♠補給部隊の日記~紫苑~
( *´艸`)月 Ξ日
最近冷え込んできた、冬が始まろうとしているのだろう
ちなみに先月の食事は半分がカロリーバーだった、食欲の秋などというがそれほど楽しめなかった、侵略隊からは差し入れと称して秋刀魚という名の危険物を投げ込まれた、恐ろしい切れ味で書類ごと机を貫かれた、ほんと帰れお前ら
癪だが秋刀魚は意外とおいしかった。
ちなみに今も残業中、カロリーバー片手に仕事と戦っている、幸いもう終わりそうだ
「ウタ隊長!大変です!」
「どうしたの?」
「焼却部隊から急な発注が!」
珍しい
侵略や特攻は言わずもがな、探索や上層部の一部などがこの残業の原因となっている一方、護衛隊や計略隊、暗殺隊はあまり仕事を振ってこない、護衛は知らないが計略と暗殺は秘密主義なためだろうと思う
そして今回の焼却隊からの仕事だが、彼らは焼却に使用する油や鉄器、火薬などを定期的に請求しているが、前もって発注してくれるため、こちらとしても焦りが少ない、仕事内容も補給部隊の本業そのものである
その点侵略や上層部は…公共物を壊したことに対する謝罪文ってどう見てもこっちの仕事じゃないよね、なんで壊してもない私たちが反省しているんだ、意味ないだろう、国民もキレるぞ
「依頼内容はなんだい?」
「ええと、花…ですね、焼却隊が花?」
「ああそっか、もうそんな時期かぁ、分かった、私が手配しておくよ」
仕事が増えるが仕方ない、こればっかりは私が行いたい
「そんな時期、っていうことは毎年この時期に花の依頼が来るんですか?」
「うん、意外だと思う?」
「はい…正直似合わないというか…」
「あはは、そうだねジュド隊長の顔は鉄面皮で怖いからね」
今手に持っている書類が終わった、さてこっからは焼却隊のためにもうひと頑張りだ!
「でもね、ジュド隊長は軍で一番、優しい?ううん違うな、とにかく軍部には向かないような性格の人だよ」
補給部隊の日記―ギナス第4番島・冷たい静寂―
( *´艸`)月 Ψ日
今日は焼却隊のジュド隊長から頼まれていた花が届く日だ
他島への侵略行為によって領地を拡大、経済規模を増やし勢力を強めるギナスにとって最も重要な部隊は侵略隊だ
とは言っても侵略隊が重要視されているのであって隊員は重要視されておらず、死者が多く、隊員どころか隊長の入れ替わりが激しい隊でもある
また、ギナスは皇帝を頂点とする帝政であり、独自の宗教感を持つ宗教国家でもある、現皇帝の政治と宗教的教えが侵略行為を是としているのだから、当然侵略隊は優遇されている
しかしそんな侵略隊だけでは国家は存続できない、というか奴らの大半は脳筋だから自滅する
そこで活躍するのが侵略、特攻、探索以外の隊である
その縁の下組の一つ、焼却隊は侵略後に活躍する隊だ
というかこんなに侵略行為を行っていて侵略された土地の人々や他国の恨みを買って叛逆や侵略されたりしないのだろうか
そもそも周囲に侵略できる土地が無くなった時に、今でさえ将来枯渇すると言われている様々な資源を他国からガンガン奪うことで賄っているこの国は終わるのでは…いや終わるな、うん
まあ補給隊の私はそんな未来を憂う暇があったら仕事をしなければならないのだ、隊長と言っても所詮序列最下位の補給隊である私には上に進言などできないし、何より前述通り今で精一杯なのだ、だから…
「帰れ」
「そんな冷たいこと言うなよウタちゃんよお~?」
「おっ!なんだコレ、いただきま~す」
現在、侵略隊隊長シュワンと特攻隊隊長ゼンゾウが暇つぶしに補給隊にちょっかいだしに来ている、当然ウキョーさんは今いない
あとゼンゾウ、私のカロリーバーを勝手に食べるんじゃない、お前らにはのんびり飯を食う時間があるだろうが、それは緊急時の、しかも私が自費で購入しているカロリーバーだ
「ぶふぉ!うわマッズ!なんだこれ家畜の餌かよ!」
「ぎゃははははは!マジで!?家畜の餌食ってんのお前!そっか~狐だもんねえ~」
止めろ、書類に貴様の汚い食いかけを吐き散らすな!というか食べ物を粗末にするんじゃあない!そんなやつは肥やしにでもなるか家畜の餌になってこい!
それにお前らも蛇と獅子の獣人だろうが!
