19-B -侵掠と邀撃-
奈樹はレイと話をしていた。颯紗は奈樹の親友ということもあってか、マテリアとも少しずつ打ち解けることができているようだった。
奈樹「あっ…蒼輝」
奈樹は蒼輝が来たことに対して嬉しそうな表情をする。こうも分かり易い態度を見せられると、蒼輝も嬉しい気持ちになってしまう。外見に幼さが残る部分があるのとは裏腹に、頭の回転が早い知的なタイプの奈樹。だが、たまに少女的な素直な反応を見せられるとドキッとしてしまう。
蒼輝「えっと…成果はあったか?」
昨日から、それぞれが思うままに修行をしていた。奈樹はレイと修行をしていたので、その成果を聞いた。
奈樹「色々ダメだしされちゃった…」
蒼輝「奈樹でも指摘されるようなことあるのか?」
レイ「咎力の扱いは見事だけどね。ただ体術面でその長所を活かしきれていないってことさ」
奈樹「確かに私はエビルと戦った時と同じように、レイさんと手合わせした時も懐に潜り込まれて…」
蒼輝「えっ!? 大丈夫なのか!?」
レイ「心配しなくていいよ、ちゃんと寸止めしているから」
レイはニコニコしながら言った。
蒼輝「皆でレイに稽古付けてもらったら、全体の実力の底上げになるかも?」
奈樹「そうね…私も実力不足って気付かされたから、もっと頑張らなきゃ」
颯紗「奈樹があんなに動けるなんて驚いた…」
奈樹は颯紗を見る。戦う姿を見たせいで少し怯えてしまったかも知れないと思った奈樹は、いつものように優しい微笑みを浮かべながら颯紗に言った。
奈樹「言ったでしょ? 颯紗は私が守るって。だから私、もっと強くなるから」
蒼輝「この島には、皆守りたいと思うものがいるんだ」
颯紗「守りたいと思うもの…」
蒼輝は奈樹を、奈樹は颯紗を、芙蓉なら桔梗と桜羅を守りたいと思っている。それだけでなく、エビルと戦った時に皆は皆を守るために戦った。そして今、島に集まった者は島の平和を守るつもりである。
レイ「大切な人の存在が人を強くする。その想いが希望の光そのものなんだ」
颯紗「私も…」
小さな声で呟くと、その燃えるような紅い瞳を閉じた。
奈樹「うん…?」
颯紗「私も平和を守りたい…。戦ったりできないけど…その…皆の帰る場所になりたい…疲れた皆を癒す場所になりたい」
レイ「君が帰る場所になるのを望むのであれば、その光は必ず皆に届くよ」
奈樹「颯紗…」
奈樹は颯紗を島へ連れてきて良かったと心の底から思った。自分が蒼輝に守られてるだけじゃない、自分も誰かを守りたいと感じるようになった。そこで出会った颯紗。最初こそ悲観的だったが、この島ノスタルジアへ来た数日で少しずつ変化があった。
そこへ門に船長の慌てているかのような声が聞こえた。近くに居た勾玉と芙蓉が出向く。
蒼輝「おっちゃんがここまで来るとは珍しいな」
奈樹「センチョーさん慌ててたみたいだけど…」
勾玉は一人の少女…いや、聖女を抱えて、所持物であろうロッドを持った芙蓉と家へ向かっていった。蒼輝達も急いで後を追う。プリプムと遊んでいた四人を除いて、皆は家の中へ入った。
布団を敷いて、ゆっくりとそこへ寝かせた。話によると今運ばれてきた少女はファラル大陸から乗船したが、到着した頃には船上で倒れていたらしい。
芙蓉「次から次へと厄介事を持ってくるのは、一体誰なのかしら…? 疫病神とかいるんじゃないの?」
蒼輝「心なしか、俺を見ながら言ってないか!?」
芙蓉「どうかしらね」
マテリア「顔色が悪いです…随分と疲れているみたいです…」
聖女はかなりの疲労が溜まっている様子が見て取れる。
レイ「この聖衣…聖クレア教会の者だね。僕は関わりがあるわけではないから身元までは判らないけど…」
勾玉「そういえば聖クレア教会に向かった時に、バサラは知り合いがいると言っていたな。もしかしたらこの娘のことを知っているかもしれん」
蒼輝「バサラは今、一人で精神統一してるんだよな…」
芙蓉「あの王子はこんな時に…じゃあこの子の目が覚めて、話を聞いてからにしましょうか」
