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レアモンスター呼び出しコマンド

 ダークレオの尻尾。

 セレスゲティ大草原にて出現するモンスターであるダークレオがドロップするレアに分類されるアイテム。

 使用する事で得られる恩恵は……特に設定されてはいない。


「何に使うんだろうな、ダークレオの尻尾なんて」


 何らかの効果を設定したのを忘れているのかも知れない、そんな風に記憶をさらうも、やはり何かを設定した記憶は無い。


「わざわざ欲しがる位ですから、何かあるんでしょうけど……」


 閉院後のイカゲソパーティーよろしく、ダークレオの尻尾の使い道も設定の範囲を超えた先にあるのかも知れない。


「はい、おしまいですよ」


 ぐい、とアーパネイは最後に強く一揉みすると俺の肩から手を離した。

 肩からアーパネイの手の暖かみが失われ、名残惜しい。


 ダークレオの尻尾を手に入れるには市場で買い漁る以外にはダークレオよりのドロップしか方法が無い。

 市場で買い漁るだけの手持ちは無いし、そもそも、市場に出回っているのかも不透明だ。

 この後のアーパネイの奮闘に期待するしかないか。


 ――と、脳内に閃光が走る。


「……待て」


「待ちません、もうマッサージは終わりです」


「そうじゃない。……あるぞ、市場やダークレオよりのドロップ以外にダークレオの尻尾を手に入れる方法が」


「本当ですか!?」


 ぱああ、と表情を輝かせるアーパネイ。

 アーパネイとてダークレオを狩り続けるのはうんざりだったのだろう。

 アーパネイの力量を鑑みたなら、ダークレオ狩りなんて退屈な作業の繰り返しに過ぎないはずであるから。


「確か――」


 プレイヤーがドロップアイテム難民と化してしまった場合の救済を設定してあったはずだ。

 ドロップアイテムである限り、通常アイテムだろうがレアアイテムだろうが激レアアイテムだろうが何でもござれのチート級の救済設定を。

 もちろん、ダークレオの尻尾もその範囲である。

 とは言え、いつでもドロップアイテムの救済設定を利用出来る訳では無い。

 激レアドロップアイテムにはゲームバランスに直結する物も含まれている。

 そんな物を救済の名の元にばら撒くのは頂けない。

 なので、ドロップアイテムの救済設定は一ヶ月に一度だけ利用出来る様に設定してあったはずだ。

 

「とあるコマンドを入力してレアモンスターを呼び出すんだ。その呼出したレアモンスターを討伐出来たなら望みのドロップアイテムを落とす、そんな設定だったはずだ」


「レアモンスター、ですか……? もしかして、凄く強かったりします? ドロップアイテムなら何でも手に入っちゃうんでしょう?」


「いや、多少の癖は設定したが、お前さんの馬鹿力なら問題無い」


「女の子に向かって馬鹿力なんてあんまりじゃないですかっっっ!!!???」


「お前さんの阿呆力なら問題無い」


「言い方を変えれば良いって訳じゃありませんよっっっ!!!」


 ぶんぶんと首を振り回すアーパネイを尻目に、さっそくコマンドを……。


「コマンド入力はどうやればいいんだ」


「……はい?」


 眉根を寄せながらのつぶやきに、アーパネイははてなと首を傾げる。


 ゲームならコントローラーの十字キーやら各ボタンやらを用いて入力してやればいいが、コントローラーなんて代物は無い。

 何か代わりになる様な物……。


 ふと、アーパネイと目が合う。

 そして、ほんのりと赤みを帯びた柔らかそうな頬に目が止まった。


「な、何ですか? ……何だか嫌な予感がしますけど」


「動くなよ」


「……え、な、何を――いだっ! いだだだだっっ!!」


 ぐにょ、とアーパネイの両の頬を両の指でつまむ。

 こいつを十字キーに見立てて入力してみよう。


「何ずるんでずがあああぁぁぁ……」


「動くなって、今からレアモンスター呼び出しのコマンド入力を始めるから」


 コマンドは簡単だ。

 上、上、下、下、左、右、左、右……とアーパネイの頬をこねくり回しながら気がついた。

 ボタンは?

 コマンドの入力には十字キーだけじゃなく、ボタンも必要だ。

 頬を十字キーと見立てたなら、どこかもボタンと見立てる必要がある。

 ボタン……、ボタン……。


「ちょ、ちょっと、将雅さん! まだですか? ほっぺたが伸びちゃいますよ!」


 アーパネイの目尻にじわりと涙が溜まり始めた。

 いつまでもつまんだままにしておくのは流石に悪い。

 後一時間程度が限度か。


「私のほっぺたをちぎり取る気ですかっっっ!!!???」


 ちょっと気を抜くと考えている事がすぐに口をついてしまう。

 悪癖、悪癖。


 コマンド入力に必要なボタンの数は二つ。

 つまり、ボタンに見立てた何かを二つ用意しなければならない。

 アーパネイが備えるボタンに見立てる事が出来る二つの物、か。


「早くしてくだざいいぃぃぃ……」


 迷っている暇は無いな。

 

 再びアーパネイの頬を十字キーさながらに操作し始める。

 上、上、下、下、左、右、左、右、と、アーパネイの両頬より手を離し――。


 ――アーパネイの右胸をボタンBと見なして、むにょんっ!


「ひぃやあっ!?」


 アーパネイの悲鳴が耳をつんざくがここで止めては意味が無い。

 つままれこねくり回された頬の為にも!

 揉まれた右胸の為にも!

 俺は最後まで全うしなければならない。


 右胸に引き続き、左胸をボタンAと見なして、むにょんっ!


「みぃやあっ!?」


 猫の悲鳴が聞こえた様な気がした。


 ともあれ、これでコマンド入力は完了だ。

 上、上、下、下、左、右、左、右、B、A。

 後はジアーレがこのコマンド入力を受け入れてくれるか否か。


「な、な、な、なんて事をするんですかあああああああっっっ!!!??? 変態っっっ!!! 詐欺師っっっ!!!」


 顔を真っ赤にしながら自らのBカップを守る様に抱いて抗議の声を上げるアーパネイ。

 変態はともかく、詐欺師って何だ。

 しかし、今はそれにかまっている場合では無い。


「あれを見てみろ」


「あ――」


 先を指差すとアーパネイが言葉を無くした。

 虚空が渦と歪んでいたのだ。

 

 渦と虚空が歪むのはモンスターとエンカウントした証左であり、ジアーレに転移して一日でもはや見慣れたとか見飽きたとかとも言えるエンカウントのエフェクトであるのだが、通常のエンカウントエフェクトとはその色味に違いがあった。

 ダークレオを始めとした通常モンスターのエンカウントエフェクトは黒色の歪であるが、今目の前で生じているエンカウントエフェクトは銀色の歪をしているのだ。

 設定ではレアモンスターとエンカウントした場合には銀色のエフェクトと共に戦闘画面へと移行する。

 それがリアルに適用され、銀色の歪みと表れたのだろう。


 ここはセレスゲティ大草原の序の序。

 まだ奥まで進んだなら特定のレアモンスターともエンカウント出来る様に設定はしてあるが、こんな入口付近ではどんなレアモンスターともエンカウント出来る設定はしていない。

 つまり、眼前で現れようとしているレアモンスターはセレスゲティ大草原の設定とは無関係のレアモンスターであるのだ。


 どうやらコマンド入力は無事ジアーレに受け入れられた様である。


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