などと文句を言いたいがそこは補給隊クオリティ、歯向かったら私は無事でも補給隊の皆が危ないし、私は荒事が大嫌いだ、胸の奥底にしまい込む
「なぜ来る、私たちは忙しいんだお前らに付き合う暇はない」
それに昨日から徹夜明けでストレスがヤバい、私の無駄に増えた9本の尻尾が私のストレスを表すようにグネグネとうねっている、これじゃあ尻尾を仕事に回せない
「やだなあウタちゃ~ん、差し入れだよ差し入れ!ほれ」
「そうそう!遠慮なく受け取りなァ!」
そう言ってゴミのシュワンとカスのゼンゾウは銀色に輝く何かを投げつけてきた、回避できる速度ではあるが、回避すると書類や机が危ない
仕方なく飛来物をすべてペンを持っていない左手で叩き落とす、銀色の何かは石でできた床に深く突き刺さった
「痛…」
左手には切り傷ができていた、しかし床に刺さった何かを見ると刃物の類ではなく魚であった
「お土産の太刀魚だよ~ん!」
「ガハハハハ!俺の全力を打ち落としてかすり傷だけとはやるじゃねえか!表出ろよ殺し合おうぜ!」
なんだブレードフィッシュって、この前のやたら鋭い秋刀魚モドキの親戚か?
それと殺し合いなんてやめろよ、死んじゃうだろ、もちろん私が
お前あれだろ、全力(笑)で投げたんだろ、それで私が調子に乗ったら血祭虐殺ルートなんだろ、もし勝っても残った仕事で圧殺する二段構えなんだろ、分かってるから、そんなことされたらただえさえ溜まってる仕事が終わらないから、ほんと帰って、お願い
そんなことを思っていると、突如補給隊本部の扉が勢いよく開いた
「隊長!ジュド隊長のお花が届きましたよ~」
あれは!最近10人くらい入ってきた新入隊員のうちの一人、ユニスちゃん!やめろぉ!今来るんじゃあない!
「おんやぁ~?お花ねえ…ヒヒヒッ!」
「おい聞いてんのかテメエ!」
ゼンゾウうるさい、邪魔をするんじゃない!ああほらシュワンの野郎が蛇みたいな這いずる動きでユニスちゃんの方に!
「やあやあ~お嬢ちゃん、ユニスって言ったかな~」
「ひっ…」
シュワンがユニスちゃんを壁際に追い詰めた、蛇みたいな、っていうか蛇そのものの舌を出してユニスちゃんをなめるように見つめている
ユニスちゃんは脅えきって震えてしまっている
「きゃっ」
「ほうほうこれがそのお花ねえ、ふ~ん」
「無視してんじゃあねえ!」
シュワンがユニスちゃんから花束を取り上げた、ゼンゾウが殴りかかってくるが尻尾1本で受け流して転ばせ、ユニスちゃんの下に向かう
シュワンは花束をしげしげと見つめ、乱暴に両手で掴んだ、不味い…間に合わない…
「地味な紫、とてもじゃねえが誰かに贈るのには向かねえと思うがなっと!」
間に合わなかった…ジュド隊長の依頼の花束はあのゴミクズの手によって潰されてしまった、もともと手に入りにくい上に開花時期もギリギリだというのに
「シュワン!貴様!」
「おっいいねえその顔!いっちょ殺るか!」
分かっている、ここで怒るのは奴の思うつぼだろう、だけど私は奴ヲ許せナい
私は全部ノ魔力をまだ血が出てイる左手に集中サセタ、魔力が血と混ザリあっテ低い音をタてる
確実ニ消シ去ル
ちょっと思考が危ない方向に飛びかけた時だった、紅茶のとてもいい香りがして一気に思考が冷静になった
「おやおや、これはいただけませんねぇ」
気が付いた時にはウキョーさんが立っていて、シュワンは地に倒れ伏していた
シュワンに見たところ外傷は無い、眠っているだけだろう
「時にゼンゾウ君」
「は、はい!」
ゼンゾウがウキョーさんの帰還に気づいて補給隊本部地下室から逃げようとしていた、私は気づいてなかった
「彼を連れて帰ってあげてはくれませんか?どうやらお疲れがたまっていたようで、眠ってしまわれたようです」
「りょ、了解っす」
「では、頼みましたよ」
ゼンゾウはシュワンを抱えて大急ぎで出て行った
ウキョーさんはいつも笑顔だ、そう、怒らせても笑顔だ
仕事中も休憩中も優雅に優しそうに微笑んでいる
「ユニスさん、大丈夫ですか?」
「うぅ、怖かったですぅ…」
「紅茶でも淹れましょう、落ち着きますよ」
半端ない手際の良さだ、ユニスちゃんを慰めたかと思うと、太刀魚を床から引き抜き冷蔵庫にしまっておくように指示を出し、私を正座させた
