みなと君と料理部8
俺と蛍都さんが、はらはらしながら先輩たちを見守っていると、なのだ先輩が遂に動き出した。
なんと、先輩は保護活動家の彼氏さんを下駄箱の掃除用具入れに鞄ごと突っ込んでしまったのだ。
おおお、なのだ先輩、恋人を仕舞っちゃう系女子だと!? 意外や意外、実は心配性ヤンデレ属性だったりするのか?
ふーー……刺激的で過激的な行動は、俺のハートをドキドキさせますね。
「急展開ね、目が離せないわ」
無言で同意する。
収納された先輩の恋人は、この後どうなるのか。まじで気になりますわ~
なのだ先輩が彼氏を掃除用具入れに仕舞った数分後、三人の女子生徒が昇降口からやって来る。
チェック柄の黄色いリボンの色から過恋学園の二年生だと判るが、何しに来たんだろう、この人たち。
もう結構いい時間だぜ、お家に帰らないの?
「ねぇ、此処に私のハニーが来なかった?」
「知らないのだ」
しれっと偽りを吐く、なのだ先輩。
なのだ先輩、狸だ! 狸モードだ! 腹芸スキル・ポンポンぽんぽこ。
「彼を隠すなんて卑怯な真似はしてないでしょうね……そんなことをしたら、あたくしたちは絶対に許さなくてよ?」
「はわわっ、こわーい。ねっねっ、素直に吐いちゃいなよっ? 今なら隠していても、あたしは許してあげるからさっ」
「はっ、許すとか何様のつもり?」
「知らないものは知らないんです。言い掛かりは、やめて欲しいデース」
女子たちの視線の先に、バチバチと火花が散っている。ドンバチ、ドンバチ。
なんというか、可愛い顔に不釣り合いな攻撃的目付きをしているんだろう、この先輩たちは。
目が笑ってなくて、我々は怖いなぁと感じていますよ。
そうです。我ら後輩たちは、ブルブルッと震えています。
詳しく例をあげると、プルプルしている涙目の可愛い子ウサギちゃんで想像して欲しい、センパイーズ。
俺たちは、か弱いウサちゃんなんで、苛めないでください。
さてと、アホみたいなことばかりを考えてないで分析をしましょうか。
えーと、この状態は、『目で殺す』ではなく『目で戦う』だな。
なんつーか、何かの競技みたいだ。
たとえるなら、そう、目で戦う眼力競技か――目力で争え争うのだ……
ならば、女子部門の優勝は、鷹の目を持つ副部長で決まりですね。
眼光チャンピオン=副部長の切れ味のある刃のような鋭さに、皆さん、たじたじになるだろうし。
「先輩たち、激しいね」
「ええ、一歩も譲らない戦いだわ」
見付かりにくいよう小声で、こそこそと話す。
みなとちゃんの通っている学校の女子生徒は、恋愛に関して凄く積極的だ。
目と口を使って今も戦っている先輩然り、過去に絡んできた同学年の三人娘然り。本当に恋愛戦闘員が多いな。
「全く……ぺったんこのお子様が調子に乗らないことね。ハニーはとても優しいから、貴女のような子ども体型にも優しくしてくれるのよ?」
ブンブンと攻撃的に飛行する蜂のように、なのだ先輩をチクチクと刺す言葉。
それに対して、なのだ先輩は、
「? 何故、そんなことを関係ない貴女に言われないといけないのだ」
蝶のようにヒラヒラと舞って、華麗に言葉をスルーした。ノーダメージ。
全然効いていない……というより、多分意味が分かっていないな。
「はわわっ、そろそろ時間ヤバめだよっ。最悪。どうしようっ、どうするっ?」
「あーあ、彼について何も知らないとか、本当に使えない子たちね。ちっ、あたくしたちの貴重な時間を無駄にするなんて、万死に値する行為ではなくて? 身の程を弁えなさい」
腕時計やスマートフォンで時刻を確認した二人の先輩は、悪態を突きつつも焦っている。
「時間が気になるのなら、さっさと帰ればいいじゃない」
「幾らなんでも、酷い言い掛かりデース!」
デース先輩が怒っている。あれは、失礼な言い方だもんな、ムカついても仕方がない。
謝って和解しといた方が良いんじゃないかな~?
同じ学校の同学年の生徒だし、後々人間関係に響きそうだしなぁ。
俺ならそうする。だって変な因縁を後々残しときたくないもん。
ずっと蛍都さんと一緒に観察しているけど、最終的にどうなるのだろう。
やっぱり、なのだ先輩の粘り勝ち。または、あの先輩に隠していることが見付かる、のどちらかだろうなぁ。はてさて、勝敗はいかに!
とりあえず、純ちゃんが来る前に、いざこざは終わってくれ。
と、俺が密かに願っていたら、
「――もういい。二人とも校舎内を捜しましょう」
なのだ先輩に突っ掛かっていた先輩の鶴の声で、連んでいる先輩たちは下駄箱から去っていった。
暫くして、校舎内へ消えた先輩たちが戻って来ないのが判ると、掃除用ロッカーから先輩の恋人が鞄を抱き締めながら出てくる。
ふむ、俺も人間を隠すときは、この掃除用具入れを活用しよう。ここは、人を隠匿する専用の用具入れっと、きちんと覚えておかないとね!
「はああ~、怖かった。みんな、今の内に帰ろう!」
「ラジャーなのだ」
「寄り道しようと思ったのに、面倒くさい人たちね」
「まあまあ、無事に見付からなくて良かったのデース」
突然現れた二年の先輩対二年生の料理部の戦いは、なのだ先輩が最後まで彼ピさんを隠し通した結果、料理部の勝ちで終わる。
蜂の如くチクチク刺してくる彼女たちをウソで見事に追い払ったのだ。なのだ☆勝利!
「あら一年、まだ残ってたの……普段の私たちは、あんなにキツいかんじじゃないからね。普通に頼りにしていいから」
「そうそう、今回は希なケースだから。うちらのこと、怖がらないで欲しいのデース」
「一年、次の部活まで、バイバイなのだ!」
「知り合いなのかな? よく分からないけど、さようなら~」
料理部の二年生+なのだ先輩の彼氏さんに、さよならの挨拶をした。バイバーイっ!
………………待て待て、あの先輩、彼氏さんが居ないと判ったら戻って来るんじゃないか?
バッティングしたら絶対に嫌だ。あの人たち、かんじが悪いから、なるべくなら関わりたくない。
願わくは、彼の先輩たちがリターンする前に、純ちゃんが到着してくるのを望む。頼むぞ、純一! 信じているぞ、純一! 急いで来い!
俺と同じことを考えていたのか、蛍都さんが溜め息をつきながらスマホを確認していた。
純ちゃん、二人の女の子に求められているぞ。早く此方に向かうのだ……




