みなと君とジャージとお姫様抱っこ
初代理事長の胸像の近くで、倒れているで在ろう三年の先輩をお助けに行くぞ。任務だ、オラァーーっ!!
「えっ、湊!? 今、上履きを履いているんだよ。何でそっちへ行くの?!」
――純ちゃんに止められるが、俺は行くぜ。
あー……上履きは後で、靴底を雑巾で拭き拭きするんで、心配しなくても大丈夫でーす。
「湊、あそこに寝ているのは、多分……」
――蛍都さんに話し掛けられても構わず、俺は行くぜ。
んん? ちゃんと聞いてなかったけど、多分って何だろう? 超気になるんだけど。話を聞いとけば良かったなぁ。
一階の渡り廊下から飛び出して、先輩の元へ救助に向かう俺。とりあえず、雨が降ってなくって良かった。動きが鈍るし、靴が悲惨な状態になるからな。
「ハァハァハァ、着いたぞ……もしもし? 意識がありますか? 生きてますか?」
割かし大きめの声で、仰向け状態の先輩の爪先へ話し掛けるが、ピクリとも反応しない。
大丈夫かな。心配になって、更に近付く。
「もしもし、大丈夫です、か、って……えっ? えっ?」
台座の影に隠れるように寝転んでいた人物を見て、俺は驚く。
赤い色のジャージを枕にしてスヤスヤと地面に寝ていたのは、なんと同級生の虹野夜美さんだった。
虹野さんは何故か、二年生の黄色ジャージを羽織って、三年生の緑色ジャージを履いている。先輩ジャージ色を身に纏っているのは、何か意味があるのか。
まさか、先輩パワーをジャージに集結させてまでも、殴りつける必要性がある敵が出現したのか?! そんな訳がないか。
暫く、彼女をじっと見下ろす。
「……気持ち良さそうに寝ているなぁ」
お昼休みのぽかぽかとした気候の下で眠る美少女。絵になりますな。
「……帰るか」
体調が悪くて倒れてしまった先輩なんて存在していなかったし、さっさと二人の下へ戻るとしよう。
「湊ったら、深刻そうな顔をして走って行くから、どうしようかと思ったよ」
渡り廊下に戻ると、純ちゃん一人だけが俺の方へ近寄って来る。
あれ、蛍都さんが居ない?
「ああ、蛍はね、直ぐに戻って来るから、気にしなくても良いよ――それよりも、その状態では校舎に入れないだろう? 俺がお姫様抱っこで連れてってあげる」
は? お姫様抱っこ? だと?
「……いやだ」
男にお姫様抱っこされるなんて、顔が近いし恥ずかしいから絶対に嫌だ!
「えー、ずっと此方にいる訳には、いかないんだよ?」
「せめて、おんぶにしない?」
気に入らない条件が出現したならば、新たに選択肢を増やすのが俺のやり方だ。
でもって、『お姫様抱っこ』と『おんぶ』の二択ならば、俺はおんぶの方を選択するぜ。
「おんぶはスカートだから危なくないか? 椅子に座るまでの短い間だし、お姫様抱っこの方が良いと思うけど」
何だか、そわそわと落ち着きのない奴の提案。
怪しい。や・け・に、お姫様抱っこを推して来ている。
もしかしたら、お姫様抱っこ推進委員会の回し者かもしれないな。
「大丈夫! そーゆー対策はバッチリしているから!」
今んところ、俺はスカートの中を覗かれても大丈夫なんだ。なんてったって、見せパン的なものを履いてるからな。
抑々の話、劣情を掻き立てるようなエロエロ布地を、履いていないからね。
俺は全年齢を常に意識している安心・安全で、しかも、健全男子でもあるからな……あ、間違えた、今は健全女子か。
「湊がそこまで言うのなら、おんぶにしようか。俺は、くっ付けられるなら、どっちでも良いし」
純ちゃんはそう言うと、背中を向けて腰を落とす。完全に俺を背負う体勢になったようだ。
凄く嫌だけど、純一の上に乗るか。よいしょっと……
「――待ちなさいーーっ!!」
「!? け、蛍都?」
「!? ちっ」
突然、校舎側に通じる扉がバンと開けられたと思ったら、そこから蛍都さんが現れた。
そして、俺たちの方へ、ピューーっと駆けて来る。
「湊、雑巾を持ってきたわ。これで問題は解決よ……!」
荒い息の蛍都さんから湿った雑巾を受け取る。
「急いで持って来てくれたんだね、ありがとう!」
じーん。必要になるからと、俺の為にダッシュで取って来てくれるなんて嬉しいなぁ。感慨深いとは、この事か……
「もっとゆっくりしても良かったのに、ねっ?」
「ふん、思い通りに行かなくても拗ねないことね」
二人で何やら相談事でもしているが、気にせず上履きの泥を落とす。拭き拭き、っとね。
活動報告に次回の更新日を載せました。




