玉の視線の先には銀色の髪、聖クレアの正装の聖衣を身に纏った少女。その姿は、倒れていた所を花の屋敷に連れてこられた聖女だった。
マリア「マリアリアドネレイドリス・ヒエロス…それが…私の名前」
マッド「イーバ幹部…地獄紅剣士…マッド」
勾玉の窮地に突如現れたマリア。蒼輝と奈樹、刹那と月花、そしてレイは…この戦いを制することができるのか…?
第十九話 -侵掠と邀撃- End




