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ドロップ救済用レアモンスター、レインボースライーム

 アーパネイとのやりとりが一段落したタイミングで、虚空に展開中だった鈍銀色に輝くレアモンスターのエンカウントエフェクトがとある形を象り始めた。

 こちらの態勢が整うまで空気を読んでくれたかの様な。


 果たして、象られ現れたモンスターは俺が期待した通りのドロップ救済用レアモンスターだった。

 虹色をした、水滴の一粒を模した外見のぷるんぷるんと揺れるモンスターである。

 はっきりと言おう。

 造形は国民的と言っても過言では無いとあるゲームに登場するモンスターのパクリだ。

 それをいかにもレアっぽく虹色に染めて設定しただけである。


 その名は、レインボースライーム。


 ちらちらと俺を見やるアーパネイ。

 現れたレインボースライームが予定していたレアモンスターで正しいのか、視線を用いて確認を求めているのだろう。

 一つ腹を割った事で俺とアーパネイは目と目で通じ合おう関係への階段を上り始めた予感。


「将雅さん、そろそろお昼にしませんか?」


「何でこのタイミングだよっっっ!!! 目の前にモンスターがいるだろうがっっっ!!!」


 駄目だ。

 このポンコツと目と目で通じ合うなんて不可能だ。

 上り始めたと思えた階段は砂で出来ていた。


「腹が減っては戦は出来ぬ、て言うじゃないですか」


「それは戦の前に言え! 今は戦の真っ最中だからなっっっ!!!」


 戦相手であるレインボースライームを指差す。

 指を差されたレインボースライームはきょとんとした様にぷるりと一つ身震いを見せた。


「じゃあ、アレを片付けたらお昼にします?」


「片付けたら、とかちょっと言い方が怖いな、お前さんは。……まあ、時間的にもいい感じだし、落ち着いたら女将さんが持たせてくれた弁当を頂くとしようか」


 今朝、宿を発つ際に女将さんは弁当として握り飯と卵焼きとを一包にして持たせてくれたのだ。

 大きな袋の中では時間が経過しないので腐る事無くいつでも美味しく頂ける。

 何たるチートなアイテムであるか。


「普通に攻撃しても大丈夫なんですか? アレ」


 手にしたトゲトゲハンマーでレインボスライームを指し示すアーパネイ」


「アレの名前はレインボースライーム。倒すと望みのドロップアイテムを残すドロップ救済用のレアモンスターだ。特徴として、魔法防御力が滅法高い反面、物理防御力は薄紙一枚程度でHPも一桁しか無い設定をしてある。お前さんがそいつで攻撃したならかすっただけでもオーバーキルになるだろうな」


「わかりました。……じゃあ、ちょっと潰して来ますね」


 にぱ、と笑みを浮かべながら物騒な事を宣うアーパネイ。

 そのまま踵を返すとレインボースライームに向けて駆け出した。


「やっはあああああああっっっ!!! 〈グラビティハンマー〉!!!」


 アーパネイは裂帛の如し雄叫びを轟かせながら大地を踏み切ると、トゲトゲハンマーを振りかぶりながら宙に身を躍らせた。


 〈グラビティハンマー〉

 ハンマーに分類される武器種を用いた際に使用が可能となる物理系攻撃スキルで、物理攻撃力に一五〇%の補正が施される。

 スキルモーションは跳躍攻撃をイメージして設定した。

 なるほど、設定のままにアーパネイは中空に身を躍らせている。

 

 まったく、かすらせるだけでもオーバーキルだって言ったのに。

 凄惨な結末を予想し、レインボースライームに同情しかけた――のだが。


「――――――っっっ!!!???」


 〈グラビティハンマー〉によって上昇補正がなされているアーパネイの攻撃を、ギィィィンッ、と金属質の甲高い音を響かせながらレインボースライームは受け止めていた。

 アーパネイの表情が驚愕に塗れる。

 おそらく、俺も同様の表情をしているだろう。


 アーパネイに設定された飛び抜けた、ちから、や常識を逸脱した、すばやさ、などを下敷きに算出された物理攻撃力は尋常では無い。

 それはダークレオを相手に散々と拝まされている。

 レインボースライームの物理防御力はダークレオの足元にも及ばない。

 ちから、や、たいりょく、などの物理防御力に関する各種ステータス値より検討をつけるなら、レインボースライームの物理防御力は二見当であり、ダークレオは三五である。

 そして、アーパネイの各種ステータス値より検討をつけた物理攻撃力は二五五。

 レインボースライームだろうとダークレオだろうと鎧袖一触のはずだ。

 ましてや、物理系攻撃スキル〈グラビティハンマー〉で物理攻撃力には一五〇%の補正が施されているのだから。


 にも関わらず、レインボースライームはアーパネイの攻撃をまったく意に介していない。

 そして、いつの間にか、レインボースライームは引かれた弓の様に身をのけぞらせていた。


 ヤバイ!


「アーパネイ、避けろっっっ!!!」


 刹那、砲撃と見まごうばかりの勢いでレインボースライームはアーパネイへと体当たりを敢行した。

 物理攻撃系スキル〈メガトン体当たり〉だ。


「――きゃあああああああああああああっっっ!!!」


 ドゴン、とめり込んだかの様な衝突音と共にアーパネイは冗談の様に吹き飛ばされた。

 そのまま二メートルばかりも中空を滑空し、二度三度と大地をバウンド。

 ゴロゴロと緑色の下生えを刈り取る様に転がり、うずくまる。


 〈メガトン体当たり〉

 体術を用いた際に使用が可能となる物理系攻撃スキルで、物理攻撃力に三〇〇%の補正が施される。

 スキルモーションは名前の通り。

 このスキルには五ターンの再使用制限が課せられており、リアルではその五ターンはどの程度の間に換算されるのか興味が引かれる。

 だが、今はそんな場合では無い。


「アーパネイッ!」


 駆けるにつれ、アーパネイがもぞもぞと身体を起こし始めた。

 しかし、身体を起こそうとしてべちゃりと地に落ちる。

 ダメージは見るからに甚大だ。


「アーパネイ、大丈夫か!」


「将雅さん……。ええ、何とか」


 アーパネイの肩を抱き、支える。

 力を入れたなら折れてしまいそうに華奢な肩であり身体だ。

 鬼が斬鉄剣を振り回すがごとくトゲトゲハンマーを振り回す姿からは想像が出来ない程に。


 レインボースライームから追撃の気配は感じられない。

 ぷよんぷよんと身体を揺らしながら佇んでいる。

 どうやら積極的に攻撃してくる気は無さそうだ。

 そう言えば、戦闘での積極性を表す攻撃性質の設定は最低ランクに設定してあった気がする。


「あ、あの、ハンマーでの攻撃がまったく通用しなかったんですけど……」


 アーパネイが困惑に眉を傾けながら俺を見やる。


 いつかレインボースライームの設定をした際、物理防御力の設定を間違えたか?

 いや、アーパネイの物理攻撃力は設定可能上限に近しい。

 例え、物理防御力の設定を間違えて設定可能上限にしてしまっていたとしても、ああも一方的に弾かれるとは思えない。

 あれじゃあまるで無効化……だ。


「……物理攻撃無効化設定、か」


 そうして、一つの設定が脳裏に浮かんだ。


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