7-A -イーバへの潜入-
前回のあらすじ
今朝から蒼輝がいなかった理由は先日の奈樹の戦いを見て、自分が守ってやる必要なんてないんじゃないかと自信を失ったからだった。
その事態から、もう奈樹に蒼輝の過去を隠す必要は無いと感じ、勾玉と風魔はカノンというノスタルジアで女神と呼ばれるまでに至った奈樹と瓜二つだった少女について語った。
その話を聞いた奈樹は蒼輝の自信を取り戻すべく、カノンのお墓の前で二人は指きりをし、約束した。
断崖のカノンのお墓の前
蒼輝・奈樹「ゆーびきーりげーんまーん うーそつーいたら…」
蒼輝「……」
奈樹「嘘ついたら?」
蒼輝は考える。カノンはこの先、いつも割と適当に歌っていたからだ。
蒼輝「嘘ついたら…うーん」
奈樹「うーそつーいたら、蒼輝にもっと強くなってもーらう。指きった」
奈樹は指を離した。
蒼輝「おっ、おい」
奈樹は微笑んで言った。
奈樹「もし守れなかったら…もっと強くなって…また守ってもらう。一度や二度…ううん、何度失敗してもいい。守ってね、私のこと」
蒼輝「奈樹…あぁ…約束する。絶対守る。今度こそ…今度こそ守ってみせる」
蒼輝の見ている奈樹の顔がカノンの顔とも同化していた。奈樹の優しさに少し泣きそうだったが、ぐっと堪えた。
風魔「お熱いことですねぇー」
勾玉「少々、熱苦しいな…」
マテリア「な…奈樹…しばらく会わない内に大胆になったです…」
三人が歩いてくる。マテリアは顔を真っ赤にしている。それを見て蒼輝と奈樹の顔も赤くなった。
「なー」
微かに声が聞こえた。
「じゅー」
今度はその声はもっと近くなった。
「さーまー!」
ゴキッ。
刹那がもの凄い速度で奈樹の首に抱きついた! 勢いが良すぎて倒れる奈樹と刹那。
刹那「あぁ! 奈樹様! しっかりして!」
蒼輝「お、おい、奈樹!」
奈樹は刹那に抱きつかれ倒れたまま手で首を押さえ、意識朦朧としていた。しばらくして、奈樹の首は回復し、皆で輪を作るうように座る。
蒼輝「焦ったな…守るって言った傍から気絶寸前の状態になるとは思ってなかったぜ」
奈樹「まだ首が痛む…」
手で首をさすっている。
刹那「ごめんなさい! 速度の調整あまりできないの…」
奈樹「いいのよ、そんな謝らなくても…」
刹那を見て微笑む。
刹那「ワーイ! やっぱり奈樹様は優しい!」
今度は腕にしがみついて、甘える猫のように寄り添う。
風魔「君が刹那ちゃんか」
刹那「うん、そうだよお」
風魔「俺は風魔、よろしくね」
刹那「よろしくお願いします!」
刹那は奈樹にくっついたまま、ニコニコしながら言った。
マテリア「姿が見えないと思っていたら…どこへ行ってたですか?」
刹那「うーんとね…。島全部見て回って掘鎧を探してたの…」
蒼輝「アイツか…けどアイツは刹那を殺そうとして…」
刹那「掘鎧…飛んでいかなかったの…」
刹那は少し下を向き、悲しげに言った。
蒼輝「飛んで?」
奈樹「E兵器は生命維持できなくなったら、粒子化してイーバへ飛んでいく」
蒼輝「あぁそうか、ってことは飛んで行ってないってことは…」
勾玉「奴はまだ生きているということか…」
その言葉に一部の者は息を呑んだ。どこからか自分達の命を狙って、息を潜めているのかも知れないと、脳裏を過ったからだ。
風魔「案外、粒子化する前に死んじゃったのかもね。そうなったら飛ばないでしょ。多分」
刹那「島は全部見渡したけど居なかった…どうなったのかわからない…」
奈樹「やっぱり…仲間だったから…寂しい?」
刹那は奈樹の顔を見て、首を大きくブンブンと横に振った。
