10-A -命を賭けた戦い-
前回のあらすじ
イーバから脱走してきた桔梗と桜羅。二人は芙蓉の妹のような存在であり、芙蓉を追ってノスタルジアへ来た。芙蓉達が住めるように皆で協力して使われていない屋敷を掃除した。しばらくすると桔梗と桜羅に異変が起き、咎霧領域なるものが体から排出させられた。
そこにノスタルジアへと現れたイーバ幹部のエビル。幹部クラスが地上に降りるには咎力が必要だった。それを満たすために脱走すると予測していた桔梗と桜羅に咎霧領域を発生させる仕掛けをしておいたと言う。
奈樹と芙蓉をイーバに連れ戻すことが目的であり、反抗しようとした蒼輝は見せしめのようにエビルに一撃で倒される。エビルは一人で戦うことを避ける為に、エビル装甲兵を呼び出した。
勾玉「奈樹…お前はそこの三体をやれ」
奈樹「勾玉さん…!?」
勾玉「俺は…アイツを倒す」
エビルを睨みつけながら奈樹へ言った。その姿からは並々ならぬ決意を感じる。
エビル「君が僕の? 君はそんなことを言う熱血タイプには見えないんだがね」
勾玉「俺も暑苦しい発言は嫌いだが、これは本気だ。お前を倒すと言っている」
エビル「ふっ…自分が勝てると信じているのか? だがそんなものは無意味だ」
勾玉「……」
エビル「信じる力、神への信仰とは何の効果もない。仮に祈った後に何か自分に良いことが起きたとしよう…それはただの偶然…神に祈っただけで救われた気になっているだけの自己暗示…いや、その暗示すら大した意味を持たない。現実だ。神頼みなどせず現実を見ろ。その先に見えるモノ…本当に必要なモノはなんだ? それは…信仰なんかじゃない。力だ」
エビルは小馬鹿にしたような表情で勾玉を見る。
エビル「君が偶然、奇跡で僕に勝つという神頼みをするのは結構だ。だが信仰しても無駄さ。君は僕には勝てない」
勾玉「それが事実だろうと関係無いこと…。俺の考えは変わらない。
なぜなら、悪人とは必ず相手の言葉を否定するものだ…」
エビル「面白い持論だね。確かに。僕が君達の希望…信じる力を否定してあげるよ」
奈樹はエビルが話をしている隙に、エビル装甲兵の三体を警戒しながらマテリアを誘導しつつ、気を失っている蒼輝を引きずって芙蓉達の所へ運ぶ。
エビル「…さて、怪我人と怯え切った女は運び終わったようだし…そろそろ始めようか」
奈樹「…!」
エビルは気付いていた。知りながらも敢えて止めなかったのだ。それほどの余裕。圧倒的な力を持つという自信。
エビル「抵抗するなら皆殺しにするまで…どうせ僅かばかり距離を空けただけの、安全とも言えるかわからない所に運ぼうと同じことさ」
奈樹が立ち上がり、エビル装甲兵へ戦いの姿勢へと構える。勾玉もエビルに対して構える。
エビル「奈樹は頑丈だからな…半殺しくらいになら遊んでやってもいいぞ。やれ、お前達」
エビル装甲兵「ギャギャギャ…」
奈樹へ三体のエビル装甲兵が襲いかかる!
奈樹「スターファイア!」
急いで手を向けて炎を放つ! しかし吹き飛ばされただけで、エビル装甲兵にダメージは殆どない様子だった。
奈樹「な…なぜ…!?」
エビル「君の細胞とデータから咎力を分析した…それを利用して装甲兵達には君から受ける咎力のダメージを80%程カットするように改造した」
奈樹「…っ…!」
エビル「これで奈樹…君は戦うことすらままならない…嬲り殺しにされるだけだ」
エビル装甲兵が三体で何度も波状攻撃を仕掛けてくるが、奈樹は全て手でいなしつつ回避し続ける!
奈樹「速い…!」
三体の戦闘能力は見た目以上に高く、避けることで精一杯で反撃に出る暇もない。一体が奈樹の右足に飛びかかる! それを足を上げて避けた瞬間に、別のもう一体に軸足になっていた左足を刈られて奈樹は倒れてしまう!
奈樹「しまっ…!」
仰向けに倒れた時、顔面に三体目の爪が振り下ろされた!
エビル装甲兵「フギャギャーァ!」
間抜けな声を上げながら、エビル装甲兵達が吹き飛んでいった!
