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幕間  集まる理由

全方位に愛想がいい拓海くん

静かな午後の中庭。


そろそろ冷たい風の中に、わずかなやわらかさが混じっていた。

秋が深まる気配を感じる、そんな日。


最初は、距離があった。

校内でもかなり珍しい留学生。

しかも日本人。

多少なりとも、言葉の壁もある。


制服は着崩し、声は大きく、遠慮がない。

この学校の“型”から外れている。

関わる理由は、なかった。


「なあ、それ見せてくれよ」


最初に変えたのは、拓海だった。

何に対してもためらいがない。

相手が誰であろうと変わらず同じ調子。


「いいけど……」


戸惑いはあっても、拒絶はされない。

距離が近い。


だが、踏み込みすぎない。

絶妙な位置。


「ありがとな!」


全てにおいて軽い。

それで終わる。

引き際も同じだ。


勉強は、特別良いわけではない。

言葉の差もある。

発音も、文法も、少しだけずれる。


だけど。


「お前、それ違う」


体育の時間になると、一変する

一瞬の動きで、相手のバランスを崩す。


「……え?」


「今の、こうだろ」


再現する。正確に。

無駄がない。


(……速い)


(何だ今の?)


(全然見えなかった)


運動になると、別だった。

体の使い方。

反応。

間合い。


どれも、この学校の“型”とは違う。

しかし、それが、目を引く。


「なあ、もう一回やってくれよ」


声がかかる。


「ん?」


拓海は普通に振り返る。


「いいけど?」


特別扱いはしない。

誰に対しても同じ。


それが、広がる。

少しずつ、ほんの少しずつ。

周りの雰囲気が変わっていく。


ーーーーーーーーーーーーーーー


「タクミ」


突然、呼ばれる。

拓海は振り向く。

別の生徒だ。


「これ、どう思う?」


「んー……」


考える。

言葉は少し不安定でも、

答えはまっすぐだ。


「こうじゃね?」


答えはいつもシンプル。

でも、わかりやすい。


「……なるほど」


周りは納得する。

距離が、また縮まる。


気づけば、

その周りに、いつも人がいた。


拓海は特別なことは、何もしていない。

ただ、誰にでも同じ距離で接する。

いつも、それだけ。


ーーーーーーーーーー


遠く

校舎の影。

エドワード・ハミルトンは、それを見ている。


近づかない。

声もかけない。

ただ、見る。



拓海は、笑っている。

誰かと話している。

また別の誰かが来る。

自然に、受け入れる。


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


(……また、増えているな)


小さく、思う。

自分とは違う。


エドワードは、選ぶ。

必要なものだけをきりとって、

不要なものは切り捨てる。


ーーーーーーーーーーーーーーーー


拓海は、違う。

選ばない。

来たものを、そのまま受け取る。


その違いを、ただ見ている。


ーーーーーーーーーーーーーー


「タクミ」


エドワードが呼ぶ。

ただ、一言。

それだけ。


人の輪が、わずかに動く。


拓海が振り向く。


「ん?」


いつも通りの顔。


「来い」


短く言う。


「今か?」


「今だ」


「お前なぁ」


小さく笑う。


それでも、拓海は輪から抜ける。

そして、当然のように

エドワードの隣に立つ。


距離は変わらない。

後ろで、小さなざわめきが残る。


だけど、それはもう、

遠巻きのものではなかった。


ただ一つ、確かなことがある。


人が集まる中心と、

人を寄せ付けない中心。



その二つは、なぜか同じ場所にあった。


ここまで読んでいただきありがとうございます。


悠馬君の父、佐伯拓海と、ノアの父、エドワード・ハミルトンのお話です。


いいねや感想など、いつも励みになっています。

この話もゆるく続いていく予定なので、

また気が向いたときに覗いていただけたら嬉しいです。

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