みなと君と先輩3
「急に何なんですか、貴方。休み時間に階段にいた先輩ですよね、何か私に用があるのですか……って、近い近い、離れてください」
目の前に立たれるよりは、ベンチに座ってくれる方がいいけど、近寄って来るのはやめて欲しい。
「おっ、見覚えがあると思ったら階段にいた娘か。こんな所でぼっち飯なんて可哀想になぁ、一緒に食ってやろうか?」
私服先輩はそう言って、俺の弁当と蛍都ちゃんの弁当を交互に見る。
「これは私と友達のお弁当です。お昼ごはんを用意してないのであれば、購買や学食で食べれますよ」
蛍都ちゃんが帰って来たら一緒におかず交換という幸せいっぱいの大イベントが待っているのだ。だから、私服先輩にあげる弁当はない!
「冗談だ、冗談。心配しなくても後輩にタカったりしねーよ。俺には一日十二食限定の幕の内弁当があるからな」
は? 急にお弁当の自慢かよ。
しかし、限定の高級弁当だろうが、このみなとちゃんママ作の愛情弁当には負けてしまうのだよ。
残念だったな、愛巣高校生の俺だったら羨ましい気持ちでギリギリとなるが、現在みなとちゃんである俺はそんな気持ちにならないんだぜ。
嗚呼、寛大な俺。いや、余裕な俺。
「それにしても、見覚えがある顔だ。何処かで会わなかったか?」
おいおいおい、私服先輩にナンパされてねぇ? ひゃーーっ、流石みなとちゃんのヒロイン力だ。初めて会った先輩を虜にする魅力、凄まじいぜ。
「先輩とは今日初めて話しましたけど……」
「けど?」
「先輩を初めて見たのは日曜日ですね」
俺の語彙力が消失してしまい、まるで珍しい生き物を見付けた言い方になってしまった。
先輩がじわじわと顔を俺に近づけるせいで動揺したからだ、まったく。
通学鞄を先輩と俺の間に置いているが、全然バリアーになっていないし。これ全然効果がない。気休めの御守りかよ。
つーか、なんでこの先輩はイチイチくっついて来るんだ。目が悪いのか? そんな訳ないだろう。じゃあ癖なのか? 癖なのか!? 大変嬉しくない癖だなぁ。悪癖だから直そうぜ、パイセン。
「ふーん、日曜日に、ねぇ……」
先輩はそう呟くと顎に手を置き、何やら考え始めている。
俺はその隙に先輩から距離をとることにする。
俺はベンチの真ん中らへんに座っていた為、端に寄ることにより上手く離れることが出来たぜ、いえーい。
でも、直ぐに近寄って来るんだろうなー、やだなぁ。
「……もしかして」
先輩は勢いよく顔を上げて俺の顔をじーっと見た後、今度はチラチラとスカートに視線を向ける。成る程、これがセクハラか。
「――お前、昨日、風でぶわーっとスカートが捲れていた奴だろう! クックックッ、コントみたいで間抜けで面白かったから、よく覚えているぞ」
おっと、これもセクハラですね。
……って、はああぁぁーーー、何で先輩があのパンチラ事件のことを知っているんだよっ!! 現場にいたか!? いたなぁ、そういえば。
「しかもピンク色のパンツを見られても恥ずかしがらず、連れの男に無表情で迫っていただろう。ははは、あの変な女か、お前っ!」
先輩は可笑しくて堪らないのだろう。自分の太股をバンバンと叩きながら笑っている。
「……先輩はとっても目が良いんですね。結構、私たち距離ありましたよね?」
先輩たちは車がブーブーと走っている車道を挟んだ反対側の歩行者専用ゾーンを歩いてましたよね。何で見て、いやバッチリと見てんすか。そこは、ほらっ、手のひらで目を隠しましょうよ。
あと、パンツの詳細については、もっと小声で話してください。誰かに聞かれたらどうするんですか。
たとえば……耳元でボソボソっと喋るとか紙に書いて伝えるとか、テクニックを使ってこっそりと俺に教えてくださいよ。
いや、待て、女の子のパンツの色を耳元で報告する男や紙に書く男――どう考えても変態か変質者の類いだな。成敗対象である。
つまり、先輩を成敗してもいいってことか……?
「俺はユウより目が良いぞ。ははは、モヤモヤも消えてスッキリしていい気分だ、礼を言う。おっと、残念ながらランチの時間になるか……また会おう、愉快な後輩よ」
「あっ、ハイ。はい?」
先輩は俺に向かって手を振った後、ご機嫌な様子でどっか行った。
別れ際にランチと言ってたから、昼メシを食べに行ったんだろうけど。
……先輩をとっちめる前に帰してしまったぜ、うっかり。
しかたない、私服先輩闇討ち計画(仮)でも立てるとしますか。みなとちゃんの下着を知っていい人物は限られているのでなぁ、悪く思うなよ。




