表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

「ようこそ、【脱皮の一杯】へ。


ここでは、思う存分楽しんでいってくれて構わない。 ただし――俺の掟を守り、飲んだ分の代金をきっちり払うことだ。


ここは神殿じゃない。 誰もお前の罪を許しはしない。


それでも掟を破ろうとする愚か者や、勘定を踏み倒そうとする賢いつもりの連中には……


半獣人の用心棒に、お前の骨を三つに折らせた後、深霧城の港へ放り込み、鮫の餌にしてやる。」


――【脱皮の一杯】酒場の主人・辰



神々ですら穢れを嫌う暗黒港湾都市――「深霧城」。


そこでは悪意は安価で、命は壊れかけている。


裏路地ではギャングが少女の死体を投げ捨て、神殿では聖なる天蓋の下で貪欲な金貨の数を数えている。


この街に救世主など存在しない。


あるのは、決して晴れることのない濃霧と、冷たい泥沼だけだ。


だが、そんな街の灰色の境界には、赤い提灯の灯りを一年中絶やさない酒場の扉がある。


その名は――【脱皮の一杯】。


店主は、冷酷で、女好きで、自らを「中立・悪」と称する謎めいた蛇妖。


店員を務めるのは、光に弱い体質を持ち、影の中でグラスと短剣を磨く闇の妖精族たち。


聖印を引き裂き、信仰を捨てた背教の聖騎士。


仲間を全滅させた過去を背負い、聖書を置いて武器を手に取った神官の少女。


十二代もの教皇に仕えながら、まもなく命の灯火が消えようとしている老いた半妖精の枢機卿。


邪竜を討ち滅ぼした代償として、呪いに蝕まれ続ける伝説の孤臣。


――傷だらけになりながらも、この世界に蔓延る悪意と闇に屈することを拒んだ者たち。


彼らは一人、また一人と、その扉を押し開いていった。


カウンターの前。 木製の卓上には、澄み切った清酒と、精巧に作られた料理が並ぶ。


路地の外には腐敗した死体が転がり、 扉の内側には、宝石のように輝く水槽と、丸々と肥えた海蛇がいる。


ここでは、食事はただの食事ではない。


それは死者が残した重みであり、 それでも生き続ける者たちが、この世界へ叩きつける最後の抵抗なのだ。


「腹いっぱい食え。涙を拭け。 明日の朝日が昇ったら――俺たちはまた出る。 この地獄みたいな街を、徹底的にぶち壊すためにな」


――【脱皮の一杯】店主・辰





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