第二十六話 「ハミルトン当主の面接?を通った」話
父上の面接試験
ハミルトン邸・父との対面
廊下を進む。
大理石の床に、足音がやけに響いた。
天井は高く、空気は静かで、どこか張り詰めている。
「旦那様がお待ちです」
使用人の一言で、場の温度が一段下がった気がした。
「……おい」
拓海は声を潜める。
「やっぱ帰っていいか?」
「無理だ」
エドワードは即答した。
「もう伝えてある」
「何をだよ」
「お前のことだ」
「……は?」
遅い。完全に遅い。
(詰んだな)
重い扉の前で足が止まる。
逃げ場はない。
「失礼いたします」
静かに扉が開かれる。
中は広かった。
だが、豪華というより、無駄が削ぎ落とされている。
机。椅子。そして、一人の男。
顔を上げる。
視線が来る。
それだけで、分かった。
(……ああ、これ、“見る側”の人間だ)
「……エドワード」
低く、よく通る声。
「父上」
エドが一歩前に出る。
「戻りました」
「見れば分かる」
短い。
無駄がない。
そのまま、視線がゆっくりと動く。
拓海へ。
止まる。
そして何も言わない。
ただ、”見る”。
足元。手元。姿勢。立ち方。
視線の置き方。
細かいところまで、拾われている。
(……うわ)
自然と、背筋が伸びた。
意識したわけではない。
ただ、身体が勝手に整う。
幼い頃から叩き込まれてきたものが、先に動いた。
”姿勢が崩れてるわよ、拓海”。
母の声が、ふと頭をよぎる。
重心をわずかに整える。
呼吸を浅くする。
「……サエキ・タクミです」
短く名乗る。
余計な言葉は足さない。
一拍。
「……そうか」
それだけ。
だが、視線が、ほんのわずかに変わった。
測るそれから、
「通す」それへ。
「……世話になります」
もう一言だけ添える。
沈黙。
男は、わずかに顎を引いた。
「……客として扱え」
使用人へ向けて、短く命じる。
それで終わりだった。
評価も。
肯定も否定も。
何も残さない。
しかし。
(……今の)
分かる。
通った。
ぎりぎりの線で。
「行け」
エドに向けた一言。
「はい」
エドが振り返る。
「タクミ」
促されるまま、部屋を出る。
扉が静かに閉じた。
廊下に戻ると、ようやく息が抜けた。
「……なぁ」
「なんだ」
「今の、どういう判定だ」
エドは少しだけ考える。
「……問題なし、だろうな」
「雑すぎんだろ」
「父上は、そういう人だ」
それだけ言う。
「……で」
「俺、今試された?」
「最初からだ」
「聞いてねぇよ」
「言っていない」
「だろうな!」
思わず頭を押さえる。
しかし、さっきの視線は、不快ではなかった。
冷たいのに、拒絶ではない。
「……見られてたな」
「当然だ」
エドは、わずかに口元を緩める。
「連れてきたのは、私だ」
一拍。
「見るに決まっている」
「……お前な」
ため息が出る。
「ほんと、ろくなことしねぇな」
「合理的だ」
「便利な言葉だなそれ」
二人は歩き出す。
屋敷の奥へ。
「……タクミ」
「ん?」
「問題はなかった」
短く告げる。
「だから言っただろ」
「……何をだよ」
エドは答えない。
ただ、ほんの少しだけ満足そうだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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この話もゆるく続いていく予定なので、
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