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蒼咎のシックザール  作者: ZERO-HAZY
第二章 剣と聖
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19-B -侵掠と邀撃-

 奈樹(なじゅ)はレイと話をしていた。颯紗(さらさ)は奈樹の親友ということもあってか、マテリアとも少しずつ打ち解けることができているようだった。


奈樹「あっ…蒼輝」


 奈樹は蒼輝が来たことに対して嬉(うれ)しそうな表情をする。こうも分かり易(やす)い態度を見せられると、蒼輝も嬉しい気持ちになってしまう。外見に幼(おさな)さが残る部分があるのとは裏腹に、頭の回転が早い知的なタイプの奈樹。だが、たまに少女的な素直な反応を見せられるとドキッとしてしまう。


蒼輝「えっと…成果はあったか?」


 昨日から、それぞれが思うままに修行をしていた。奈樹はレイと修行をしていたので、その成果を聞いた。


奈樹「色々ダメだしされちゃった…」


蒼輝「奈樹でも指摘(してき)されるようなことあるのか?」


レイ「咎力(きゅうりょく)の扱(あつか)いは見事だけどね。ただ体術面(たいじゅつめん)でその長所(ちょうしょ)を活(い)かしきれていないってことさ」


奈樹「確かに私はエビルと戦った時と同じように、レイさんと手合(てあ)わせした時も懐(ふところ)に潜(もぐ)り込まれて…」


蒼輝「えっ!? 大丈夫なのか!?」


レイ「心配しなくていいよ、ちゃんと寸止(すんど)めしているから」


 レイはニコニコしながら言った。


蒼輝「皆でレイに稽古(けいこ)付けてもらったら、全体の実力の底上(そこあ)げになるかも?」


奈樹「そうね…私も実力不足って気付かされたから、もっと頑張(がんば)らなきゃ」


颯紗「奈樹があんなに動けるなんて驚(おどろ)いた…」


 奈樹は颯紗を見る。戦う姿を見たせいで少し怯(おび)えてしまったかも知れないと思った奈樹は、いつものように優しい微笑(ほほえ)みを浮かべながら颯紗に言った。


奈樹「言ったでしょ? 颯紗は私が守るって。だから私、もっと強くなるから」


蒼輝「この島には、皆守りたいと思うものがいるんだ」


颯紗「守りたいと思うもの…」


 蒼輝は奈樹を、奈樹は颯紗を、芙蓉なら桔梗と桜羅を守りたいと思っている。それだけでなく、エビルと戦った時に皆は皆を守るために戦った。そして今、島に集まった者は島の平和を守るつもりである。


レイ「大切な人の存在が人を強くする。その想いが希望の光そのものなんだ」


颯紗「私も…」


 小さな声で呟(つぶや)くと、その燃えるような紅い瞳を閉じた。


奈樹「うん…?」


颯紗「私も平和を守りたい…。戦ったりできないけど…その…皆の帰る場所になりたい…疲れた皆を癒(いや)す場所になりたい」


レイ「君が帰る場所になるのを望(のぞ)むのであれば、その光は必(かなら)ず皆に届くよ」


奈樹「颯紗…」


 奈樹は颯紗を島へ連れてきて良かったと心の底から思った。自分が蒼輝に守られてるだけじゃない、自分も誰かを守りたいと感じるようになった。そこで出会った颯紗。最初こそ悲観的(ひかんてき)だったが、この島ノスタルジアへ来た数日で少しずつ変化があった。


 そこへ門に船長の慌(あわ)てているかのような声が聞こえた。近くに居た勾玉と芙蓉が出向く。


蒼輝「おっちゃんがここまで来るとは珍(めずら)しいな」


奈樹「センチョーさん慌ててたみたいだけど…」


 勾玉は一人の少女…いや、聖女(せいじょ)を抱(かか)えて、所持物(しょじぶつ)であろうロッドを持った芙蓉と家へ向かっていった。蒼輝達も急いで後を追う。プリプムと遊んでいた四人を除(のぞ)いて、皆は家の中へ入った。

 布団(ふとん)を敷(し)いて、ゆっくりとそこへ寝かせた。話によると今運ばれてきた少女はファラル大陸から乗船(じょうせん)したが、到着(とうちゃく)した頃には船上で倒れていたらしい。