刹那「ううん! 寂しくないよ! 刹那には奈樹様がいるもん!」
蒼輝「いつの間に奈樹『様』になったんだ?」
奈樹「さぁ…」
疑問に思う表情で顔を合わせる蒼輝と奈樹だった。
風魔「女神様って呼んじゃいなよ」
風魔は茶化すように言った。
奈樹「ややこしくなるからダメですっ!」
奈樹は恥ずかしそうに言った。事情を知らない刹那以外が笑った。
蒼輝「しっかし、イーバからの刺客がここから先も増えるのかねぇ」
マテリア「不安です…。私…弱いから…」
マテリアは少し震える。
風魔「逆にこっちから攻めちゃう?」
普通じゃ有り得ないことをサラっと言う風魔だった。
勾玉「仮にやろうとしても、イーバへ侵入する手段が無いな」
刹那「あるよ?」
全員が刹那を見た。刹那はキョトンとしている。
奈樹「どうやって?」
刹那「刹那と掘鎧が来た装置だよお。イーバとの転送装置で、行ったり来たりを一回ずつできるの」
勾玉「ノスタルジアへ降りるために一回使用した。そして任務が終えたら帰るために一回か…」
蒼輝「じゃあ本気でイーバに侵入できるってことじゃねーか! あっ、けどそうなると帰れないか」
風魔「脱出用ポッド使えば帰れるよ。あれ、落下地点も設定できるから」
マテリア「あれ…? 本気で侵入する方向で話進んでるです…?」
奈樹「……」
奈樹は半ば決意していた。イーバとの決着…そのチャンス。
刹那「イーバへ行くなら刹那も行く! 掘鎧が…いるかも知れない…確認したいの!」
勾玉「しかし建物の構造や部屋割りがわからない以上、見つからないように潜入したところで…」
マテリア「知ってるです」
今度は全員がマテリアを見た。
マテリア「戦闘能力の低く、ただの人間だった私は自由にイーバの中を歩けたです。それで…毎日イーバの中は歩いていたから、どういう作りだったか全部覚えてるです」
風魔「じゃあ地図、書いてもらわなきゃね。けどイーバの戦力的に全滅させることはできないだろうね」
奈樹「けど…このままじゃどんどん刺客が送られてくるかもしれない…」
蒼輝「刹那…みたいな子がいれば…」
刹那「え?」
蒼輝「E兵器…幹部に仕える者であっても、刹那みたいに俺達と解り合えるような存在がまだまだいるかもしれないだろ? それを仲間に引き入れて…」
勾玉「…どうやって仲間にできそうな者を判別する気だ?」
蒼輝「片っ端から…こう…勧誘というか…」
この策は使えないと判断した風魔が提案した。
風魔「俺達が脱出するためのポッド以外、ポッドと転送装置を全部壊してやろうよ」
奈樹「それなら次の刺客を送るまで、かなりの時間を要する…」
勾玉「その間に、こちらもイーバへの対抗策を整えるということも可能か…」
蒼輝「イーバへ潜入する目的は、刹那の相棒である掘鎧がどうなったかを確認、ポッドと転送装置の破壊、それと俺達の仲間になるかの勧誘だな!」
奈樹「最後…諦めてなかったんだ…」
勾玉「最後は気にしないでおこう。ただでさえ危険な賭けだ。無闇に行動すればリスクを増やしかねない」
風魔「じゃあ、マテリアちゃんの地図が完成してルート確認したら即出発で」
マテリア「すっ、すぐですか!?」
風魔「善は急げって言うからね。こんな千歳一隅のチャンスのような夢物語、滅多にないよ?」
マテリアの地図作成、そしてルート確認を行うため、ホームへ向かうことになった。皆が先に行く中で奈樹は一人、カノンのお墓へ向き直った。
奈樹「カノンさん…ありがとうございました」
ゆっくりと頭を下げ、そして少しお墓を見つめた後、皆の後を追った。




