VS ヴァンパイア 前半
私たちは、廃墟の屋敷の前まで来た。
周りが薄暗く、木々が生温かな風によりざわめく。
これだけで、不安と恐怖を煽るのに十分なのに、「クライ・クロウ」という、漆黒の鳥が「カー! カー!」と鳴く。
私は、今でも外れそうな屋敷の扉の取っ手に手を掛ける。
「うぅ……、我慢……我慢 」
「そう……ですね」
不安により、唾を飲んでしまう。
「ここで立ち止まっては、何も進みません。 覚悟を決めていきましょう、ルナさん」
「そ、そうだよね。 もう、どうにもなれ! えいっ!」
勢いよく扉を開けると、屋敷の中には埃が充満し、それが何十年も積み重ねていて、誰も手入れしてないような感じがする。
さらに、部屋中には蜘蛛の巣が張り巡らされている。
「《ライト》」
アメリアさんは、光属性魔法で光を生み出す球体を出す。
私たちの周りに、温かい光で照らされる。
「ありがとうございます、アメリアさん」
◇
「アンデッドモンスターが出てきそう……」
「ルナさん、これから倒そうとしているヴァンパイアはアンデッドモンスターですよ」
と、話しながらヴァンパイアが居るとされている部屋を探しに、屋敷中の部屋を巡る。
そして、二階の一番奥の部屋、日光が当たりにくい位置にある部屋がある。
「これで最後の部屋だね……)」
再度、唾を飲む。
「じゃ、じゃあ行きましょうか……」
アメリアさんが、部屋の扉の取っ手を握り扉を開ける。
そこには、本棚とテーブル、椅子が置いてある普通の部屋だったが、一つだけ異質の物が置いてあった。
「棺桶ですね……」
「この中にいるのかな?」
「多分ですけどね。 それとルナさん、血を吸われないように気を付けてくださいね」
「うん……」
私は、警戒しつつ棺桶の蓋を開ける。
「い、いない!?」
棺桶の中身は、もぬけの殻だった。
私たちが驚いていると、後ろにある扉が不意に開く。
扉のとこに居たのは、黒いマントに貴族が着るような豪華な服を着ていて、典型的な吸血鬼の姿をした魔物がいた。
「自分から餌になりに、我が住居に来るとは……。 しかも、二人も極上の餌だとは……。
じゅるり、おっと、涎が垂れてきたじゃないか」
ズボンからハンカチを取り出し、涎を拭く。
「ルナさん!彼の目を見ちゃダメ!」
「えっ!?」
「ヴァンパイアの目はヴァンパイアロードほどではないけど、魅了になってしまうの。 魅了されると、主に操作され、自分から動かすことができないの!」
「そ、そうなの!?」
アメリアさんが忠告してくれたので、ヴァンパイアの目を見ないように顔を逸らす。
「へぇー、君たちはヴァンパイアの知識があるんだね。 ということは、そういう知識があるってことは冒険者なのかな?」
急に金縛りのように体が動かせなくなり、だんだん身体が怠くなるような感覚に陥った。
どうして!?
体が思うように動かせない……。
ちゃんと、目を見てないのに……。
「《光槍》!」
アメリアさんは、杖から光り輝く槍を生成しヴァンパイアに目掛けて放つ。
光の槍がヴァンパイアの目の前までくるが、避けようとする気配がしない。
「――《暗黒の膜》」
ヴァンパイアは、青紫の魔力を繭のように身体を包み膜を作る。
光の槍が膜に衝突すると、光を吸収するように光の槍が消失した。
《暗黒の膜》。
闇属性魔法の光属性魔法特化型の防御魔法。
同じ防御魔法の 《マジックシールド》より消費魔力が少ないことが利点。
「なっ!?」
「不意打ちとは、卑怯だな人間」
「それはこっちのセリフ! さっきから、ルナさんに魔法を掛けたくせに!」
「ちっ、バレていたか。 だが、もう遅い。 やれ!」
私は、ちゃんと意識があるのに、身体が言うことが利かない。
勝手にアメリアさんの方に向く。
「《炎槍》……」
私は、心がこもっていないような声で魔法を唱える。
杖から次々と炎の槍を生成していき、放つ。
やめて!攻撃しないで!