芙蓉「次から次へと厄介事(やっかいごと)を持ってくるのは、一体誰なのかしら…? 疫病神(やくびょうがみ)とかいるんじゃないの?」


蒼輝「心なしか、俺を見ながら言ってないか!?」


芙蓉「どうかしらね」


マテリア「顔色が悪いです…随分(ずいぶん)と疲(つか)れているみたいです…」


 聖女はかなりの疲労(ひろう)が溜(た)まっている様子が見て取れる。


レイ「この聖衣(せいい)…聖クレア教会の者だね。僕は関(かか)わりがあるわけではないから身元(みもと)までは判(わか)らないけど…」


勾玉「そういえば聖クレア教会に向かった時に、バサラは知り合いがいると言っていたな。もしかしたらこの娘(むすめ)のことを知っているかもしれん」


蒼輝「バサラは今、一人で精神統一(せいしんとういつ)してるんだよな…」


芙蓉「あの王子はこんな時に…じゃあこの子の目が覚めて、話を聞いてからにしましょうか」


 皆は同意(どうい)した。外に居た月花、刹那、桔梗、桜羅、そしてプリプム。


月花「ほれほれ」


プリプム「プリプリ!」


 月花は持ち歩いていたチョコレートの棒状(ぼうじょう)のお菓子(かし)『チョコッ木(キ)ー』をプリプムに与(あた)えていた。ポリポリと音を鳴らしながら食べていく。


桔梗「あーん、可愛(かわい)いー! お兄さん! アタシにもやらせてー!」


月花「はい」


 月花はチョコッ木ーの入った袋(ふくろ)を桔梗に渡す。


桔梗「はい、あーん」


 桔梗の差し出したお菓子をプリプムはポリポリ食べてゆく。桔梗は可愛さの虜(とりこ)になっているようなウットリした表情で、その様子を見ている。


桜羅「あまり食べさせると太っちゃうよ…?」


桔梗「元々太ってるから大丈夫(ダイジョーブ)大丈夫!」


月花「このふっくらした感じがいいんだよねー」


刹那「月花様って可愛いのが好きなのお?」


月花「そ…それもあるけど…プリプムを見て可愛がらないはずないでしょ?」


刹那「うん! そおだね!」


月花「……(本当は自己紹介してた時点で、プリプム抱(だ)きしめたくてソワソワしてたんだよね…)」



 すると突如(とつじょ)空に鳴り響く轟音(ごうおん)、空を見るとイーバのポッドが落ちてきた。落下地点は以前エビルと戦った場所と同じ辺りへと向かっている。


月花「あれは…」


 自分が脱出用ポッドで来たものと同じと直感した。


刹那「…! 行ってくる!」


月花「刹那ちゃん!」


 止めようとしたが、その瞬間には刹那は姿を消していた。


月花「桔梗ちゃんと桜羅ちゃん! 皆に知らせて!」


 月花は刹那を追い、ポッドの落下地点へと走っていった。


桜羅「き…桔梗ちゃん…」


桔梗「ほら、行こう! 桜羅!」


 プリプムを抱(かか)えて怯(おび)え、涙目になっている桜羅の手を繋ぎ、桔梗は姉らしく率先(そっせん)して屋敷の中へと向かった。


 桔梗と桜羅は中へ入り、ポッドが落下してきたことを皆に知らせた。


蒼輝「なんだって!?」


奈樹「とうとう…来てしまった…」


レイ「行こうか…その落下地点へ」


勾玉「芙蓉、この娘を頼む」


 横になっている聖女。その正体もわからぬまま、とりあえず匿(かくま)うことにした。


芙蓉「屋敷のことは任せてくれていいけど ここに居ない連中にも知らせないと」


勾玉「俺が蒼の館へ向かおう。結界を起動させるように伝えに行く」


 皆は走って門を出ていく。蒼輝、奈樹、勾玉が外へ出た時点で桔梗が独断で結界のレバーを引く。


桔梗「えんやーこーらー!」


 門の塀(へい)を囲うように結界が発生する。


芙蓉「桔梗! アンタなにしてんのよ!」


桔梗「アレー!? ダメだったー!?」


桜羅「こ…これ…起動させると外の人とE生物(スティグマ)は入って来れるけど…」


芙蓉「安全のせいか知らないけど、しばらく中から外に出れないのよ」


 アチャーって顔をする桔梗。屋敷の敷地内(しきちない)には、まだレイとマテリアが残っていた。


桔梗「ごめんなさいゴメンナサイ御免(ごめん)なさい!」


 二人に対して、もの凄い速度で何度も頭を下げまくる桔梗。黒い髪のサイドテールがブルンブルン揺れる。


レイ「知らなかったのなら仕方ないよ。皆、僕が到達するまで頼んだよ」


 レイは桔梗を宥(なぐさ)めながら、蒼輝達へ言った。


蒼輝「おう! 任せとけ!」


マテリア「ここの結界が本当に外から安全か確認するために、私はここに残るです。いざという時は召喚術で皆を守るです」


勾玉「そうだな…そういう役目の者も必要だ。マテリア、頼んだぞ」


 勾玉はマテリアと目を合わせ、意思表示の確認をした。颯紗は心配そうに奈樹を見つめていた。


奈樹「大丈夫。ここに避難していて」


颯紗「奈樹…気をつけて…。私、無事に帰ってくる運命を信じてる」


奈樹「ありがとう、颯紗。心配しないで。…よっと、それでは行ってきます!」


 奈樹は装着したエア・ボードを浮遊させて、猛スピードで出発する。


蒼輝「おーい! 待ってくれー!」


 蒼輝は奈樹の後を追って、全力疾走していった。勾玉は蒼の館へ向かって走った。


桔梗「うぅ…」


芙蓉「まぁ仕方ないわね。奈樹達を信じましょう」


 レイはニコニコしながら、落ち込んでいる桔梗の頭を撫(な)でた。芙蓉も怒る様子は無かったので、桔梗は心底ホッとした。

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