第一話 知らない世界
「ーーーーーーーーー」
何かが聞こえる。転生は成功したのか?魔滅からは逃げられたのか?何も見えない。どういうことだ?
「ーーーーーー」
そんな俺の考えを無視して、何かを喋り続けている。
「ーーーーーーーー」
ようやく視界が開けた。ここはどこなのか、誰に転生したのか。それを知る必要がある。
ただ、あれだな。巨人たちに囲まれているようだ。踏み潰されなければいいのだが。
「ーーーーーーーーーー」
というか、これは何語なんだ?全然聞き馴染みがない。とにかく、コミュニケーションを取らなければ。
「あぅい。あうお、えうー。」
そんな、声にならない声が出た。というか、体の融通が聞かない。どういう状態だ?まさか、転生先が良くなかったか?クソ、とことん運がないようだ。
「ーーーーーーー」
ただ、巨人たちは優しいな。俺を赤子のように優しく愛でてくれる。というか、珍しいな。黒髪しかいない。黒髪が珍しいというか、金髪や赤髪がいないのが珍しい。
「ーーーーーー」
ただ、なんというか。この女の巨人、雰囲気がなんかエロい。けど何故だろうか。全くもって性欲が湧かない。むしろそう思おうとすると嫌な気持ちになる。
男の巨人が俺を抱いている。優しくしてくれるのはありがたいんだが、女の方が嬉しいな。出来ればエロ巨人よりあの白い服を着た巨人の方が嬉しい。
「ーーー」
そんな邪な考えを浮かべるほど、落ち着いている。男の巨人の腕の中に眠る中、ふとガラスが目に入った。
そのガラスには、男の巨人、そして、その巨人の腕の中にいる、可愛らしい赤子が映っていた。
ーーーーーーーーー
転生して3ヶ月がたった。どうやら俺は赤子に転生したようだ。予想からは外れたが、赤子のうちから魔法を極められるのはいい事だ。死ぬ直前のジジババと比べたら、マシどころか神物件だな。
そして、これは憶測だが、恐らく俺が元いた世界とは違う。元いた世界では見たことがないものを見た。何かしらの映像を映す平たい板、物を冷やす棚。物を温める器具。
魔法で実現可能だとは思うのだが、そんなものは見たことがない。
魔法を日常生活に使うというのは、魔法暦の時代にもやっていたそうだが、ここまで応用するのは聞いたことがない。どんな技術を使っているのだろう、まあ、魔法には勝らないだろうがな。
「ーーーーーーー」
「ーーーーー」
それに、言語に聞き馴染みが無さすぎる。俺の知識不足の可能性もあるが、気持ちが悪い、そう思う発音だ。
だが、あの世界ではないということは、魔滅がいないということ。存分に魔法を使えるということ。とてもいいじゃないか。
ただ、魔滅のような奴らがいなければいいのだが。
ーーーーーーーーー
転生して1年がたった。俺はハイハイの期間を乗り越え、ついに二足歩行ができるようになった。大きな進歩である。
それに加え、言葉がわかるようになってきた。発音に気持ち悪さを感じなくなってきたし、何をして欲しいのかを理解できるようになってきた。
「フウマ。ママだよ、ママ〜。」
「フウマ、パパだよ、パーパ。」
ママ、パパ、そう言って欲しいのだろう。しょうがない、言ってやろう。
「うぁ、あぅーあ。」
残念。失敗だ。
言うのを忘れていたが、俺の名前はクロキフウマと言うらしい。どう書くのかは知らない。
それにしても、二足歩行は難しい。当たり前にできていたのが不思議に思うほどに。だが、慣れてきたぞ。一歩づつ慎重にいけば、転ばずにこうやっ――
バタン
「キャッ!あなた!フウマが転んだ!」
「大丈夫だって。心配しすぎだ。怪我もしてない。」
「ちょっとあなた!流石に心配しなさすぎじゃない!」
二足歩行の実演をしていたら転んでしまったな。それより喧嘩しないでくれ。
というか、心配しているのなら治癒系統1級魔法でも使ってくれればいいのに。
もしや、治癒魔法がこの世界ではないのか?前の世界の魔法を使えるかはまだ不明だ。治癒魔法が困難となれば、魔法実験が難しくなってしまうではないか。それとも魔滅のような連中がいるとか?
ああ。不安が募る。魔法がないというのは。
魔法のことを考えていると、何歳頃から魔法を使い始めれば良いのかを考えてしまう。赤ん坊の頃に魔法を使うと、魔力中毒になると言われている。できるだけ慎重にしておきたい。
早く魔法を使いたいな。けど、自分の身体だ。3歳頃にしておこう。魔法を使うのは。
それまで、赤ん坊生活を楽しむぞ!
ーーーーーーー
「まま」
なに!?今俺は、「ママ」と言えたのか!ついに喋れたぞ!
