第十四話 「古典文学という名のSNS」の話
拓海君どこかのツイートで見たんだろうな
放課後の中庭。
夕日に照らされたベンチで、拓海は頭を抱えていた。
目の前の分厚い本。
多い。
「タクミ」
「……帰っていいか」
「待て。知の探求に終わりはない」
エドワードが立っている。
腕には本。
何冊も。
しかも、どれも古くて重い。
そして、妙に誇らしげだ。
「古本屋で発掘した」
「発掘すんな」
即答。
「そのまま埋めとけ」
「日本語の構造を理解するための資料だ」
「嫌な予感しかしねぇ」
一冊、取り出す。
『源氏物語』。
拓海は遠い目をした。
これを一から説明していたら、卒業式が来てしまう。
「いいか、エド」
「よく聞け」
少し間。
「日本の古典ってのはな」
一拍。
「現代のネットと同じだ」
「デジタルネットワークか」
「そう」
頷く。
「その『枕草子』は」
少しだけ考えて、
「宮廷OLの毒舌ブログ」
静止。
「OL」
復唱すんな。
「宮廷勤務の女性による日常投稿か」
「そんな感じ」
メモを取るな。
次。
「で、その『源氏物語』」
本を指で叩く。
「これは超長編の恋愛ラノベ」
「ラノベ」
「娯楽用長編フィクション」
理解が早いな。
「モテる主人公がひたすら攻略していく、
いわゆる”ハーレム”ものだ」
「なるほど」
いた、書くな。
「その『万葉集』は」
一拍。
「Twitterのまとめ」
「……Twitter」
「短文投稿の集積か」
「そうそう」
「140文字……いや、五七五七七か」
ズレてる。
だが近い。
「で、最後」
本をひょいと持ち上げる。
「『土佐日記』」
一拍。
「これは」
少しだけ間を置く。
「おっさんによるネカマブログ」
沈黙。
エドの手が止まる。
「……男が、女を装って書くのか」
「そう」
あっさり頷く。
「中身おっさんなのに、女子目線で日記書いてる」
「なるほど」
頷くな。
「ID偽装による視点操作か」
「違う」
即答。
「ただの趣味だ」
エドは腕を組む。
考える。
深く。
「……理解した」
一拍。
「日本の古典は、SNS文化の原型だな」
「……まあ、そんな感じ」
(適当に言ったけど怖くなってきた)
エドの目が輝く。
本を見る。
完全に獲物を見る目だ。
「面白い」
小さく言う。
「つまり、日本人は千年前から“バズ”を意識していたのか」
「してたかもな」
軽く返す。
「清少納言とか絶対いいね数気にするタイプだろ」
一拍。
「……タクミ」
「なんだよ」
「では順に解説しろ」
本を持ち上げる。
「まずはこの“ネカマの日記”からだ」
「なんでだよ!」
即ツッコミ。
「そこ一番どうでもいいだろ!」
「いや」
エドは真面目だ。
「王として必要な知識だ」
一拍。
「偽装された言葉の裏を読む訓練になる」
「ならねぇよ」
エドは少しだけ考える。
そして、静かに言った。
「……タクミ」
「なんだ」
「日本語は」
少し間。
「ヤバイな」
「ヤバイのはお前の理解だよ」
ため息。
「あと語彙力移ってんぞ」
「万能か」
「万能だよ」
夕暮れの風が吹く。
中庭に、
呆れた声と、少しズレた理解が、
静かに残った。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。
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