特殊スキル持ちサラリーマンの日常 1
シリーズに変更しました。
こういう日常ホラー、個人的に好きなんですよ(笑)
酷暑というほど暑い日々が過ぎ去り、ようやく秋が来たという、まるで冷熱切り替えスイッチのような秋の日々を俺は過ごしていた。
「暑すぎるほど暑いのも嫌だが、もう二ヶ月もすりゃ、今度は寒くて震える季節かよ……四季があるのは素晴らしいと思うが、車のタイヤが溶けそうな夏とか、零下20度とかが連日なんて、もうこの国も住めなくなるかも知れんなぁ……」
そう呟きながら、俺は人っ気のない公園のブランコに揺られていた。
そうそう、俺の趣味はカラオケ。
中年ながらも俺の声は独特らしく、アニソンやポップス(欧米や国産問わず)、演歌やシャンソンまで、なんならオペラでも(素人丸出しだが)歌える。
しかし、残念なことに、俺の歌は何かを引き寄せるらしく、さらに悪いことに神仏とかの類ではなく、どちらかといえば邪神とか祟り神とか言われるものらしい。
「らしい」というのは、俺は霊感全くなし!本当に「零感」人間だから、何かが来ても俺には見えないし、何も感じない。
まあ、だからといって、俺の歌の効果が自分にも分からないという話ではない。
どういうことになるのか?
実際に鼻歌を、ここで歌ってみよう……
「ふんふんふーん……フフフンフン……」
ごくごく小さい声だぞ、ちなみに。
電車で音漏れしてる若者のそばにいるより小さいくらいの声だ。
しかしなぁ……
かぁ、かぁ!バサバサバサ……
という鳴き声や羽音とともに、真っ黒なカラスの軍団が、どこからともなく現れて、俺の周りに集まり始める。
数分後、鳩ではないカラスの集団に囲まれた俺がいた。
こうなるんだよ、絶対に。
歌を歌わなきゃ、会話や大声出すだけとかなら、こんな怪奇現象は起きない。
だから、俺の声質自体がおかしなものじゃない。
音痴と言うのかどうか、俺自身にも分からんのだが、メロディと節、これだけでも怪奇現象が起きるのが、俺の歌。
これに歌詞まで乗せて、立派な劇場やコンサートホール、あるいは、それほどとは行かなくても、ちょっとしたカラオケ大会とか、のど自慢大会とか、下手すると、会社の慰労で行く年末恒例のバス旅行で泊まる旅館やホテルのカラオケバーでも、そして、団体からお一人様までウェルカムのカラオケルームすら、時と場所を選ばずにホラー映画の前哨戦みたいな光景が広がる(おかげで、俺は社内でも「あいつに歌わせると営業成績が右肩下がりになる!」と名指しされるほどの危険人物扱いされている)……歌さえなければ、俺は普通に仕事もできているんだがなぁ。
おや?
こんな自己妄想みたいなことをもやもやと考えていたら、俺の座ってるブランコの少し離れた場所にあるベンチで、若い男女が言い争ってる。
少し集中して、彼らの話を聞いていると、どうやら別れ話のようだ。
女性は涙ぐんでいるようで、ハンカチを目に当てている。
男の方は、これはもう典型的とも言えるDQN野郎スタイル。
言葉遣いもDQNにふさわしく?
「泣くなよ!泣いたって、もう、オメーには愛情もクソもない!愛情が冷めたら、もう他人だろーがよ!」
はぁ……こんなのばっかりだな。
完全に、悪い男にのぼせ上がった女性の末路のような1シーン。
さらに悪いことに、DQN男が女性を殴りつけようとしている。
俺は、ブランコから立ち上がり、スタスタと彼らの元へ。
「ちょいといいかな?お前、女性に手を上げるなんて最低だぞ!」
「な、なんだオッサン。俺とこいつの問題だろ。関係ねーやつが、しゃしゃり出てくんじゃねーよ!」
さすがに、赤の他人にまで殴りかかる度胸はないようで。
俺は、彼女を庇うように、二人の間に入り込むと……歌った。
ポップスのように聞こえるが、実はかなり古いアニメのエンディング。
それを、俺はここぞとばかりに、かなり大きな声量で歌った……
数分後、DQN男は腰が抜け、アウアウと声にならない声を上げつつ、四つん這いでヨタヨタと逃げ去っていく。
女性の方も、青い顔で俺を見ている。
俺達の周りは、カラスの大群、数百羽ものカラスで埋め尽くされている。
あのDQN男には、一体何が見えていたのやら。
顔色は青いを通り越して黒に近くなっていたし、その目には今まで味わうことのなかった究極の恐怖が映っているようだった。
逃げ去る男の視線は、俺達を見ていない。
俺達の少し上、何もない空間を見ているような、それでいて、その向こうを見ているような……
それから10分もすると、カラスの大群は飛び立ち、俺達の周りには鳩も雀も何もいない。
女性から、すこし上ずったような声でお礼を言われ、俺は女性と別れて自宅アパートへ戻る。
俺の厄介な力?も、少しは役に立つようだ。