「まま、まま まま」
言いたい放題だ!喋れるというのがこんなに嬉しいとは。
「フウマ?今ママって言ったの!あなたー!フウマがママって言った!」
「本当か!」
遠くからドタドタと走ってくる音が聞こえる。
「マーマ、マーマ。言ってみろ!」
フフ、フフフフフ。よく聞け!俺の「ママ」を!
「まーま」
「! すごい、言った。言ったぞ!」
そうだろうすごいだろうかわいいだろう!
「次はパパって言ってみて、パーパ、パーパ」
フフフフフフ。そんなの朝飯前だ。耳に残せ!俺の初「パパ」を!
「ぷぅあ、ぷぇ」
「・・・」
「まあまあ、惜しかったわよ。フフ。」
練習中だったから仕方ない。パパは少々高難易度すぎたのだ。次に期待ということだ。
ーーーーーーーーー
「「ハッピバースデートゥーユー。おめでとう!フウマ!」」
「フーー!」
祝、3歳の誕生日だ。今回は今までと違って、ケーキが食べられる!2歳の頃、小さいショートケーキを一口しか食べられなかったのが、こんなにも!ああ、幸せだ。
「お母さん、お父さん、ありがとう!」
言葉も喋れるようになってきた。少し呂律に不安があるが、こんなに喋れる3歳児はいないんじゃないか?フフ、少々天狗になっているようだな。
というか、なぜだ?こんなにも私は子供っぽかっただろうか?もしや思考が今の身体と同じになっているのか?幼児退行、と言うやつだろうか。
不完全な転生魔法だ。デメリットがあって当然だ。まあ、今の思考のまま子供になっていたら恥ずかしくて仕方がなかったしな。ラッキーだ。
誕生日会が終わった。楽しかったが、新たな楽しみがあとひとつ。今日は!魔法を試す日だ!
魔法禁止生活が1000日も続いているのに、魔法を使うというのはどれほど気持ちがいいのだろう!やはり最初に使うのは・・・。スタンダートに、火魔法だ!
今お母さんは食器を洗って、お父さんは洗濯物を干している。
風呂場が1番いいだろう。音も比較的隠せるし、火も消せる。足音を立てずに風呂場へ向かうのだ。1人で行動しているのがバレたら。お父さんの胸の中へダイブだ。
ようやく魔法を使えるというのに、お預けはキツすぎる。
スっと、台所の横を通り抜ける。気配を消すのだ。慌てるな。お父さんは2階のベランダだ。気にする必要は無い。
俺はスムーズに風呂場に到着した。
だが、想定外なことがひとつあった。風呂へのドアが空いている。
俺の身長ではドアの取っ手まで手が届かないので、何かで足場を作る予定だったが、嬉しい誤算だ。
風呂場に着いた。
早速魔法を使ってみようか。
ゆっくりと詠唱しろ。できるだけ、魔力を使わないように、詠唱を短く。
「燃えろ、炎系統1級魔術」
何も起こらない。
魔法が失敗した。そう思った。そうであって欲しかった。
だが、わかった。少し考えて、わかった。
手に魔力が集まらなかった。少しも、魔力を感じなかった。
この世界には魔力がない。
いやそんなはずはない。魔力がないなんて。そんなはずが。
もっと魔力を貯めろ。きっと失敗しただけなんだ。詠唱を長く、確実に。
「魔力よ、その力を信ずる。燃える力を、我クロキフウマに宿したまえ。炎系統1級魔術」
失敗した。
「魔力よ、その力を信ずる。燃える力を、我クロキフウマに宿したまえ。炎系統1級魔術」
違う。そんなわけが無い。使えないわけが。けど魔力を感じなかった。
いや、きっとこうだ。この世界では魔法の使い方が違って、詠唱とかじゃなくて、もっと違う方法でやるんだろ―――
「ちょっとフウマ?何言ってるの?」
「え、いやその。」
「そんなことしてないで、早く寝なさい。良い子は寝る時間よ。」
お母さんに見つかってしまった。
そうだ。また今度、お母さんに魔法について聞いてみよう!そうしたら、魔法をまた使えるはずだ。
そう思って寝床についた。どんなふうに魔法について聞くか。そんなことを思案していたその時、瞼を閉じようとすると、遠くから声が聞こえた。
「あなた。フウマがなんか魔法?みたいなの唱えてたんだけど。」
やっぱり!魔法はこの世界にある!きっと詠唱を間違えたんだ。もっと他の方法があるんだ!
「どこでそんなの知ったのかしら。そんなのないのに。」
それを聞いた瞬間、確信した。
俺がさっきまで考えていた、甘い現実。そんなものではなくて、魔法なんかこの世界になくて、俺が抱いた夢は、魔法を極める夢は、どこか遠くへ消えてしまったことを。