あまり正座は得意ではないのだが、足を崩すことはウキョーさんの優しそうな瞳が許さない
「ウタ隊長、たしかに今の貴女にはまだ難しいかもしれませんが彼らのような人間に対するあしらい方を覚えなさい」
「はい」
「そしてウタ、貴女と約束したはずです、緊急時でもなければ攻撃魔法を使ってはいけないと」
「うう…ごめんなさい…」
昔からウキョーさんの説教を貰っているが未だに慣れない、でもこんなことを言ったらウキョーさんの説教の意味が無くなる、だがそれでもいやなものはいやなのである
「ほら、左手を出してください」
「うん」
ウキョーさんが私の左手を小さな両手で包み込み、ぼそぼそと何か呟く
ウキョーさん得意の治療魔法だ、じわりじわりと左手が温かくなってゆき、心地よさに目を細めていると気が付けば傷が消えていた
心地よい感覚が終わり、ふと重要なことを思い出す
「ウキョーさん、花束どうしよう?」
「花は生き物です、僕の魔法で十分修復可能ですよ」
さすがウキョーさんだ、というかもうウキョーさん一人でいいんじゃないかな
◇
ギナス第4番島・セロイテ、通称しじま島
この島に住まう人はおらず、訪れる人も職務故にやってくる護衛隊と焼却隊程度のものである
また、『木』以外の生物もほとんど存在しておらず、辺りには川も無く、ただ礫や砂の大地と灰の山々が広がっている
そんな灰の山を紫の花束を抱えた白髪の大男と目に隈を持った狐の獣人の女性が歩いていた
「良かったのか?」
「はい?」
「せっかくウキョーが休みを作ってくれたのだろう?」
「焼却隊と護衛隊を除けばここに来る人はいないでしょう?それも仕事として来るくらいですし、それじゃあ悲しいですから。
それにこんな機会でもなければ家か職場にしか行けませんし」
「そうか」
それだけ言って二人は歩き続ける、灰の山は歩くたびに巻き上がり服や髪に降りかかるが、彼らはそれを落とすことは無い、女性はこのどこまで行っても灰しか広がらないこの場所ではやるだけ無駄と思っていたし、大男は灰にまみれることで此処に来た意味をより深く考えていた
「着きましたね」
「ああ」
島の中でも最も大きい灰の山の麓、そこに建てられた不格好な鉄くずの十字架の前に、大男は花束を供え静かに目を閉じ黙祷する
「此処が何か知っているな…」
「はい、侵略した島で出た死者を敵味方構わず纏めて火葬する場所、ですよね」
「表向きはそう言われているが、火葬なんて上等なモノは行われていない」
大男は懐からタバコを出し、静かに火をつけた
「人の死体を物みたいに無造作にトロッコに積み、空いた場所に投げ捨て、ある程度溜まったら油をかけて灰にする。
疫病の万円を防ぐためだのなんだの言っているが、侵略行為で死んだ者たちの墓を作らせず、暗い部分を焼き尽くす、宗教なんていう洗脳教育を浸透させやすくさせるための処理にすぎない」
白い煙を吐き出し、大男は何度かせき込んだ、女性はタバコの吸いすぎによるものだろうと当たりをつけるが、大男が血を吐いたことで焦った様子で大男に駆けよる
「ジュド隊長!」
「気にするな、職業病みたいなもんだ」
大男-ジュドは自身の吐いた血だまりにタバコを落とし、火を消した
ぼうっと灰の山を見上げ語りだす
「紫苑の花の花言葉を知っているか?」
「いえ…」
「いくつか意味があるが『追憶』だ。
ウタ、お前は此処に来た、ならば忘れるな、上の教えで正当化されているが、戦争は忌むべき行為だ、犠牲者は此処にいる、消えちゃいない。
こうして死者を焼き尽くし、消そうとも、馬鹿みたいに都合のいい教えで正義だと肯定しようとも、忘れない者たちはいる、過去の悲劇を、屈辱を、絶望を!」
「…」
ふと、一塵の風が吹き、灰が花を覆い隠した
「たとえ灰が隠そうとも、それらは確かにそこにある。
仕事が忙しいお前だから気づいてないかもしれんが、軍の動きが少しづつ変わってきている、ウキョーも動いているんだろう、きっとそう遠くないうちに国が揺らぐ時が来る、心構えはしておけ」
「はい」
ウタは消えないクマを抱えた眠たげな眼をしながらも、真っすぐにジュドを見つめていた。
アリス「まともなっ!食事描写がっ!無いっ!」




