046.
艦橋に遅れて、リーチェがやってきた。
リーチェの髪は乱れ、疲れ果てている。民間人がレイディアントに殺到するところをリーチェは人垣の一部となって防いでいたのである。
「リーチェ少尉、ご苦労さま。大丈夫かい?」
「は、はいっ。レイディアント大尉のためなら、私は何だってできますから。」
リーチェは、胸が大きいため、肩が凝りやすい。
かなりの重労働だったらしく、肩が下がってしまっていた。
「とりあえず、リーチェ少尉もお疲れ様。よく、ファルコン傭兵団を防いでくれた。」
「あの連中、本当に行儀が悪かったです。レイディアント大尉が、ロジャーを撃破した知らせを聞いても、大爆笑するだけで、動揺すらせずに戦い続けてきたんですよ?」
「ロジャーを撃退しただけで、撃墜できなかったからな。あの男がしぶといことを知っているのだろう。直前で致命傷を避けるのは、さすがとしか言えなかった。」
「次に戦場で出会ったら、ボッコボコにしてやります!」
「その意気だ。」
リーチェは、両手でファルコン傭兵団をサンドバッグのように叩くイメージでパンチをする。胸が、揺れに揺れ、レイディアントもセレスティアも、リーチェは大変だなぁと思うしかなかった。
そんなリーチェの胸を、変態科学者エリシアは鷲掴みにした。
「きゃぁぁぁあ!」
「邪魔っ。」
エリシアは、ふざけたわけではなく、本気でモニターを見て操作をしていた。そのモニターには、新型魔導機アリエスの金狼形態が表示されており、少しでも早く新型魔導機アリエスに起きた出来事を分析したいという強い想いが感じられた。
そして、すぐにエリシアはデータ分析を終えると、奇妙な行動に出た。モニターに頬を擦り付け、恍惚の笑みを浮かべたのである。
「魔力増幅率、六翼制御、外装再生、身体形態変化、伝導衣再構成……ああ、信じられない。現代の科学を遥かに超えてるわ。尊い、貴すぎる。ってか美しすぎる。生きてて良かったー。ここ、本当に最高の職場よね?」
沈黙。
セレスティアは、そっとレイディアントに尋ねる。
「レイディアント様。科学者というのは、みんなこんな感じなのですか?」
「いいえ。彼女は、懲役900年の服役中の変態科学者なんです。かなり特殊な部類でしょう。」
エリシアは、幸せ絶頂で、恍惚の笑みを浮かべなから端末へ頬ずりしている。
「萌え萌え〜、金狼萌え〜、最高〜」
「この方から、新型魔導機アリエスが誕生したとは思えません…。」
「まぁ、天才と何とかは紙一重と言いますから。」
端末に頬ずりしているエリシアを見て、レイディアントとセレスティアは、微妙な目で見るしかなかった。
一方、共和国軍でも、帰艦したアレクシスも、レイディアントと同様に疲れ果てる事態となっていた。
「あの方が、銀獅子アレクシス・アークライト様よ!」
「きゃぁぁぁぁ!」
「生アレクシス様よ!」
「アレ✕レイのアレクシス様?」
「違うわ!レイ✕アレのアレクシス様よ!」
「馬鹿いいなさい!」
「アレ✕リュのアレクシス様よ!」
「ぶはっ。尊い…。尊すぎる…。」
アレクシスが新型魔導機レオから降りると待っていたのは、王国の民間人の黄色い悲鳴である。何故か、その中に共和国軍人の女性も入っており、何かの暗号のような言葉を発しているのだが、アレクシスを含む男性陣には何が何だか、全く理解できない。
「ご無事で何よりです。」
「きゃぁぁぁ!生アレ✕リュよ!」
「これは、何なのだ?」
「それが、僕にも分かりかねます。何なのでしょうか?」
王国民と共和国軍人が、共に鼻血を出しながら、叫んでおり、アレクシスとリュカは戸惑うしかない。
そこに、ファルコン傭兵団のメルルがやってきた。メルルは、アレクシスやリュカに挨拶することもせず、王国人と共和国軍人の前に立つ。
アレクシスとリュカは、ファルコン傭兵団のメルルが何かよからぬことをするかもしれないと思わず警戒したが、メルルは別の意味で予期せぬことをする。
「ふふふっ。ロジャ✕アレの姿がもうすぐ見れるわよ。」
「ぶほっ。」
「ま、まじですの!?」
「き、きたわ!」
「まさに、野性味!」
やってきたのは、ファルコン傭兵団の団長であるロジャーである。
「おい、何だあれは!同じ新型魔導機ではないのか!」
ロジャーがアレクシスの胸倉を掴む。
周りの女性達が鼻血を出して倒れる。
「私に分かるわけなかろう。文字通り、新型だったということだ。」
「俺様を差し置いて、貴様だけというのが許せねぇんだよ。」
「許せないと、何をするんだろう。」
「きっと、このあと始まるのよ。」
「そ、創作意欲が捗るわ。」
「俺様と私。もしかして、あの子は僕!」
「何冊もいけるわ。」
アレクシスとロジャーは、何だか変な視線に気まづくなってしまう。
「べ、別室で話そうか。」
「そ、そうだな。」
「きやぁぁぁ、やっぱりそうなんだわ。」
「何が始まるのかしら。」
「何って、何でしょ。」
「何がなの。何が始まるの!?」
メルルが、アレクシスとリュカとロジャーの元にやってくる。
「有能な私は、別室を用意しております。どうぞ、お気のゆくままに。」
「お、おぉ。いくぞ、アレクシス。俺様に着いてこい。」
「私に指図するな。」
「有能な副官は、僕だぞ!」
戦後である。
