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第二十五話 「屋敷の広さは、国家レベルだ」という話

菜摘ちゃん出したいよ菜摘ちゃん

クリスマス休暇当日。

拓海は、エドワードが手配した黒塗りの高級車に揺られていた。

ロンドンを離れて、約2時間。


「……なぁ、エド」


窓の外を見ながら、拓海がぼそりと言う。


「さっきから門くぐって、十五分くらい経ってるよな」


「ああ」


「ここ、まだ庭なのか?」


前庭アプローチだ」


一拍。


「……少し、狭かったか?」


「狭いわけねぇだろ!」


思わず声が大きくなる。


「地平線見えてんだよ!」


車は、まだ走っている。

芝生、森。整えられた道。

全部、敷地内。


「……は?」


やがて。


霧の向こうに、それは現れた。

石造りの巨大な建物。


城。

いや。


もっと厄介な”何か”。


「……着いたぞ」


エドワードが静かに言う。


「私の実家だ」


短く続ける。


「……ようこそ、ハミルトン邸へ」


車が止まる。

ドアが開く。

外に出る。


次の瞬間。


「「「おかえりなさいませ、エドワード様」」」


音が揃う。


視線を上げる。

使用人。

数十人が整列する。


「「「……そして、ようこそ、サエキ様」」」


「……あ、……どうも……」


反射で頭を下げる。


空気が違う。

静かで、整っていて。

逃げ場がない。


隣で、エドワードが一歩前に出る。

軽く頷く。

それだけ。

それだけで、場が締まる。


「……ああ」


短い返答。

声の温度が違う。


(……コイツ)


ちらりと横を見る。


同じ顔。

同じ人間、のはずなのに。

別物だ。

学園で、泥だらけになっていたあいつと。

今、ここに立っているやつは。


(……本物かよ)


妙な寒気が走る。


そのエドワードの手には。

見覚えのある箱。

漆の文箱。


昨日、届いたやつを、大事そうに、持っている。


「……タクミ」


声が落ちる。


「どうした」


「顔色が悪い」


一拍。


「……空気が薄いか?」


「違ぇよ」


即答。


「お前の家のスケールがバグってんだよ」


思わず息を吐く。


「……落ち着かねぇ」


その言葉に、

エドワードはわずかに口元を緩めた。


だが、その笑みは。

いつものものではない。

少しだけ、鋭い。


「……安心しろ」


一歩、距離を詰める。


「お前の部屋は」


一拍。


「私の隣だ」


「やめろ」


即答。


「怖い」


「合理的だ」


「何がだよ」


エドワードは答えない。


ただ、ほんの少しだけ。満足そうに笑う。

その表情はどこか。

「逃がさない」とでも言いたげだった。


「……行くぞ」


背を向けて歩き出す。

拓海は一瞬だけ立ち止まり、

それから慌てて後を追った。


大理石の床。高い天井。

音が、よく響く。


「……あー」


小さく呟く。


「……とんでもねぇとこ来ちまったな……」


頭の中に、浮かぶ笑顔。


「……菜摘」


助けてくれ。


言葉には出さない。

ただ、心の中でだけ。


外は、もう完全に冬だった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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