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優等生


「ごめん、お待たせ。」


それほど待ってはいない俺の方に向き直った蓬莱さんが言うことには、既にテストは始まっている。そして自分はこれ以上は留めておくから、ノゼさんのアドバイスを受けながら観測結果を出して欲しいとお願いされた。言い方が少し引っ掛かる。お願いであって任務とやらではないということか。俺はまだバイトに決まっていないから…。

声に反応して振り返った六堂は、蓬莱さんが話を始めたことに気付いているはずなのに動こうとしない。小羽田さんもそれを指摘するつもりはないようだ。分かりきっている事だから聞く必要がないとしても、やっぱり引っ掛かる。わざわざ呼ばれたくらいだからアイツに関係のない話なわけがない。ちゃんと聞いとけよと思う反面、本来こういう性格なのかなとも思う。知ったからには考え方も変わってくるというものだ。

学校では六堂が蓬莱さんの様に纏める役だったのだから理不尽だ。その苦労を知っているのだから自分はちゃんとやったらいいやろ。

 …コイツ本当に優等生やれてたのか…?

知る程に、考える程に乖離してゆく。点数稼ぎや演技が上手いだけでは説明がつかないように感じる。そして一つの疑いが頭に浮かんできた。

 教師陣に気に入られてただけじゃねぇの…?

 …お家柄がよろしいとか…。

自分が他人に興味が無いとは思わない。なんとなく近付き難いタイプだと思っていただけなのだが、考えが変わった。頭の切れる悪い奴の纏う嫌な空気が、今は見えるような気がする。


「fsに関係する能力で大事なのは、

 よく考えて使う事が可能か。その技術と裁量。

 今回二人でやる理由を平たく言うと、

 お互いが邪魔し合うことが無いかの確認です。」


相変わらず分かりやすい言葉なのに意味を掴みきれない蓬莱さんの説明をノゼさんが引き継いだ。


「今も影響は出てるんだけど今のところ微弱です。

 神様に近い形に成っているモノに、

 こんな風に実験的に近付く機会は殆ど無いから、

 指示には従って下さい。」


班長と言うから六堂と同じ立場なのかと思ったら、ノゼさんも指導する側の人だったようだ。俺はまだバイト経験が無いけれど、漫画なんかでよく見る"チーフ"みたいな役職と思えばいいのかな。


「…松尾と組むんですか?本当に。」


ノコノコと遅れてやって来た六堂が廊下から質問を投げかけてきた。


「蓬莱さんからはそう聞いてますけど、

 決定ではないんですよね。」


「そう。まだ分からない。

 けどこの機会を逃すのは惜しいから、

 最大限得られるものは貰っておく。

 動かさないでそれをするのが難しいのよ。

 知り合いが近くに居るのも奇跡なんだから。」


「やっぱり私離れますか?」


「それはない。能勢さん。

 寮生が技能者に限られる理由知ってるよね?」


「…無自覚な操作の影響を少なくする為。」


「うん。最初はその通りなんだけど、

 貴方達はある程度自律制御出来るでしょ?

 技能者は影響し合って暴走を抑制するから。」


「そうでした。」


「今貴方はその為に居る意味の方が大きいの。

 私に頼らないならそれくらいやらないと。」


「…わかりました。」


ノゼさんは真剣な表情で頷いた。聞いている分にはカッコいいやり取りだが残念ながら俺にはフワッとした感じでしか理解出来ず、なんだか申し訳ない。なんとなく想像する技能者は超能力的な異能を扱う漫画から拝借したイメージだ。多分そんな感じじゃねぇの?くらいのもの。そもそもテスト?に必要な条件も要素も知らないのだから意見のしようもないし、技能者とかいう人達が具体的に何をする能力者なのかもまだ良く解っていないのだ。


「どちらかというと、この場所と松尾君について、

 あらゆる条件でデータを集めるのが優先。

 付き合わせて悪いけど六堂君、

 貴方は貴方で結果は残る。

 ダシにされてるわけじゃないから安心して。」


「わかりますよ。それくらい。」


 !!

 ……あ〜…大人向けにも態度デカいのか…。

 そういや、小羽田さんにも結構失礼だったな…。

わかってきた。俺も同い年には大概失礼な奴なのだ。

二人で行動する事になるのかもしれないと聞いて六堂を細かく観察した結果、本当に他人は自分の考えを映す鏡でしかないのかもなと気付いて勉強になった。

俺は頭の切れる悪い奴ではない筈だけど、どうやら自分を使ってきた人間を高い位置に持っていき過ぎていて、そんな立場に居る奴は聖人か悪人かでしかないという極端な思い込みが発生していた。それが原因で正しい筋の読み間違えを引き起こしたと思われる。現実にも読解力は必要だ。そして俺は大前提を読み間違えていたのだ。

六堂は大人だろうが子供だろうが区別していない。大人のやたら強い環境に居る俺とは違うのだ。だとすれば教師陣に好かれるのは単純に使いやすいとか、精神的に理想的な学生だとか、そんな理由だろう。勿論、演技も点数稼ぎもあるだろうけれど、コイツはもっとドライなのだ。恐らくそんなのは教師と生徒なのだから当然という精神だ。子供の役を押し付けられている俺とは違う。フラットに世界を想像し構築することが出来る。自分の置かれた環境に他人も居るとは限らないし見えている世界は同じではない。俺に対して馬鹿にした態度をとる理由もだいたい理解した。その前提ならば、コイツから見た俺は甘えたガキだ。そうなるだろう。向こうも此方の実情など知るわけもないのだから。

…俺だって好きでやってるわけじゃないんだが、多分そういうことだと思う。つまり人間の社会は、そういう風に回っている。六堂の住む世界では。

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