多くの王国民間人が、ガルガンチュア要塞を失ったことにより、精神的ストレスで体調を崩す事態となった。だが、最も体調を崩したのは、アレクシスとロジャーとリュカのいる戦艦が多かった。それだけ、一流の魔導操縦士から溢れる雰囲気は、戦争を知らない民間人にとって、心を削られると誤解されることになる。民間人は、もともと女性が多く、体調の崩し方が鼻血を垂らし幸せそうにして倒れるという奇妙な症状だったとか。
ギルベルト元帥は共和国軍の帰艦の艦橋で、共和国と王国の宙域図を眺めていた。
ギルベルトにとって、ガルガンチュア要塞奪取は失敗に終わった。だが、視点を変えれば、ガルガンチュア要塞の奪取には成功したのだ。その後に、要塞自爆を防げなかったとはいえ、多くの共和国を葬ってきたガルガンチュア要塞を奪取し、結果として、王国軍からガルガンチュア要塞を無くすことができたのである。
(その線でいくか…。)
ギルベルト元帥は、ただの軍人ではない。
いつか、そのことを強く分かる日がくるのだが、この時点においても軍人ではない視点で物事を捉えることができていた。
ギルベルトは戦略の天才である。
最大の戦略目標は果たせなかったとはいえ、戦略目標事態は達成していたのである。そして、次にギルベルトは、今後の戦略に悩んでいた。
(今までは、ガルガンチュア要塞のみ監視すれば、王国軍の動向は分かった。だか、今はガルガンチュア要塞を拠点とできない。後方から共和国を攻める必要がある。これは…、可能かもしれないな。)
ギルベルト元帥は、ガルガンチュア要塞を手に入れることができなかった。だからこそ、ギルベルト元帥の壮大な計画による巨大な罠を仕掛けることが可能になる。しかし、いくら巨大な罠をしかけたとしても、そもそもで罠にかかるためには王国軍の大規模侵攻が必要となる。ギルベルト元帥は、新たな戦略を練り始めるのだった。
王国軍と共和国軍の双方が撤退していくなかで、レイディアントとアレクシスは次の戦いが起こらなければ良いことを願うが叶わない。リーチェとロジャーは次の復讐戦に燃え、王国軍の将官とギルベルトは次の戦いが起こるよう画策する。互いの軍に、平和を願うよりも、戦うことを望む者が多い限り、平和など訪れないのである。
レイディアントに通信が入る。
通信相手は、イェーガー大尉であった。
「不死身のイェーガーです。魔導操縦士としてのレイディアント大尉の活躍に感激しました。ぜひ、帰国後にイェーガー隊と模擬訓練をお願いします。」
「模擬訓練ですか?」
「これからは、新型魔導機の時代になると痛感しました。ならば、新型魔導機を現行魔導機で止める必要があります。ぜひ、護国のために、協力をお願いします。」
「承知しました。何なら、リーチェ少尉が体力が有り余っているので、まずはシミュレーションで訓練を始めましょうか。エリシア、シミュレーションのセッティングを。」
「はい?私は、便利屋じゃないんですけど?」
「私のデータ、今すぐ消しますよ?」
「OK。タウロスのシミュレーション用データね。3分で作るわ。」
エリシアは、新型魔導機アリエスの金狼形態では映像通信できないよう設定した。だが
しっかりと内部保存はしており、エリシアはレイディアントの美女姿に、デレデレしていたのである。今までで一番、壊れたように見えたのは、レイディアントの姿に、惚れていたからである。
変態科学者エリシアは、その有能さゆえに、シミュレーション用として新型魔導機タウロス、さらには新型魔導機レオ、ジェミニ、キャンサーを作り出した。あくまでも、シミュレーションであるため、本物とは違うものの、体感するには充分のデータであった。
不死身のイェーガー率いるイェーガー隊と、リーチェは、シミュレーションで共闘したり戦ったりしながら、次の戦に備えるのだった。
レイディアントも、もう戦はなくなればいいと思いながらも、次の戦に備えるため、魔力を精錬するために自室に籠もる。金狼形態で強制的に変化させられた姿の状態は、まさにレイディアントの全力を出せる姿であり、その状態の自身に追いつこうと修練に励むのだった。
王国軍と共和国軍は、それぞれ帰路へと着く。
その姿は、互いに勝者の姿ではない。どちらかといえば、敗者に近い姿なのかもしれない。
王国軍が誇る難攻不落のガルガンチュア要塞の消滅は、王国軍対共和国軍を新たな局面へといざなうことになる。もし、レイディアントが高い地位にいたならば、この戦いをきっかけに和平を結び、わずかかもしれないものの平和を謳歌していただろう。
だが、この時のレイディアントは、まだ大尉である。さらには、男爵の地位であるため、軍務でも貴族内でも発言権は低い。
レイディアントは、平和を望みながらも、心の何処かで戦争は続くと理解していた。だからこそ、レイディアント自身を磨く。次の戦いに備え、もっと上手く戦えるように、仲間の命を危険に晒されないように、磨き続ける。
ストイックなレイディアントの部下であるリーチェと、仲間であるイェーガー隊も、レイディアントに感化され、ひたすら磨き続ける。
そんなレイディアントを王国の民間人は英雄として感じるようになり、顔も実力もあるレイディアントは、王国の民間人にとって、英雄視される存在へとなっていく。
そのことが、別の軋轢を生み、共和国軍ではなく味方である王国軍から命を狙われることになるのだが、あまりにも稚拙な王国軍は、いや、王国はあり得ない行動へと進み続けていく。
この時のレイディアントは、まさかレイディアント自身への暗殺計画が持ち上がることなど、思いもしなかった。
何はともあれ、銀河からガルガンチュア要塞は失われたのだった。




