第32話 エピローグ
「あのぅ、魔物退治を請け負ってくれる何でも屋ってここですか?」
「ああ、ここだとも! 依頼だな?」
軽快なドアベルの音と共に扉の向こうからそんなやりとりが聞こえてきた。久しぶりの客人だからか、受け入れる声がなんだか一等喧しい。
隣室でだらりと酒を飲みながら、これから始まるであろう話に耳をそばだてた。最近は酒の味を楽しめるようになってきたもんで、暇になるとついつい手を伸ばしてしまう。どうせ客なんて来ないだろうと高を括っていたのもいけない。
「僕の住んでいる村の近くで魔物の目撃情報があって、」
「ふむふむ。詳しく話してくれ」
入ってきた時はあんなに不安そうにしていた客だが、一言二言アドヴェンと会話を重ねる間にすぐに落ち着きを取り戻した。本当に第一印象の良い男だ。俺よりよっぽど客商売に向いている。……見た目だけは。
客との短いやりとりの末、「少し待っていてくれ」とアドヴェンが言った。ガタンと椅子を立つ音、歩く音に続いて部屋のドアが開き、また閉まる。
「客が来たぞ、ハイド!」
「そうだな」
「魔物退治の依頼だ。クラウクウィッチ? のサルターン? に魔物が出てブライン? がどうとか」
「クラウクウィッチか。遠いな」
「クラウクウィッチってなんだ? サルターンは? ブラインも分からない」
「あー……ここから東に行ったところにあるクラウクウィッチって町に魔物が出たせいで製塩が出来なくて困っています、って言ってる」
なるほどな! と頷くこの男の知識にはまぁまぁどころではない偏りがあるが、どうも今回に限っては客の方にもありそうだ。
随分酒を飲んでしまったが、俺が出ていくべきだろうか。顔を触って赤みの程度を確かめていると、アドヴェンがじっと俺を見ていることに気がついた。
「……どうした?」
「いや、やっぱりハイドがいないと駄目だなぁと思ってな。そろそろ頼らずともやっていけるようになりたいんだが、難しい」
なんだそんなことか。俺にとっては些細な彼の悩みに拍子抜けして、無意識に手元の酒を煽った。……客前に出るか悩んでいたのに、また飲んでしまった。
「別に頼るくらいいいだろ」
「そうだろうか。ハイドを困らせてはいないか?」
「困ってない」
むしろ勝手に独り立ちされるほうが困る。俺だってお前に頼ってるんだからな、現に今この瞬間も。
「お前は一方的に俺に頼っていると思っているのかもしれないが、それは違う」
「……つまり?」
「巣立ちの時なんてものはないんだ」
いまいち良く分かっていない様子のアドヴェンについつい笑ってしまった。
つまり、俺とお前は対等の関係だ、ってことだ。
「俺はお前の保護者じゃない」
酔いどれ勇者は人でなしの保護者ではない 完
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お仕事もの、コメディな新作の投稿を始めました。本作とは大きくテイストが異なりますが、こちらもよろしくお願いいたします!
『紋章魔術士リジーは全てを燃やして解決したい 〜そのお悩み事、可燃です〜』