皆は同意した。外に居た月花、刹那、桔梗、桜羅、そしてプリプム。
月花「ほれほれ」
プリプム「プリプリ!」
月花は持ち歩いていたチョコレートの棒状のお菓子『チョコッ木ー』をプリプムに与えていた。ポリポリと音を鳴らしながら食べていく。
桔梗「あーん、可愛いー! お兄さん! アタシにもやらせてー!」
月花「はい」
月花はチョコッ木ーの入った袋を桔梗に渡す。
桔梗「はい、あーん」
桔梗の差し出したお菓子をプリプムはポリポリ食べてゆく。桔梗は可愛さの虜になっているようなウットリした表情で、その様子を見ている。
桜羅「あまり食べさせると太っちゃうよ…?」
桔梗「元々太ってるから大丈夫大丈夫!」
月花「このふっくらした感じがいいんだよねー」
刹那「月花様って可愛いのが好きなのお?」
月花「そ…それもあるけど…プリプムを見て可愛がらないはずないでしょ?」
刹那「うん! そおだね!」
月花「……(本当は自己紹介してた時点で、プリプム抱きしめたくてソワソワしてたんだよね…)」
すると突如空に鳴り響く轟音、空を見るとイーバのポッドが落ちてきた。落下地点は以前エビルと戦った場所と同じ辺りへと向かっている。
月花「あれは…」
自分が脱出用ポッドで来たものと同じと直感した。
刹那「…! 行ってくる!」
月花「刹那ちゃん!」
止めようとしたが、その瞬間には刹那は姿を消していた。
月花「桔梗ちゃんと桜羅ちゃん! 皆に知らせて!」
月花は刹那を追い、ポッドの落下地点へと走っていった。
桜羅「き…桔梗ちゃん…」
桔梗「ほら、行こう! 桜羅!」
プリプムを抱えて怯え、涙目になっている桜羅の手を繋ぎ、桔梗は姉らしく率先して屋敷の中へと向かった。
桔梗と桜羅は中へ入り、ポッドが落下してきたことを皆に知らせた。
蒼輝「なんだって!?」
奈樹「とうとう…来てしまった…」
レイ「行こうか…その落下地点へ」
勾玉「芙蓉、この娘を頼む」
横になっている聖女。その正体もわからぬまま、とりあえず匿うことにした。
芙蓉「屋敷のことは任せてくれていいけど ここに居ない連中にも知らせないと」
勾玉「俺が蒼の館へ向かおう。結界を起動させるように伝えに行く」
皆は走って門を出ていく。蒼輝、奈樹、勾玉が外へ出た時点で桔梗が独断で結界のレバーを引く。
桔梗「えんやーこーらー!」
門の塀を囲うように結界が発生する。
芙蓉「桔梗! アンタなにしてんのよ!」
桔梗「アレー!? ダメだったー!?」
桜羅「こ…これ…起動させると外の人とE生物は入って来れるけど…」
芙蓉「安全のせいか知らないけど、しばらく中から外に出れないのよ」
アチャーって顔をする桔梗。屋敷の敷地内には、まだレイとマテリアが残っていた。
桔梗「ごめんなさいゴメンナサイ御免なさい!」
二人に対して、もの凄い速度で何度も頭を下げまくる桔梗。黒い髪のサイドテールがブルンブルン揺れる。
レイ「知らなかったのなら仕方ないよ。皆、僕が到達するまで頼んだよ」
レイは桔梗を宥めながら、蒼輝達へ言った。
蒼輝「おう! 任せとけ!」
マテリア「ここの結界が本当に外から安全か確認するために、私はここに残るです。いざという時は召喚術で皆を守るです」
勾玉「そうだな…そういう役目の者も必要だ。マテリア、頼んだぞ」
勾玉はマテリアと目を合わせ、意思表示の確認をした。颯紗は心配そうに奈樹を見つめていた。
奈樹「大丈夫。ここに避難していて」
颯紗「奈樹…気をつけて…。私、無事に帰ってくる運命を信じてる」
奈樹「ありがとう、颯紗。心配しないで。…よっと、それでは行ってきます!」
奈樹は装着したエア・ボードを浮遊させて、猛スピードで出発する。
蒼輝「おーい! 待ってくれー!」
蒼輝は奈樹の後を追って、全力疾走していった。勾玉は蒼の館へ向かって走った。
桔梗「うぅ…」
芙蓉「まぁ仕方ないわね。奈樹達を信じましょう」
レイはニコニコしながら、落ち込んでいる桔梗の頭を撫でた。芙蓉も怒る様子は無かったので、桔梗は心底ホッとした。




