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幕間 密輸人と、孤高の審判者

美味しいは正義(二回目)

放課後の寮の自室。


拓海は、小さな箱を前にしていた。

国際郵便だ。


慎重に開ける。

緩衝材をどける。


中から、赤と白の網目と、黄色いキャップが覗いた。

一瞬、手が止まる。


「……クックック…いたぞ」


小さく呟く。


「俺の救世主マヨネーズ


そっと持ち上げる。

ほとんど拝んでいる。


この国の飯はおかしい。


味がないわけじゃない。

ただ、味という概念が、どこかに置き去りになっている。


それでも食うしかない。


だから……


「……タクミ」


背後から声が落ちた。


「その、妙な形状の物体は何だ」


振り返る。


エドワードが立っている。

いつもの顔で、いつもの距離だ。


「……ああ、エドか」


軽く振る。


「これはキューピー。日本の最終兵器」


「兵器」


復唱すんな。


「その赤い網は防護か」


「ただのパッケージだ」


即答する。


「……見るなよ。これは命なんだ」


拓海は慌てて、箱の中に「ブルドッグソース」と

「エバラ焼肉のたれ(中辛)」を隠した。


だが、時すでに遅し。


その日の夕食時。

拓海は、皿の隅にそっと何か(本だし)を振る。


「……サエキ、それ何だ」


グラハムが覗き込む。


「あ? 砂だよ砂」


「嘘だろ」


即否定された。


「それをかけた瞬間、魚が妙に旨そうな匂いがしてるぞ」


周囲がざわつく。


「……一口くれ!」


「俺、その黒いの(ソース)を一滴でいい」


気づけば、人が集まっていた。

虚無に耐えられなかった連中だ。


「……しゃーねぇな」


ソースを一滴、落とす。

味が変わる。


「……なんだこれ」


「うまい」


一瞬で広がる。

数日後。

拓海の部屋には、列ができていた。

人が多い。


「一滴でパン一個」


「高い!」


「嫌なら食うな」


即答。


「マヨ一絞りでラテン語のノートな」


「買う!」


成立する。

完全に市場だった。


「サエキ、醤油を……」


「舌が死ぬ……」


「落ち着け」


実家に泣きついたため物資は増えた。

続々と母経由で荷物は届く。


そして、拓海の隣には…

当然のように、エドワードが座っていた。


「……タクミ」


「なんだよ、共犯者」


「この『エバラ』だが」


一口。


止まる。


「……ヤバイな」


「だろ」


「まるで宇宙創生の味だ」


「語彙どうした」


しかし、栄光は長くは続かない。

廊下に響く、舎監の重い足音。


「――サエキ! ハミルトン!出てきなさい!」


終わった。

翌日、校長室の前。

二人は並んで立っていた。


拓海は完全に主犯扱い。

エドワードは、なぜか少し同情されている。


そんな空気だった。


「……お前、俺のせいにしていいぞ」


拓海は小声で言う。

エドワードは、わずかに笑った。


「馬鹿を言うな」


短く言う。


「私は王だ」


一拍。


「臣下の責任は取る」


「……いや、お前。さっきから先生たちに

『ハミルトン君、君のような優秀な生徒が』

って心配されてるだけじゃん。完全に被害者ヅラじゃん」


「うるさい」


小さく返す。


「……校長の顔」


一拍。


「ヤバイぞ」


「……ああ」


「ヤバイな」


結果。

大量の調味料は没収。

奉仕活動は一週間。


それでも…


没収されなかった「ヤキニクのタレ」の残り香は

寮の廊下に、しばらく残ることとなった。


そして、それはやがて、小さな伝説になった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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