奈樹「…!?」
奈樹は飛び起きて体勢を立て直す。
エビル「お前は…」
危険な状態だった奈樹を救ったのは刹那だった。
刹那「奈樹様…大丈夫?」
奈樹「刹那…! 助かったわ…ありがとう」
エビル「…」
エビルは刹那を見ている。
勾玉「蛇炎」
エビル「!」
エビルに襲いかかる炎! 後ろに飛び下がり回避される。勾玉の両手に炎が宿る!
勾玉「双蛇炎」
両手の炎が二匹の蛇のように、うねりながらエビルに襲いかかる! しかし両方とも軽く躱される。
エビル「不意打ちかい? それだけ必死ってことなのかな?」
勾玉「不意打ち…? 笑わせるな。蒼輝を攻撃した時点でお前は臨戦態勢だったはずだ」
エビル「ハハッ、結構結構…僕の言った台詞をお返しかい? 随分と負けず嫌いなんだね」
エビルが勾玉に軽く構える。
刹那「奈樹様…! あっちへ!」
奈樹は少し迷ったが、刹那の言葉の意味を理解した。
奈樹「!」
奈樹が地面に手を置く! エビルが勾玉へ駆け寄る!
奈樹「ライトシールド!」
エビルが膝蹴りを放つが、勾玉の前に光の障壁が発生して攻撃を遮断する!
勾玉「!」
奈樹は素早くエビルの頭上にジャンプしている。手に咎力が集まる。
奈樹「トライサンダー!」
親指、人差し指、中指を立てると指から雷が発生し、エビルに襲いかかる! しかしエビルはそれを後ろに下がって回避したが、次に勾玉が放った炎が襲いかかる!
勾玉「双蛇炎!」
エビルは二重で襲い来る魔術の猛攻を全て避け、かなり距離を空けて持ち直す。服をパンパンッと叩く。
エビル「僕が近接戦をできないように二人掛かりでか…なるほど、考えたね」
奈樹「勾玉さん…! 協力します!」
勾玉「あぁ…二人で戦えば…」
エビル「それは叶わない」
奈樹「…え…!?」
ズザザザザザ!!
奈樹と勾玉の前を何かが飛んでいき、地を滑ってゆく!
奈樹「せ…」
前を通過した正体…地にうつ伏せで倒れているのはボロボロの刹那だった。身体中に切り傷や殴打された跡がある。
奈樹「刹那ッ!」
エビル装甲兵「ギャギャギャ!」
勾玉「刹那がこの短時間で倒されるだと…」
エビル「所詮は使い捨てられたE兵器…この程度さ」
背後に三体のエビル装甲兵。勾玉がエビルに、奈樹がエビル装甲兵の方を向き、勾玉と奈樹は背中を預け合う。
勾玉は奈樹一人でエビルと戦わせる訳にはいかないと思っていた。もし奈樹がエビルに倒された場合、芙蓉は後回しにして奈樹だけをイーバへ連れ帰るかも知れないと考えていたからだ。しかし奈樹の相手は、攻撃が通用しないエビル装甲兵。どう考えても分が悪い。
エビル「これで2対1では無くなった…。もっとも…一方は3対1になってしまったがね」
奈樹と勾玉は冷や汗を掻いた。二人を嘲笑うかのようにエビルはニヤリと笑った。エビル装甲兵三体が奈樹へ襲いかかる!
『確かに3対1だね。もっとも…一方は2対1のままだけどね』
エビル「!?」
どこからか聞こえた声と共に暴風が吹いた! その風でエビル装甲兵達が5メートルほど吹き飛ぶ! 地に落ちるとゴロゴロと転がって倒れる。
勾玉「ようやく来たか…」
奈樹「この風は…!」
奈樹の前に風が渦巻き、背を向けて風魔が姿を現した。
風魔「…面白そうなことしてるじゃん。コイツら俺に任せてよ」
風魔は余裕の笑みで、イーバ装甲兵を見た。奈樹は向きを変えて勾玉の隣に、エビルに向き直す。風魔はイーバ装甲兵三体と向き合った。
瞬く間に倒された刹那。逃げ場もなく見守るしかない芙蓉、桔梗、桜羅。エビルの威圧感で戦意を喪失しているマテリア。そして一撃で沈められた蒼輝…この状況でエビルと、その刺客を倒すことができるのか…。