心が叫んでいるのに、魔法の詠唱は止まない。
「っ!? 《マジックシールド》」
アメリアさんは、防御魔法で私の炎の槍を防ぐ。
だが、アメリアさんが私に構っている内にヴァンパイアの蹴りをくらってしまう。
「ぐふっ!」
その蹴りの威力は凄まじく、簡単に蹴り飛ばされ床に叩き付けられた後、転がされる。
「《影矢》」
続けて、ヴァンパイアは攻撃を繰り出す。
アメリアさんはまだ地面に転がっていて、攻撃を避けられると思えない。
お願い、一度でもいいから、アメリアさんを守らせて!
だから、動いて!動いて!動いて!動いて!動いて!動いて!動いて!動いて!動いて!動いて!動いて!動いてぇー!!
私は必死で身体に言うことを利かせるように叫び続けた。
その願いが通じたのか、少しだけ動けるようになっていた。
「っ!」
やった。ちょっとは動かせるみたい……。
あとは、魔法が間に合えば……。
「――《マジックシールド》」
私はヴァンパイアに気づかれないように、小さな声で魔法を詠唱する。
アメリアさんに半透明の障壁を展開させ、『影矢』の攻撃を防ぐ。
「やったかっ!?」
接触時に埃による砂煙が発生し、ちゃんと防げたか分からない。
「う、うぅ……」
アメリアさんは片手で頭を抱えながら、立ち上がる。まだ意識が朦朧しているようだ。
「なにっ!? 効いていない……だとっ……!?」
「ありがとう……ルナさん。 行きます!《精神回復》」
アメリアさんは、魅了状態の私に回復魔法を唱える。
私の体に優しくて温かい光が包み込む。
すると、私は寝覚めのようにスッキリし、意識がしっかりとした。
ヴァンパイアが油断している隙に、高火力で大ダメージを与えないと!
私が撃てる最大の攻撃魔法――
「《火炎爆発》!」
私は魔力で生み出した火種をヴァンパイアの服に植え付ける。
あとは爆発させるだけ……!
私はすぐさまヴァンパイアから離れ、アメリアのほうに駆け寄る。
ヴァンパイアは服に火が着いたのを気が付いたのか、振り払おうするが取れない。
「今だ!いっけぇぇええーー!」
私の声と共に、植え付けた火種がどんどんと膨張し、爆発を引き起こす。
その爆発により、屋敷ごと吹き飛び崩壊していく。
「《ブラスト》!」
私は爆発する寸前に屋敷の窓からアメリアさんを連れて飛び逃げる。
地面に直撃する前に風属性魔法を地面に向かって放ち、落下ダメージを軽減させた。
「くっ!」
さすがに、ノーダメージとはならなかった。
爆風もあって、多少の痛みが出る。
「さすがに、爆発をもろに食らったら生きてない……よね?」
「たぶん……」
だが、不安通りに崩壊した屋敷から勢いよく飛び出したのはヴァンパイアだった。
「ふはははっ! さすがの我も冷や汗をかいたわ! 《影矢》」
ヴァンパイアはマントを翻すと、そこから無数の黒い矢を放出してきた。
「「――《マジックシールド》」」
私たちは同じタイミングで半透明の障壁を目の前に展開させ、攻撃を防いだ。
「我は貴様らメスを舐めていた。 だが、気が変わった! 我の伴侶として迎えてやろう!」
そうして、ヴァンパイアは大きく高笑いをした。
誤字・脱字あったらすみません。
感想、アドバイス、質問を待ってます。
悪口はやめてね。作者は豆腐メンタルなので泣いちゃうから‥‥(´;ω;`)
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