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みなと君と料理部9

「ん? なんだ一年、まだ残っていたのカ。っくに帰ったと思っていたヨ」

「あら、家庭科室の鍵を返却した後、トイレにも私たち寄ったのに、ねぇ~♡ 私たちの方が早く帰るとは思わなかったわ」


 施錠せじょうした鍵を職員室に戻す為、途中で別れた先輩たちに下駄箱で再会しました。ハ~イ、お久し振りってかんじか? ははは。


 ……どうやら、俺が想像していたよりも、純ちゃんは時間が掛かっているなぁ。


 まさか、三年の先輩たちよりも遅いとは思いもよらず――このままでは、お土産みやげに貰ったおにぎりがカチカチに固くなってしまうではないか。

 ダッシュで向かうのだ、純一よ。



「早く待ち人が来るといいわね~♡ それじゃあ、またね」

「我が部員を待たせるとは、男だったら許せんナ……遅くなるのなら、気を付けて帰るんだゾ」


 手を振りながら三年の先輩方にも別れの挨拶をした。

 さよなら、グッパイなのだ……また、部活動の日まで。



「あっ、純から返事が来たわ。えーー……っと、部活は終わったみたいよ。支度したくが済んだら向かうようね」


 嬉しそうに笑っている蛍都さんは、俺に見えるようにスマホの画面を向ける。



「そうなんだ。じゃあ、そんなに待たないね」

「ええ、これでやきもきしないで、どっしりとした気分で待てるわ」


 よしよし、良いかんじ、良い流れだ。

 このまま、あの二年の先輩たちが戻って来る前に、純ちゃんが到着すれば我ら一年の料理部(仮入部)の勝利である!

 とゆーわけで、ハリーアップで来るのだ、純一よ。






「相風さんに小川さん、ここで何をしているの? もうそろそろ下校の時刻が近いというのに……」


 そう言って、俺たちを不審げに見る竜頭さん。

 竜頭さんも結構遅い時間、下駄箱に現れたなぁ。

 もしかして、竜頭さんも部活動帰り、とか? 



「何をって、人と待ち合わせしているだけよ。純が来たら、さっさと帰宅するのだから、ご心配なく……」


 竜頭さんの問いに対して、クールに受け答えする蛍都さん。ヒューッ、しびれる格好良さだ。



「そうなの? まあ、貴女たちは、悪事を働かないタイプだものね。失礼な発言をして、ごめんなさいね」


 あー……なるほど、下駄箱に悪戯いたずらをしていないか見ていたのか。

 みなとちゃんの学校って、名前札があるから誰の下駄箱か直ぐに判るんだよな。

 ラブレターやバレンタインのチョコレートが入れやすいというプラスの面があるが、ポイズンメールや嫌がらせプレゼントボックスといったマイナスの物も突っ込まれる可能性があるという……まさに表裏一体の仕様。

 そこまで活用している奴は、あまり居ないだろうけど……



 ……って、何か話が逸れた。



 はぁ~~、まぁ俺は、やったことも見たこともないけど、そういうことをする奴は実在するらしいんだよ。くぅ~~、嫌な世の中ですな。やったことがある人、い改めてね。


 だから、竜頭さんが警戒しても仕方がない。こんな時間帯に靴を履こうともしないでたたずんでいる人物なんて、怪しさ倍増だもん。



「ふぅ、貴女も大変ね。面倒見が良いのは、長所でもあるけど短所でもあるのよ。少しは肩の力を抜いたら?」

「ご忠告ありがとうございます。ですが、わたくしなら大丈夫です」


 竜頭さんは俺たちに目線を向けず、履いていた靴を仕舞う。

 竜頭さんは、しっかりしていて真面目な学級委員長だ。そんな素敵な彼女に俺は何かしたい。一体どうすれば……?


 そうだ! お土産に貰ったおにぎりを渡すのは、どうだろうか。


 先輩たちも絶対に今日中に食べてくれるのならば、誰にあげてもいいって言ってたし――ここは一つ。苦労人の竜頭さんにプレゼントすべきだろう!! 


 竜頭さんにプレゼント♡ 決定だだだーーっ!



 さて、おにぎりは二個ある。


 三年生の『胡麻塩ごましおをかけたおにぎり(具:梅)』と二年生の『若布わかめご飯のおにぎり(具:昆布こんぶ)』だ。

 両方とも部活時に俺は食べなかったので、お土産につつんで貰ったものだ。どちらを選ぼうか。



 ――やはり、梅おにぎりかな。



 部長さんの飛ばしたハートがまぎれ込んでいるかもしれないし、ゲームだとハートのマークはライフポイントになっているし、梅味はなにがし御利益ごりやくがあると思う。俺には分かる。



 ――俺は可能性を信じて、梅を選ぶぜっ!!



 それに、若布は確か『美味おいしくなーれ』の魔法をかけてないはず。

 選択の余地よちがない。梅に決まり。



「竜頭さん、今日の部活で頂いたものなんだけど、よかったらどうぞ……」

「あ、ありがとう。綺麗な三角形のおにぎりね」


 彼女が革靴を履く前に手渡す。


 おにぎり自体は、ラップに包まれているだけだ。

 しかし、赤いリボンでキュートに口をしっかりと閉じていて、さらに、ピンク色の水玉模様がうっすらとプリントされた透明な袋におにぎりは入っていたりする。

 そう、此奴こやつは、普通のおにぎりではない。実はカワイイおにぎりだったりするのだ。


 うーん、女の子のラッピングって可愛いよなぁ。

 俺も現在は女子だから、他の子に負けないよう可愛くセンスをみがきたいぜ。



「では、家で大事に食べる……」


 竜頭さんとの会話の途中、ドタドタと慌ただしい足音が聴こえてくる。

 なんだ? なんだ? 何者かが近付いて来る音がするなぁ。皆さん、お急ぎですかい。

 つーか、廊下や階段は、走ったら危ないんだけど……



 ……って、まさか、まさかの、

 これは、これは、あの先輩たちの、

 下駄箱への帰還ではないか?!



「湊、正解よ。からまれないといいけど、はぁ」


 オレンジ色の巻き髪を指でクルクルといじって遊んでいる蛍都さんは、俺の顔を見ず思考を読み取る。エスパー蛍都さんだ。


 そして、残念。料理部の一年(我々)(仮入部)の負けが確定しました。

 くっ、純ちゃん、ちょっとだけ遅いよ。


  



 

 



 

  



 



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